おばあちゃんのおにぎり
おばあちゃんの手は、熱いのが平気だ。
湯気の立つ熱々ご飯を素手で持って、おにぎりを握ってくれる。
五歳だった私は聞いた。
「おばあちゃん熱くないの?」
「ああ、平気さ。歳を取ると鈍感になるもんだ。」
おばあちゃんの手が海苔をするするっと巻くと、美味しそうな三角のおにぎりが出来上がる。
「あったかいおにぎりの方が美味しいからね。」
そう言って、おばあちゃんは私に笑った。
***
今日の弁当は、実家の母が手伝ってくれた。
私の娘の運動会に持っていくのだ。
「お母さん熱くないの?」
母は手のひらに薄いラップをのせて、その上に熱いご飯を盛る。
「あら、このくらい大丈夫よ。」
熱いご飯は手の中でラップごとくるくるっと三角になっていく。
小さな娘は、私の母の作るおにぎりを見てはしゃいでいる。
「今まで沢山おにぎり作ってたから慣れてきたのね。」
母はそう言って、私の娘に笑った。
***
「ばあば、熱くないの!?」
可愛い孫が叫ぶ。
私は熱々ご飯を手に乗せて握っていく。
「そうだね、熱くないよ。」
「あのね。お椀とお椀で、こうやってはさんで、フリフリすると熱くないよ。」
孫はジェスチャーを交えて教えてくれた。
「それじゃあ、三角のおにぎりはできないでしょ。優しく握った方がおいしいんだよ。」
私は手際よくおにぎりに海苔をまくと、孫の前に置いた。
孫は嬉しそうに、私の握ったおにぎりを見つめる。
「すごいね!」
分かった。おばあちゃんも母も、この嬉しそうな顔を見て、自分も嬉しくなったんだ。
私のこの手は、この嬉しそうな顔のために強くなったんだ。
「私もちゃんと、おばあちゃんの手になれたんだわ。」
私はそう言って笑った。