135話 祭りの予兆③
「あれ? ここって……。」
ミレースさんの指示に従い、到着した場所。思わずそんな独り言が漏れる。
まだ把握の甘い所もあるシントではあるが、そこは印象的な場所であった。
…なんて感傷に浸っている場合ではない。
指定された場所、そこは以前、鈍色仮面に阻まれて標的を逃した場所。
思い返せばあの時、標的はわざわざこの場所を探して逃げ込んだ…ような気がする。
もしもそれが気のせいでなければ、おそらく今回も……。
「既にどこかに逃げ込んだらしい。見かけ次第即刻確保を。」
「…それ、もう手遅れなのでは?」
「喋るより動く。」
「…了解。」
要するに情報無し。となると、思い当たるのはそこしかない。
以前にも来た隙間。その時の事を思い返せば、何らかの魔術か仕掛けか、もうとっくに姿を晦ましてるだろう。
と思った時だった。直感、一歩飛び下がる。
刹那、振り下ろされる槌。
その主は格好こそ以前も見た鈍色仮面のそれだが、体格も臨戦の構えも違う。武闘派といったところだろう。
穏便に解決しそうにはない。こちらも武器を構える。
…が、乱入してきた縄に中断させられる。
捕縛される相手、二人目の鈍色仮面。二人目の方はこちらに構う事も無く、そのまま引きずられていく。
その状況に、訳が分からず対応が遅れてしまう。
「待って!」
迷った末の回答はそれだった。
だが相手がそれに応じる訳も無く、仮面越しにこちらを睨み、建物の陰へと消えていく。
何故だろう、不思議とそれを追う気にはなれなかった。