106話 英傑のいる街シント②
「この一件、我ら『旋風陣』が貰った!!」
流れに思考が追い付かなかった。
何故人が降ってきたのか、この人が何者なのか、そして誰もこの状況を疑問に思わないのか。
とか考えてる内に、盗まれていた小物袋を手渡される。
「あ、ありがとう…ございます。」
「ほらよ。不用意な持ち方するんじゃねぇぞ。」
「あ、待って!」
盗人の子供を肩に抱え去りかけた所を、ギリギリで引き留める。
まさかとは思いつつ、思い当たった事を確認する。
「もしかして『英傑』の?」
「あぁそうさ。英傑の一角、所属は『旋風陣』だ!
この街は初めてみてぇだが、何か困り事か?」
「人を探してるんだけど『英傑の人に渡せばいい』とだけ聞いてて、仲介をお願いできればと。」
取り出した手記を相手が受け取り、宛名を確認。そして、驚きの表情。
「お前、随分と運がいいみてぇだな。
この宛先の『テムス・プラーネ』っての、この俺の事だ!」
「…えぇっ!?」
『英傑』がどれくらいいるのかは分からないが、シントの規模からして、決して高い確率ではないはずだ。
「差出人は…なるほど、あの人か。
用があるのは分かった。が、先にこっちの事片付けねぇとな。」
そう言い、担いでる子供の方を視線で指す。
「時間的にもそろそろ上がりだし、後で改めて塔の前で落ち合おう。
じゃ、後でな!」
「なんというか…ゆかいな人?でしたね。」
塔に向かう大通りの道中、ラディがつぶやく。
「でも、見てる人達はは安心しきって見物に回ってた。
道を空けてたのも『英傑に任せた方が確実』っていう信頼の総意なんだろうな。」
過去の物語としてではなく、現存している事に意義がある存在、か。
考えた事も無かった事なだけに、興味が湧いてきた。