103話 新天地への旅路②
空の景色は、見て飽きなかった。
街なんてすぐに北端を過ぎ、森に入り。
かと思えば角塔が横たわる平地に到着し。
空から見て改めて思う、「横たわる角塔」の広さ。
囲う森の向こう端が遠い。以前見た地図と想像で合わせると、レミレニアの半分ほどの面積になるだろう。この1ヶ月程で探索した街の範囲よりも、よっぽど広い。
これだけの冒険の余地を去るのは名残り惜しいが、一旦シントに行くだけだ、用が済んだらまた戻ってこれる、と割り切る事にする。
再び森に突入し、川沿いに進んでいき。
やがて平地に出て、地表に残っている道を頼りに滑空していく。
「問題など、起きてはおらぬか?」
ラディのものでも、エンのものでもない声。
音というよりは、思考に直に響くような声。
そういう「魔力の声」の事は、話に聞いた事があった。
「もしかしてディエル…さん?」
「大事無くば、ここまでの調子で進もう。
それと、敬称など要らぬ。その腕の事の原因ぞ。」
「悪意があったならともかく、別に状況が状況だった訳だし。
むしろこんな籠引きをさせて、悪いと思ってるくらいだよ。」
「それは一向に構わぬ。私はエンの所有物だからな。」
「『所有物』? それってどういう?」
「また勘違いされそうな言い方を……。」
そうエンが言いため息ひとつ。2人にとっては毎度の事なのだろう、と察しが付く。
「いまさらだけど、どういう関係なのか、興味はあります。」
ラディの質問に、エンが答える。
「私は山の集落出身でね、そこで出会ったのがディエルだった。
ディエルがふらっと近場にやってきて、ちょっとした騒ぎになったの。」
「定まりの地を求めたどり着いたのが、その集落の付近でだな。だが集落の者に危険とみなされ、討伐の対象とされ。
当時は力が全てと思っていてな。慢心して場所を勝ち得ようとしたが、数に押され虚を突かれ、逃走し隠れるのが精いっぱいだった。」
話を継いだディエルに、ラディからの問い。
「…勝てなかったのです?」
「無論、全力ならば一掃するのは容易かっただろう。だが、その地の一部を使いたかっただけだ。滅ぼす利より、不利益が大きい。
だが圧倒するつもりで挑み、思惑は外れ、無様な結果だ。尊厳は砕け散り、私は自身の価値を見失っていた。」
「そこで出会ったのがエンさん、と?」
「あぁ。子細は省くが、内輪の問題との事だった。
エンは私に価値と必要性を見出した。無為な時間を過ごすよりはまだ価値がある、と私は話に乗った。
その時から私はエンの物として過ごす、そう決めた。」
今やそんな浅い関係ではない事は、見て明らか。
それでもそれを形式上の立ち位置とするのが、彼女なりのスタンスなのだろう。
「そんなに強さがだいじ、なのです?」
「竜と人とでは、本能的な価値観が違うと聞く。
理解は強要できぬ。そういうものと思えばよい。」
「…なる、ほど。」