105話 英傑のいる街シント①
シントの街並みは、壮観だった。
見渡す限り背の高い建物、せわしなく行きかう人々。
あらゆる規模感に圧倒され、ふらふらと歩を進める。
並ぶ角ばった建物は、なんだろう、どれも似ていて外見から役割が推測できない。
進む程に建物の背が高く、道幅が広くなっていってる辺り、街の中心部には向かえているのだろう。
ラディも人の流れを避けるので精一杯。手を引き歩調を合わせ、どうにか進む。
しかし英傑と呼ばれる人達の事について「見れば分かる」とは言われたが、だからといって手掛かりがある訳でもなく。
なるべく人通りが多い所を…とも思ったが、どこも等しく人通りが激しく探す指標足り得ない。
漠然と歩くのも好ましくない、と目指す先を決める。各所に点在してた大きな塔。あれだけ目立つ作りなら街の要所である、そう読み、大雑把な場所の記憶を頼りに塔を探す。
地図が入手できれば収穫だし、そうでなくても途中で一晩泊まれる宿を見つけられればとりあえずはしのげる。
そうしていくらか進んだ先の交差点。一際広い大通りの先に目標発見。
しかし人通りもまた一際多い。無秩序に行き交う人の波、塔に向かう流れにどうにか乗る。
ラディがはぐれないか気にしながら、人にぶつかりそうになりながらも進んでいく。
「ご、ごめんなさい!」
「いや、僕の方こそよそ見を……。」
そしてどうにか中間の広場が見えてきた。
一旦休憩がてら、どこかで晩飯とでもできないかと探る。
…無い。
財布も仕舞ってあった小物袋が。
まさか、と思いながら後方確認。
人込みの中、不自然に急いでる姿。さっきすれ違った人だ。
真偽確認の余裕は無い、その子供を追いかける。
「待てっ!」
交差点を曲がり、人通りが少ない所へ。
…いや違う、通行人が脇に避けている。それも先の方まで。
見通しが良くなり、小物袋を握ってるのが見える。
遮るものが無い、距離が縮められない。
自分の魔術はまだ本調子ではないし、何よりこんな所で炎を扱う訳にもいかない。
全力のラディなら届くだろうが、こんな人目のある所で姿を崩させる訳にもいかない。
体力負けするつもりは無いが、土地勘の利は雲泥の差。
この状態からどう距離を詰めるべきか。そう考えたタイミングだった。
「『派流──」
上空から声、焦り様子の盗人。
「──独楽落とし』!」
突如吹く風、降って割り込む人影。
盗人が真正面から弾かれ、宙に放られた小物袋を乱入者がキャッチする。
「この一件、我ら『旋風陣』が貰った!!」