127話 束の間④
その本には、「英傑」という存在ができる前の事から書かれていた。
事の始まりは暦3848年、今からおよそ700年前。
当時のシントは相当に荒れていた。
略奪は蔓延し日常化し、所有という考え方すら希薄だった頃。
形式上は辛うじて「街」として保っていたが、その有り様は語るに及ばず。
そこに訪れた、一人の冒険者。
彼自身、特別な事をした訳ではない。
しかし歪んだルールに染まった民にとっては、何も奪わず奪わせず、その堂々とした振る舞いは、当時の「奪われる弱者」である子供達の印象に強く残ったそうな。
そして年月は経ち、当時の子供達が大人になった頃。
その冒険者の事を忘れられない者達が徒党を組み、自警団となり。そうしてできたのが、今も名が残る「防衛団」。
動き出し革新は人を感化させ拡大し、最終的に9の隊に分かれて活動していたとか。
その働きは民の処遇に困っていた行政側にも都合がよく、公認の組織となり、より精力を広げていった。
だが、それは同時に停滞の面もあった。
街の公認組織として在り方が定められ、民にとっては目新しさは無くなっていった。
「防衛団」に守られる事が当たり前となっており、世代の交代と共に瓦解する事を行政は危惧した。
そこで行政はひとつの企画を立ち上げた。
「皆の印象に残る英傑になろう」、と。
「防衛団」の面々はこぞって企画に乗り、各々の活動は個性的になった。
それはひとつの組織とするには多岐に渡り過ぎ、更に細分化されていった。
細分化された組織ももちろん公認団体であり、それぞれが個別の活動拠点を持ち、今の「英傑」の形となる。
そうして「防衛団」のうち8隊は解体され、残った人たちが集まり現在まで続いているのが「防衛団一番隊」である。
「……大分簡略化したけど、概要はそんな感じだ。」
読み飛ばした所もかなりあるが、流れとしては大きくそれてはいないはず。
「その『防衛団』というそしきから『英傑』に移ったところ、くわしくわかります?」
「そこも書いてある…けど、大分長くなるぞ?」
本の厚さにして半分弱、一気に読み飛ばした部分だ。
「大丈夫です、お願いします。」
「…僕の方が大丈夫かなぁ……?」
気が遠くなりそうな物量だが、これもラディの為だと少し掘り下げて読み始める。