114話 英雄特訓④
一山読み終わり、次の山を開けるか中途半端な時間。
そこに「都合がいい」と言われて荷運び手伝いしつつ。
挙句、買い出しなんかも頼まれたりして。
リストには事務雑貨や食料といったラインナップ。
手持ちの地図には目的地が追記されている。書き込みまみれで分からなくなる前に、地図無しでも動けるくらい慣れなきゃ。
空は暗くなりはじめているが、街は魔術的な明かりで照らされている。
リストを再確認しながら戻ってきた時、丁度屋上を飛び移る二人の姿があった。
「買い出し、ただいま戻りました。」
「ごくろ。
荷物はてきとーにテーブルに置いといて。」
荷物を置き、釣銭を渡してる所で後方から足音。そして部屋に響くテムスさんの声。
「現場動隊テムス及びラディ、只今帰還しました!」
「ん、ごくろ。」
ミレースさんが簡単な確認だけして、手元の作業に目を戻す。
「その様子なら、明日も行けそうだな。」
そんな傍ら、テムスさんの関心がこちらに向く。
「はい。早上がりになってしまい、すみません」
「いや、いいさ。安全装置ありきとはいえ危険が付きまとうのは変わらねぇし、慎重なくらいでいい。
だが余裕があるなら、少し時間いいか?」
3階建ての屋上、周囲の屋根が平地に見えるその高さ。
暗い空、下方の路を照らす明かりが建物の隙間からあふれ出る。
その中でここだけ屋上も照らされ際立ち、自然では見られない神秘的な舞台となっている。
「『実力が見たい』と言われても、今はまだ……。」
下の階で借りた模造の短剣を、軽く弄んで感覚を確かめる。刃の代わりに催眠の魔術が刻まれた、英傑用の武器らしい。
「お前が…その、なんだ、『本調子』じゃねぇのは手紙で知ってる。
だが、それでも手合わせしてみてわかる事もある、だろ?」
その理屈は分からない。が、現状でどれだけ動けるか試してみたいのも確か。
テムスさんの道具が展開し、純白の棍になる。
模擬戦とはいえ久し振りの戦闘、それも対人戦だ。少し緊張してるのを感じる。
「分かりました。
どこまでやれるか分からないけど、よろしくお願いします。」
「いざ!」