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14話 レミレニアの酒場②

 背負い鞄に詰まった荷を抱え、見慣れ始めてきた大通り。

 だけど薄暗くなってきたこの時間帯、人の少ない広さに心地いい風がよく通る。


 うろ覚えの目印を辿り、戦果を酒場まで。

 ラディの捕縛のお陰でツノネズミ狩りは非常にはかどり、回収したツノで荷物がありがたくも重い。しかも厄介そうなのは先にと最初に集めたせいで、その後の薬草採取の間もずっと担ぎ、そろそろ足が限界だ。ラディには薬草全般を持ってもらってて、これ以上持たせる訳にもいかない。

 酒場が見えてからは、短くも長くも感じる時間だった。荷物を全部まとめて納品、査定待ちで席について、やっと一息。

 ついでに軽食販売で手頃なパンを一品。


「だいじょうぶですか?」

 ラディのその言葉で、ふと我に返る。

「あぁ、ちょっと疲れてただけだ。へーきへーき。

 ラディの方こそ平気か? 結構な量持たせちゃったけど。」

「あれくらいなら、ふだんから運んでるので。

 …それにしても、にぎやかですね。あさに見たときよりも、ずっと。」

 笑い声と歓声の止まない宴、それが空きテーブルを1つ挟んだ向こう側で、複数の大テーブルに渡って。

 ここまでの規模の流石にはあまり見なかったが、やってる事自体は実家の宿で見慣れた宴。

「好きなんだよ、冒険者ってみんな。

 仕事が命がけな分収入が良くて、だから豪勢に使ってお祭り騒ぎさ。」

 温度差に切なくなりつつ、包みを開けたミートパンを一口かじる。

「でも、今日から冒険者になったんですよね? さっきの『いらい』でたくさんもらえるのでは?」

「だといいんだけどねー。要求より多く納品できたとはいえ、質でどれだけ弾かれて、残りの分の追加報酬としてどれだけ増えてくれる事やら。

 増えたとしても通常報酬を見た限り、まぁ期待はできないだろうね……。」

 次第によっては十分な質の物の量が不足し減額すらある、と思うと気が重い。

「あんなに気兼ねなく使えるほど稼げるのは、まだまだ先かな……。」

「そうだぞ新入り。あんたらが儲かればアタシらも儲かるんだから、頑張ってくれよ?」

 不意の女の声に、パンを落としかける。

「ど、どちらさまで…?」

「おっと失礼。アタシはコンジュ、ここのしがない研究員の一人よ。

 新人さんが入ったと聞いてね。管理側としては、新人目線での意見が欲しいわけよ。」

 納得度の高い理由。…だけど、ちょっと漂うお酒の匂い。

「こんな駆け出しもいいとこの木板級に聞いたところで、何も言える事なんてありませんよ。

 まだこの場所に慣れるのだけで、手いっぱいですし。」

 とりあえずの回答。そこにラディが言葉を挟む。

「『もくばん』って、なんでしょうか?」

「そこの少年君が言った通りよ。

 なりたて冒険者には、安価な木板が渡されるんだよ。認証や捜索時の探知とかで使われるほか、まだ駆け出しお試し期間中のぺーぺーって証でもあるワケ。」

「ぺーぺー……。」

「とにかく、何か面白い事とか困った事があったら、相談してきんしゃい。アタシはこのくらいの時間に居たりいなかったりするから。土地に慣れたアタシらじゃ気付かない事も多いしさ。

 それにしても……」

 コンジュさんの視線が、こちらの手元に流れる。

「随分と寂しい卓上ね。そっちの子の分はいいの?」

「あー…こいつ相当な小食でね、途中屋台で買ったので十分だって。」

「そう。…でも、あんたもそうなの?」

 安いパンでもおいしいのに、と思いつつひとかじり。同時に、ラディの方からコンジュさんに1つの疑問を投げかける。

「なぜ、冒険者さんたちは、さわぐのが好きなのでしょうか?」

「彼らが言うには、『死が常に隣り合わせだから毎日を全力で楽しむ』んだとさ。

 いつ不慮の事態が起きても後悔しないように、だって。」

「……なるほど?」

「アタシからすりゃ、その金で装備や道具でも揃えたら?とは思うけど、そのお陰でアタシら上層部は稼げるから、複雑なものよね。」

 目線を反らせた浮かない表情からは、過去の苦い思い出がうかがい知れる。

「とはいえ、折角の新人の初仕事だ、寂しすぎるのもアレだろ?

 大方報酬額を見てヒヨったんだろ。アタシが出してやるから、好きなモン頼みな。」

「ほ、ほんとに? じゃあ、」

 料理メニューを見てから気になっていた一品。初対面で悪いと思いつつ、欲望には逆らえなかった。

「『スタミナシチュー特上肉セット』、お願いします!」

「い、いいモン選ぶじゃないの……。

 そんかわり、今後ともウチのギルドをよろしくな。」

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