131話 束の間⑦
夜、照明も消してベッドの中。
ふと思った事が、真っ暗な中でぐるぐる回る。
今が手一杯で英傑としての事ばかり考えていたけど、そういえばこれ、一応一時的な状態なんだよな、と。
コンジュさんがレミレニアでの事を片付けて、シントに来て『現出の輪』の調整が終わるまでの。
…そういや『現出の輪』の使用感レポートを求められてるけど、諸々が片付いた後はどうすればいいんだろう。
手記を送ればいいのか? 定期的にシントに寄ればいいのか?
それとも、シントから出辛くする為に英傑補佐として?
…それは今考えても仕方ない、か。
とはいえ「人手不足」とは言ってたし、英雄補佐を継続するという話も場合によってはあるだろう。
その場合、どうするべきか。
確かに英傑としての活動は興味深いし、相対してる「鈍色仮面」の事も気にはなる。
だけど、野で魔物を狩っていた頃の事も、思い返すと恋しくもある。
仮に英傑を続けるとなった場合、レミレニアで冒険者してた時とはまた事情が違う。
冒険者はあくまで「自由である事」が基本にあった。
始めるにも軽い審査のようなものがあるくらい、ある程度の実力と良識さえあれば、なるのは特に面倒事も無く。
報酬も単純な歩合制。やるだけ稼げるし、逆も然り。怪我や天候、あるいは「気が乗らない」なんて理由でも、好きな時に休みを取れる。
それは、辞める時ですら同じ事。
だけど英傑として正式に雇われるとなったら、恐らくそうはいかない。
全く自由が無い訳ではないにせよ、色々と縛られる所は多いだろう。
少なくとも「謎の英傑」としての話題性がある内は放してはくれないだろう。ミレースさんはそういうタイプの人だ。
自分もその話題の流れは面白く思うし、話題が衰退するまで続けるの自体はやぶさかではない。
冒険の当初の目標である「歴史に名を残す」事自体はここでも可能ではあるだろう。形式上は。
だが「英傑」という存在を他で聞かなかったくらいにはローカルな話題性。しかも図書館のあの状態を見るに、過去には興味は持たれないだろう。
それに書物ではなく「聞いた」冒険譚は、当人から直に聞いた話ばかり。
そういう語り歩きも込みでの冒険者、という趣は強い。
……。
いや、とりあえずは今の事だ。
明日の活動の為にも、今は休まなきゃ。