121話 鈍色仮面①
「そのまま南方に行くと、右に渡り道がある。そこを曲がって直進、4本目の通りだ。」
「了解です!」
耳元のデバイスからのミレースさんの声。その指示に従いながら、屋上を渡っていく。
指示されたルートはやや遠回りだが、人通りが少なく跳躍距離も短い目立たないルート。
事情はどうあれああなった以上、そういうキャラ作りで通していくという方針だ。
そして標的もあえて表で騒ぎになってるのではなく、路地裏に逃げ込んだ方をメインとしていく。
あくまで目立ちには行かず、「たまたま誰かに見つかる」事に賭ける程度に留める、という試みだそうだ。
やがて下方に標的を確認。いつものような通行人の隙間は作られていない、犯行が周りにばれていないのだろう。
この人通りの中に降りる訳にはいかないし、そもそも普段通りに人が行き交う所に安全に降りるすべは持ち合わせていない。暫く遠目に監視する。
やがて建物の隙間で周囲を警戒、通行人で隠れるタイミングを見計らい奥へと向かう。
都合がいい。街灯2つを経由し、追跡する。
相手がこちらの存在に気付気付き、警戒する。隙でも探ってるのだろうか。
こちらが短剣を構えても、武器を取り出さない。そもそも携行していないのだろう。
しかしこうも狭い場所だと動きづらい。短い得物でまだよかった。
短剣に魔力を流し込む。黒い刀身に青い紋様が浮かび上がる。英傑支給武器に仕込まれた、催眠の術式だ。
すぐに済ませてしまおう。
そう思い仕掛けようとした時だった。
相手の背後から何かが投げつけらてくる。布?
脇に弾こうとするが、纏わりつくような布地。視界が覆われ、手間取ってしまう。
どうにか振り払い、辛うじて角の向こうに消える人影を確認する。
逃げてた人ではない。フード付きのローブに身を包み、暗い銀色の仮面で顔を隠している助っ人。
以前報道誌で見た「鈍色仮面」の特徴と一致する。
逃すまいと追い変える、が角を抜けた先にはもう人影は無かった。