120話 フライング③
「どうしよ、起こしてきた方がいいかな?」
「早く見せてあげよーよ!」
「いやー? もうちょっと待ってみない?」
翌朝、寝室からの移動途中。
なにやら三兄弟が騒がしい。
「どうしたん──」
「セイにーみてみて! すっごい事になってるよ!」
言葉を遮りながら、冊子を持った一人が詰め寄ってくる。
身長差で見づらいが、表紙は週刊報道誌のそれだ。
「一体どうし…!?」
そこには、昨日の自分の乱入が特集されていた。
題目は「謎の英傑?現る!」との事。いつの間に撮られていたのか、ナイフの子を取り押さえた時の自分の写真が載っている。
「ちょっと、これ借りていいか?」
「うん、いーよー。」
屈んで受け取り、目を通す。
気が急きじっくり読む余裕は無く、大まかな概要だけ確認する。
こうなった原因は、記事によると「物珍しさ」らしい。
英傑といえば、大きく名乗りを挙げてアピールをするもの。一般にもそう認識されてる。
しかしあの時、自分は一言も発さずに事を片付けた。前例がほとんど無いその事が、大きく興味を引く要因らしい。
その後テムスさんの到着で事は把握できたはずだが、そこまで居た人は少ないらしく、「謎である」という話ばかりが膨らまされている。
「これは……?」
「今回の事を火種にして、今一度盛り上げたいんだろうよ、興行的には。」
そう割り込んできたのは、ミレースさんだった。
「それってどういう事なので?」
「最近マンネリが続いてたからな、英傑事情。ちょっと珍しい事しても、続かないか、もっと強烈な個性が上に居て埋もれるか。」
「けど、こんな単純な事でそんなに?」
特に変わったスキルも必要無い、些細な事。本当にそんな事だけで?
「先入観だよ。英傑は人気取ってなんぼ、その為には名乗りは必須、ってな。
あるいは思いついたとしても、そんな博打みたいな事はしたくねぇってのもあるだろうな。」
「けど結局『謎』とされたら知名度も何も無いし、本末転倒なのでは?」
「便宜上『人気度』と呼ばれちゃいるが、採点は民衆がするもんじゃねぇからな。別に名や所属がは周知されなくても問題ねぇんだなこれが。
それも先入観の一つだよ。」
「…なるほど。」
「ま、丁度いい頃合いだろ。
こっちの作業ももうじき片付く。お前らもこの街に慣れてきたろ?」
「それってもしかして…?」
「ラディも連れてこい。今後のプラン組むぞ。」