141話 夏フェス②
どうにか隙間を縫い、塔の様子が見える所までは来れた。
英傑の路を使ってズルしようかとも少しだけ思ったが、装具無しで登るのは大変だし、なにより業務時間外の使用はおそらく違反だ。
10時、開幕の時間。
それは時計を確認せずとも、変化として報せがあった。
街中に設置された装置が起動し、大通りの真上に足場を生成する。
ほとんど透明だが、日光が屈折し時折きらめく。
その上を駆けていく人影ふたつ。
報道誌で見たのとは違う黒い衣装だが、ジェミナイツの2人だ。
剣も妖しい紫色で染められ、きらめく軌跡を残していく。
その行く先、塔の周辺に立ちはだかる人たち。こっちは対照的に白い衣装で統一されている。
親近感を覚える装備の甘さ、おそらく新人だろう。
白側勢力が各々の得物や術で、黒の2人を迎撃する。
それらを黒の2人はいなしたり回避しつつも、猛攻の前に撤退する。
黒側を悪役に据えた演劇仕立てのようだ。
そこからは白役も黒役も目まぐるしく交代し、攻防が繰り広げられる。
術も普段より派手さ重視にされてるようで、舞台の中心である塔広場から離れたここでもよく見える。
轟雷が走り、つららが落とされ、剣技で砕かれ。
そして白側が巨大な炎弾を放つ。
しかしそれは、散り散りに反射される。
突風に舞う木の葉のように、塔に向けて浴びせられる。
反射主はテムスさんだ。だけど得物の様相が違う。
ベースは棍だが、大きくなびく布状の部位。棍というより、旗と呼んだ方が近い形状だ。
しかし炎は塔までは到達しなかった。
透明な壁に阻まれ、脇に流れ霧散していく。
炎に照らされ反射し、塔そのものがまばゆく輝いてるようだった。
光が収まり、その中央で白い鎧の人がゆっくり立ち上がる。
そして、黒の勢力に向けて剣を向ける。