107話 英傑のいる街シント③
塔に続く大通りは、更に華やかだった。
異国の建築を模してるのだろう、統一性の無い飲食店の並びは、建物そのものが看板かのよう。
一見古く見える建物も、よく見ると建材が新しい。設計者のこだわりデザインだ。
これだけいい所に構えれる店だ。巡って回りたいし、近くで宿取れるといいな。
進むにつれて店の並びも変わっていき、服装や装飾品といった店が目立ってくる。
実用とはかけ離れたファッション系のそれらは、あまりにも縁遠い世界に感じてしまう。
…そんな考え方も、無粋なのかなー、とも。
待ち合わせの塔付近、程よいスペースを見つけ、一息つく。
落ち着いて周囲を見てると、行き交う人々の様相もまた変わっていた。
徒人もではあるが、猫人もしっかり着込んでいる。レミレニアで多かった薄着の猫人とは大分印象が違う。
「よっ。悪ぃな、思ったよりかかっちまった。」
しばらくしてテムスさんが合流、移動しながら話し始める。
「改めて自己紹介といこうか。
俺はテムス・プラーネ。チーム『疾風迅』で英傑やってる。
お前らは?」
「僕はセイル、そんでこいつはラディ。レミレニアで冒険者やってた。
それで、『英傑』っていうのは一体?」
兎にも角にも、気になるのはまずそこだ。
「大体はさっき見た通りだ。さっきみてぇな悪い奴らを制圧し、捕まえる。
ああいうちょっとした盗みならまだしも、中には武力行使する奴らもいるからな。
そういった脅威から市民を守るのが俺達『英傑』ってわけさ。」
「周りのひとたちも、かなり信頼してるように見えました。」
「まぁな。『何かあっても助けてくれる奴がいる』、そういう安心感を与えるのも英傑の役目さ。」
『過去の物語』ではなく『現存する者』という英雄像、か。
冒険譚という形ありきで考えてた自分には、無かった考え方だ。
「じゃあ、外の魔物はどうしてるのです?」
「外は『冒険団』の奴らが張ってくれてんだ。いくつか砦を構えてな。
馬車引き家畜な魔物くらいは街まで通されるが、それも外周の厩舎で預かられるから、中には魔物は入れさせはしない。
内と外で守り絶対安全を、ってこったな。」
「ところで、今向かってる先って一体?」
話の区切りを見計らい、ずっと気になっていた事を。
「あぁ、その荷物を見るに、宿探しとかまだなんだろ?」
「まぁ、はい。」
「だったら丁度良かった。空き部屋なら当てがある。」
「空き部屋? 英傑っていうのは宿の事情まで把握してるのか?」
「いや、だが丁度到着だ。」
そして到着した建物。入り組む中深く入り込んで、道も狭くなった所の一棟。
「ここが俺の所属する『旋風陣』…英傑支部拠点だ」