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102話 新天地への旅路①

 そこからの事の準備は、目まぐるしかった。


 というよりは、エンと研究側との間で既に移送の話がついていて、そこに便乗する形でついでに、といったようだった。

 解散を決めたのが一昨日、日程を聞いたのが昨日の戻り道でだった。

 元々持ち物は少なかったが、不用品の処分や携行食の確保、貸し部屋やギルド絡みの手続きにと、午後はせわしなかった。



 そして荷物の最終確認、忘れ物なし。

 キャンプ用品を処分した分、来る時の荷物よりかなり軽くなった。

 銀板証はギルド脱退と共に返却し、代わりに付けた「護剣」の刻印のプレートが朝日で煌く。


 そして向かった待ち合わせ場所。

 広く場所が取られたそこに、皆既にそろっていた。

 エンにハルドレーンさん、そしてディエル。

 …あれ?

「何でハルドレーンさんが?」

「本来ならばコンジュが同行する予定だったのだが、今回の一件の資料整理作業が思ったより膨大で間に合わなくてな。だから先に手紙と共に送り出して、当人は後で別途シントに向かうそうだ。

 それで、ついでの用もあって、私が見送りを買って出たのだ。」

 そう言い、封書を手渡される。

「シントには『英傑』と呼ばれる者達がいて、その中に頼れる知り合いがいる。私からの頼みとなれば手を貸してくれるだろう。

 『英傑』がどんな者なのかは見れば分かる。その誰かにこれを渡せば、後の事は任せればいい。

 コンジュ側からの伝達とかもそこに届くようにすると言ってたし、何よりもセイルにはいい経験になるだろう。」

「ありがとうございます。

 けど、そこまでしてもらっていいので?」

「『偶然をものにした者が英雄たりえる』、と前に言ったな。

 この短期間で成し遂げた事、実力あっての事だろう。だが、その機を寄せた運もまたひとつの才能、と私は思う。

 その行く先をもう少し後押しし、見てみたくなった。それだけさ。

 また会える日を、楽しみにするとしよう。」



 そして、さっきから気になってた奥の2人へ。


 こうして落ち着いて見てみると、ディエルは一層美しかった。

 座して畳まれた四肢と翼には静かな強かさがあり、対比のように爪は鋭く。

 純白の鱗は、そこに刃を立てずに済んでよかったと安堵を覚える。

 細い瞳孔の黄色い目は、穏やかにこちらを見ていた。


 その身には既に竜用のハーネスが装着されており、乗り場所であろう箱に繋がっていた。

「これが、昨日言ってた?」

「そ、『浮籠』。馬車の竜用版ってとこね。

 これなら1日でシントに着く手筈。」

「…一応として確認するけど、調子は大丈夫、なんだよな?」

 その問いかけに、迷いなくディエルがうなずく。

 そのまま席の方に目をやり、乗りな、と示した。



 竜と関わりはじめたからこその文化、伝承にもなってないほど新しい移動手段。

 ちょっと気持ちが湧きたってきている。


 エンが前の席に乗り込み、操作盤を動かす。

 わずかに煌く透明な壁が発生し、席を覆う。籠が浮上し、少しの揺れののち、水平に安定する。

 エンが魔術で指示したようで、ディエルが籠を引き、助走をつける。

 景色の流れが速くなっていく。がくんと一発来た衝撃を、手すりにつかまり耐える。


 揺れがおさまり、外に目をやる。

 見渡す限り、広々とした空。

 さっきまでの景色は、とっくに籠の下だった。

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