123話 鈍色仮面③
「備品リスト」「英傑登録票写し」といった背表紙が並ぶ中、「鈍色仮面」に関しては個別ファイルとして纏められていた。
その内の1冊を取り、手近な席を借り広げる。
その発祥は定かではないが、現在にも残る明確なシンボルが確認された最初の記録は11年前、西門地区。
そこから時間と共に確認報告のあった地域は広がり、1年もかからず街の下層全域で確認されるようになっている。
写真こそ撮れていないようだが、スケッチなら載っている。地域によって多少に違いはみられるが、大まかな特徴は一致している。
実際に見たのと同じく、仮面とフード付きローブで身元隠し。素肌の見える余地すら殆ど無く、背丈くらいしか判断材料が無い格好。
多少の服装の違いなどはみられるが、同一組織と言うには十分だとは思える。
彼らは名乗る事は無かったが、便宜上で呼んでいた「鈍色仮面」という名がいつしか定着した、という経緯だそうだ。
活動としては、表立って大きな事をした記録は少ない。
その大半はまさに今回遭遇したのと同じように、他の犯罪への助力というもの。ひとつひとつ個別で見ればささやかな活動だが、厄介事には変わりない。
目立つような記録としては、英傑の活動に割り込み対峙した記録もある。大衆の関心があるのはこちらの方だろう。
英傑と互角の戦いを繰り広げるさまは、世間の話題とするに十分すぎたことだろう。
加えて希に小規模な活動拠点を取る事もあり、その制圧は英傑活動の大イベントのように書かれている。
だが肝心な本拠点調査に関する情報は一切見当たらない。鈍色仮面の方が上手なのか、調査側が甘いのか。
発見報告の一覧は載ってはいるが、特に情報を整理された形跡は無く。
残りのページは無数の発見報告の羅列なのをぱらぱらとページをめくって確認し、ファイルを本棚に戻す。
確かにこの資料を見た限り、鈍色仮面の目的は分からない。
けど、そこまで「悪」という印象も無かった。やってる事は主に自衛だ。
とはいえ犯罪の手助けをしてる以上、悪ではある事には変わりないけども。
……。
こうして考えても答えなんて出ないと分かっていても、どうにも気になって仕方がない。