124話 束の間①
イメージしてみる。
鉄や鋼のような冷たい硬さ。
指先から石化していくような感覚。
まずは急がなくてもいい。じわりじわりと蝕まれるように……。
……。
…だめだ、イメージを完遂できない。
義手として使ってるこの道具、普段は元々の左腕のイメージを具現化しているだけで、理屈上はもっと自由に扱えるはず。
そう思って試してはみたが、実戦で扱えるレベルを目標とすると、ちょっと遠い話になりそうだ。
ずっと集中していれば、左手首あたりまでは硬質化できた、と思う。
見た目の上では金属のようになり、それでいて動かす事もできる。
けど右手で触れてみようとすると、弾けるように光の粒子に一瞬包まれ、元に戻ってしまう。
「確かめよう」という考えがノイズとなり、イメージが崩れてしまってるのだろうか。
だけど大体の感覚にはもう慣れた。
動かすのに以前ほどの違和感は無いし、刃物で傷つけてみたらそれなりに痛い。イメージし続けるのに慣れて、精度でも上がったのだろうか。
この調子で扱い慣れていけば、いずれ再び二刀も……。
…なんて自分の事はまだいい。安泰に入った上での欲だ。
問題はラディの方だ。
「どうだ、案は浮かんだか?」
「…だめ、おもいつかないです。」
ミニテーブルの方でうなだれるラディ。
その手には「英傑図鑑」の本。英傑としてのキャラ作りを、一日中思案してたらしい。
だけどそう簡単に案が浮かぶ訳もなく、今こうなっている。
「まぁ、そうだろな、英傑としてのキャラ作り決めなんて。」
自分だって専門外だ。あの一件が無ければ、今頃自分も同じような状態だっただろう。
「…分かった、明日休みにできるか聞いてくるね。」
「でも、セイルさんはいそがしいのでは…?」
「『隠密の英傑』って触れ込みなんだ、むしろあえて見ない日があってもいいんじゃないかな。
それに、僕も英傑の事は調べてみたいし。」