戦闘狂の本領
体調を崩しました。
先に動いたのはフウカだ。先の戦いと同じように一気に間合いを詰め槍のリーチギリギリの位置で急停止、しかしそこで動きを止めた。
フウカは至近距離で構えを維持したまま、独特な足さばきで左右へ不規則に滑るように移動し始めるも、しかし攻めずに一定の距離を保ち続ける。
「成程、コウロも警戒しているな。普段のあいつからは考えられん程構えに隙が無い。」
「そうなんですか?」
「あぁ、コウロはどうしようもない男だが、それでも実力は本物だ。当たり前だがある程度の槍術も修めている。
見ろ、槍の穂先が常にフウカくんの首元を常に捉えているだろう? 何とか逸らそうとはしているようだがフウカくんも攻めあぐねているようだ。」
そう言われ見てみると、なるほど確かにコウロの木槍は常にフウカを捉え続けている。その堂々とした姿は間違いなく達人だ。
そんな均衡を打ち破り、先に動いたのはフウカだ。
先ほどまでとは比べ物にならない程の速度で踏み込むと、木槍先に首が触れるか触れないかというギリギリの位置から、その間合いに素早く侵入する。
コウロもそれに対して対応するように柄で打ち付けようとするが、コウロの槍を読んでいたのか四つん這いになり尻尾で絡めるように柄を掴んだ。
その槍を奪いコウロを無力化させようとするフウカだが、余程力が強いのか奪い取ることが出来ない。
そこへコウロの膝蹴りが飛ぶ。
「フウ!」
「相打ち……いや、ややコウロが優勢か。」
フウカは身を捻ったようだが、その膝は横っ腹を少し掠った。
その身体のひねりを利用したフウカの反撃の蹴りはコウロの右肩に吸い込まれ、しかし膝蹴りを掠ったことによるバランスの崩れが原因か、思ったような威力が出ていない。
お互いに距離を取るフウカとコウロだが、互いに軽傷とはいえダメージの度合いが高いのは間違いなくフウカだろう、横腹に軽く手を当て眉を険しそうに顰めている。
「俺、行った方が良いんじゃないか……フウ、合図出すなら早く出しなよ……?」
俺は心配から思わず声に出しながら、リードの両端のみを実体化させて軽く刺激を送る。
横目に俺を見るフウカ、その顔に僅かに笑みを浮かべながら首を横に振ると、その笑みをより獰猛なものへと変化させた。
「む、なんだ、意外と余裕そうじゃないか。」
「あ……戦闘狂スイッチ入った……?」
フウカは両手をもとの位置に戻すと、その場で何度か軽く跳躍をする。身体の不調がない事を確認し、未だ構えの状態を保持していたコウロに肉薄した。
コウロの反撃の蹴りを逸らし、槍の柄を紙一重で躱すとそのまま反撃へと移る。
小さな体躯を駆使した素早い動きで、身体全体の筋肉をしならせあらゆる方向から攻撃を繰り出し始めた。
身体を捻り放たれた拳は重ねられるように引き戻された槍に防がれるも、そのまま上段蹴りに移行、その後も流れ回るような動きでフウカのラッシュは止まらない。
常に強いられる対応の取捨選択は徐々にコウロの余裕を無くしていく。
突然だが、テンションが上がると人はどうなるだろう。
俺は人によって二つに分かれると思っている。
思考が散じて動きが本能に寄るタイプ、そして心は熱く思考は冷たくを体現してよりパフォーマンスを
向上させるタイプ。
昔から、フウカは後者である。
そんなフウカのまるで独楽のような動きのラッシュに隣のヒルトが思わず呟いた。
「……あれは、何という拳法なのだ?」
「もう、混ざりすぎて訳わからない動きになってますね……多分もう拳法というか、フウ独自の動きになっちゃってます。」
フウカは天才であるがその天才たる所以は何かと問われると、基本的な総合力が過ぎれているのもあるが驚異的な記憶力と応用力だと俺は答える。
二桁の加算を覚えたらそのまま二桁の乗算まで出来るようになっているし、試しに元素番号を暗記させてみたら10分ほどで全部覚えてしまった。
天才肌のフウカのそれは、体術においても同様だ。
自分用に買い与えて貰ったパソコンで世界中の武道の動画を見漁り、その動きを何度も見返し暗記して、時々実際に身体を動かしてみたりして応用、自らに合うように改良していく。
日本ならば実際に戦う機会というものは少ない為その発達が阻害されていたが、こちらに来てからは難敵であるなしに関わらず戦いの連続、実際に拳を行使する日々に、それは進化を続けているのだ。
実践とは練習と比べ物にならない程の成長をもたらすものである。
そして、跳ね上がった身体能力と尻尾という五つ目の肢体に、動きの幅は大きく広がった。
力を籠めるには手足のどこかで自分を押して力を乗せる必要がある。それには手足を地面に付けるしか無かったのだが、今では尻尾で代用できる。
結果がこの止まらない連撃だ。本来それ以上の追撃が不可能な体制でも尻尾や向上した身体能力で無理やり補う。
避け、突き、蹴り、そして追う。相手からしたら反撃の隙が無いのだ。
これ以上どうしようもないとヒルトは判断したのか、俺に提案をしてきた。
「コウロは確かに火面、下から三番目の位ではあるが、その実力は水面の最下層に迫るものがある。
素行調査に引っかかって未だに昇格は出来ていないがな、実力だけは確かだ。
そんな中そのコウロを半ば圧倒しているフウカくんの実力は計り知れない、しかも本来は君とのタッグだと聞いている。
このままだと、本来の目的である君たちの戦闘能力を測ることが難しい。
ラインくん、今からでも出てみないか?」
ヒルトさんのそんな提案に、俺は首を横に振って拒否を示す。
フウカの思いは尊重したい。
「いえ、俺はフウに呼ばれるまでは出ませんよ。もしくは危機的状況が迫ったときですね。」
「そうか……なるほどな……ならば、やむを得ないか。」
「え? どうしました?」
「いや、何でもない。とりあえずはこの決闘の行く末を見届けようか。身体能力においてはコウロに分があるようだし、もしかするとまだフウカくんが負ける可能性もあるからな。
だが余分な力を籠め過ぎだな。見ろ、コウロが槍を振り下ろした先の地面が線状に陥没している。」
舞台へと目を戻したヒルトに、俺も同じように目線を元に戻した。
今もフウカの攻めを必死に耐え凌いでいるが、時折反撃も行っている。
その反撃は一撃一撃に必殺の威力があるようだが、当たらなければ意味はない、寧ろ逆効果だ。
「コウロに隙は確かに無かったが、無理やり隙を作らされては意味がない。それが分かっていない時点で、あいつの負けか。」
「まあ、攻撃中はどうしても身体が開きますからね……。」
振られた槍の風圧に押されたような動きで回避するフウカだが、その回避行動には必ず手足が付属してくる。
槍を突き出せば拳が、薙げばつま先が、振り下ろせば回転しながら尻尾で殴打、徐々にその身体にダメージを蓄積させていった。
「限界だな。」
ヒルトの険し気な声と共に、コウロの手から木槍がすっぽ抜けてしまう。そんな大きな隙を見逃すフウカではなくすぐさま身体を転身、片足を縮め蹴りを放つ体勢へと移行する。
……だがその時、コウロの手が不自然な動きを取った。槍を手放し、その手は素早く胸元へ伸びて……。
「……ッ!」
「ヒルトさっ……ん!?」
隣で座っていたヒルトの姿が忽然として掻き消え、瞬間周囲に強風が巻き起こった。
思わず片手で目を覆い飛んで来た砂ぼこりと突然の風から目を守る。腕を退け何があったのかを確認しようとするが、先ほどまでヒルトがいた場所には誰もいない。
「コウロォ!!!」
「えっ嘘ぉ!?」
消えたヒルトの姿は舞台の中心、フウカとコウロの間にあった。
待て、どうやって移動した? ここから舞台の中心まで軽く20メートル以上は離れている、この距離を一瞬で移動した……?
俺の動揺を置いてけぼりに、人から外れたフウカの足とそのフウカよりも力だけは強いコウロの腕を片手ずつで止めるという尋常ならざる事を仕出かしたヒルトはコウロを怒鳴りつける。
怒鳴りつけられたコウロの止められた手の中には、虹色の光沢が見て取れる光る銀短刀。
あれは……どういう事だ? 俺も思わず舞台の中へと駆けて行った。
「これは試合だと言っただろう! いくらお前が決闘の作法に則ろうがそれは変わりはしない!」
「あぁ、すいやせんヒルトの姉御。わざとじゃなく、ついつい手が伸びちまいまして――。」
「嘯くな!」
近くに寄ると二人の会話が聞こえてくる。すぐそばで呆然としているフウカに駆け寄ると、俺に気が付いたの飛びついてきた。
一方のコウロは地面に尻を付けており、ヒルトがその胸倉を掴んでいる。
「あ! ライ!」
「ちょ、フウ。どういう状況?」
「ん、なんかアイツ、突然懐からあの変な短刀出してきてな、危ないって思った瞬間足抑えられてた……。」
不思議そうに自分の足を見ながらそう呟くフウカを地面に降ろそうとしていると、いつの間にかコウロから手を放していたヒルトが話しかけてきた。その手にはコウロが持っていた短刀。
「すまないなフウカくん、突然止めてしまって。ラインくんにも謝罪を、君の相方を危険な目に遭わせてしまった。」
「別にオレ、それくらいの傷なら問題ないぞ。ライが治してくれるし。」
「いやそうもいくまい、何せこれは……。」
俺たちにその短刀の刃先、虹色にヌラヌラと湿っている先を見せつけるように刃の腹を見せてきたヒルトは口を開く。
「人の体内に少しでも入ろうものなら体中の筋肉という筋肉を弛緩させやがて死に至らせる、『ロカギフトの虹液』、対魔物用の猛毒だ。」
「も、猛毒……?」
「さてコウロ、弁明をして貰おうか。私は除隊命令を下す事も辞さないが?」
今までに聞いたことがないくらい冷たい声が、未だに尻もちをついているコウロに降り注いだ。
療養機関に入るため2,3日更新できなくなる可能性があります、いつも応援して頂いている方も、これから応援して下さる方に謝罪を。




