109話 活動拠点②
翌日、2階の広間。朝食のパンの山を囲んでのミーティングだ。
…とは言っても自分達の他は昨日見た5人だけ。テムスさんとミレースさん、そして1階で見かけた猫人3人組。
昨日は疲れであの後すぐダウンしてしまい、一晩熟成された攻めの手は激しかった。
「セイルさんにラディちゃん! 新しい仲間!」
「だからあくまで一時的な補佐だって。」
「ごめんねー、さわがしくって。」
テーブルの向こう側から昨日の猫人3人がぐいぐいと身を乗り出している。
「その、昨日は挨拶もできなくてごめんなさい。」
そんなラディに対し、さらにたたみかける。
「いーのいーの、忙しかったみたいだし。
ボクはムゥ、でこの2人がきょうだいの──」
「ウチはスゥ!」「オレはタァだ!」
3人とも顔から服装までそっくりで、当面見分けが付きそうにない。
「ラディちゃんのおてて、つめたーい!」
三兄弟の一人の手が触れ驚く。
こういう時の対処は考えておいて、ラディにも伝えた。大丈夫だ。
「くわしくは分からないけど、氷魔法を使うのがかんけいしてる、らしいです。」
「へー。」「へんなのー。」「かわってるねー。」
3人とも興味津々で、差し出されたラディの手に群がる。
ラディも乗り気で、とりあえず一安心。
「あの子たちも隊員、なんだよね?」
向こうは向こうとして、こっち側の2人に投げかける。
「あぁ。ああ見えても立派に優秀な探知担当だ。
そこら辺も合わせて、ちょっとした説明があるってさ。」
テムスさんの返答に続き、ミレースさんが話し始める。
「ま、テムスの昨日の活動を見たなら大体察しは付いてるだろうが、大小問わず犯罪を取り締まるのが私ら『英傑』だ。
でかい拠点潰しでもありゃ派手な事もするが、基本は細々としたもんだ。
そこで先駆けとして動くのが、あの三兄弟だ。
軽度の事ならその場で対処、助力が欲しい時はテムスが駆けつけるって仕組みさ。」
「テムスさん…が一人で?」
「言ったろ、新設で人手不足だって。
片付けなきゃいけない事務作業も多いんだよ。あたしも分担できるもんなら、とっくにやってるさ。」
と一層だるそうに頬杖に体重がかかる。
「で、あんたらに担当してほしい事は、だ。
まずはテムスの手助け。3人からの情報の取捨選択、活動の円滑化。
それで『道』に慣れて自由が利くようになったら、別働で戦力になってほしい。」
「それ、補佐の域を超えてないです?」
「名目なんてどーだっていいんだよ。名声上がれば給も上がる、だからまず名を売らなきゃならない。新設部隊の一番めんどいとこだ。
だからまずは地理に慣れろ、そこからだ。」
「ところで、部屋はひとつで良かったのか?」
次のパンに手を伸ばしながら、テムスさんが尋ねる。
…多分、ラディを女の子と思われての事だろう。そう思われやすいなら、そういう事で通した方が円滑そうか。
「え、あー…うん。
まぁ、前から同じ部屋でだったし、大丈夫。」
「分かった。二人がそれでいいなら、俺が判断する事じゃねぇな。」
「ラディも、それでいいのです。」
逆サイドからラディが返答。
…あいつに関しては、そんな深く考えてなさそうだな。