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結局

前半真面目、後半砂糖を吐きました。

「本当に申し訳ない、うちの者が礼節を欠いていたようだ……。」


「いえ、うちのフウカもすぐに熱くなってしまう所があるのでこちらこそ……。」


 お互いに頭を下げ合い謝り合う、俺はともかくとしてヒルトも中々低姿勢だ、かなり位の高そうな格好をしているしエリート集団の中堅という事もあってある程度の高慢さは持ち合わせているのかと思ったが、どうやらそういうわけではないらしい。


 フウカが言うには、部屋から出たフウカはそのドアの前で待機していたコウロと一緒に俺たちに呼び戻されるのを待っていたそうだ。

 しかしそれに暇したのかコウロが話しかけてきた。


「なあ、フウカとか言ったな坊主。おめえさん本当に魔物を倒したのかい?」


「ん? 倒したぞ。森の中でオレとライに襲い掛かってきたから、協力して倒したんだ!」


「ふーん?」


 どうにも疑いを含んだ声質でそう返され、フウカは若干イラっときたそうだ。だが流石にフウカも少しイラっと来ただけで殴り掛かるような乱暴者ではない。

 

「こいつ、オレに向かって『おじさんに本当の事言ってみ? 実は倒してないんだろ?』って言ってきて、それだけなら良いんだけど凄くしつこいんだ。それでもうオレ我慢できなくなって、つい……。」


 そう話すフウカからはしっかりとした謝意が俺とヒルトに伝わってきており、そうなると俺たちの視線は自然とコウロへと向かう。

 フウカの謝意はコウロには一切向けられていたかったようだが、未だにイラつきが燻るなかで申し訳なさそうにしていた幼い少年を咎めることは俺には出来ない、ヒルトも同じようだった。


 それに対してコウロからは未だに謝罪の一つもない。憮然としながらどこか飄々とした雰囲気を崩さないコウロにヒルトが咎めるように言葉を発する。


「コウロ。自身の価値観を以て勝手に判断を下すのはお前の悪い癖だ。だから昇格出来ないと、上からも言われていたはずだろう?」


「だってそうじゃないっすか姉御。俺ァこんな子供二人に倒せるような魔物を狩るために、討伐隊に入ったわけじゃあ無いですぜ。」


「その子供に転がされていたのは誰だ?」


「ありゃあ不覚を取ったからですよ。不意打ちの先制を受けなきゃあんな事にゃァなりません。」


 そうしてあくまで俺たちの事を侮り、頑なにそう主張するコウロにヒルトはため息をつくことしかできない。

 しかし、そのような言動を繰り返していると、当たり前のように隣に座って俺の腕に抱き着いていたフウカが纏う雰囲気が徐々に刺々しいものへと変化していく。


 しがみ付かれていない方の手でフウカの前に手を持って行き、抑えるようにその小さな肩に手を乗せると、頭を傾けてその手にほっぺをこすりつけてきた。

 あ、かわいい。


 そしてそんな俺たちを相変わらず何を考えているのかわからない無表情でただ突っ立っているだけの村長、最初の魔物を見せるだけでいいという話は何処に行った?思いっきり対応を任せられているんだけれど。

 

「第一、そんな坊主がホントに魔物に勝てると姉御も思ってるんですかい? 今だって手綱握ったあんちゃんに甘えてるだけの。

 つーかお前さんたちどういう関係だい、小さい子供に首輪つけて、あんちゃんの方も中々歪んでるのかねぇ?」


「ライの悪口は言うな!」


「フウ、今のは悪口じゃないから、客観的に見た事実でしかないから。」


 そりゃあそんな反応もするさ。だから嫌で最初はリード部分を隠してただのチョーカーと腕輪に見せかけてたけど、フウカを上から退けるときに思わず首輪としての運用をしてしまった。

 見られたなら、もう隠す必要もないだろう。


「これはオレがライに無理やり頼んでやって貰ってる事だ! お前なんかが口出しすんな!」


「コウロ、人にはそれぞれ事情というものがあるのだろう、一々それに口出しするものでもない。」


「あーそうですかい。俺の味方はいねえようで何よりです。で?リードベル、お前さんはどう思うよ?」


「我々は疑問を持つ必要がありません。あくまで魔物の討伐を確認できれば、それで。」


「はっ、相変わらず傀儡人形みてえな女だなァ。」


 話を振られたリードベルと呼ばれた赤い仮面の女性は、淡々とそう告げる。そこには感情というものを殆ど感じられず、コウロの言う通り傀儡や人形のような印象を受ける。


 だがリードベルは「しかし……。」と続けようとし、口をつぐんだ。それを見たヒルトが急かす。


「どうしたリードベル、言っていいのだぞ。」


「了解しました。

 しかし、彼らの戦闘能力に疑問があるのも確かです。魔物を倒せる実力がある存在は討伐隊としても認知をするべきであり、それに則り彼らの実力をはっきりとさせておくべきではないのではないかと愚考します。」


「ふむ、確かに一理ある……。」


 あ、待って。この話の流れは少し嫌な予感がする。思わず緩慢な動きになりながらフウカの顔を見てみると、案の定少しだけ目に輝きを宿していた。

 そしてそれに対して何やら面白がっているような反応を示すコウロ、そして顎元に手を当て考えているのであろうヒルト。


 ついにフウカの薄い唇が抑えきれないとでもいうように勢いよく開き、明らかにテンションの上がった声を上げた。思わず静止しようと試みる。


「ふ、フウ? 抑え――。」


「戦えばいいのか!? オレはいつでも良いぞ! な、ライ!」


「……そうだね。」


 あぁもうダメだ、無理だ。それに俺にこんなキラキラとした表情のフウカを止められるわけがないじゃないか、完全に詰んでいる。

 それに、俺は別にフウカに意地悪しようとかそういう気持ちで戦いを避けようとしているわけではない、怪我をするリスクを避けようとしているのだ。


 どんなに強くとも、俺にとっては可愛い年下の幼馴染である事には変わり……いや、最近変わり始めてきたけど、それでも大切に思っている事は絶対に変わらない。


「すまんな。そう言っていただけるとありがたい。ではこちらで人選はさせて頂く、少し時間を貰えるか?」


「はい。じゃあその間俺たちは……。」


「ライン殿、フウカ殿。客人用の屋敷は既に使用済みである為、この家の一室を貸し出させて頂きましょう。さあさこちらへ。」


「あ、わかりました。ほらフウ行くよ?」


「はーい。」


 纏っていた置物のような空気を散らせてそう提案してきた村長の言葉に俺は了承し、甘えてくるフウカを引っ張りながらその後ろを付いてくる。


「こら、歩きにくいから離れな。」


「えー、やだ。」


「ほんとにもう……。」


 廊下を歩きながら隣のフウカを見て思う。じゃれついて来てくれるのは嬉しいけれど、さすがにこうもくっつかれると色々と行動に支障が出てしまうだろうと。

 うーん、これは時間が経てば何とかなるものなのか?今までフウカは俺に対する気持ちを抑えていたそうだし、それがある程度解消されればここまでべったりでは無くなるかもしれない。


 それは少し寂しいけれど、このままは俺が恥ずかしいし……。


「フウ、帰ったらお風呂入ろっか。」


「ん?森の中にはお風呂ないぞ?」


「多分頑張れば魔法で何とかなりそうなんだよねー。」


 村長から貰った魔法の教本、あれはとても良いものだ。

 分かりやすく魔力とはどのようなものか、どのような事が出来てどうしたらどうなるのか。基礎から応用まで、魔法初心者にもとても分かりやすく書かれている。


 複雑な魔法は未だ出来ないが、簡単な魔法なら少し出来るようになった。魔力量でごり押せば多分浴槽は作れると思う。


「じゃあ楽しみにしてるな! なおさら勝って気持ちよくならないと!」


「でも怪我には気を付けてね。治せるけど痛いのは嫌でしょ。」


「うっ……。」


「二人とも、着いたぞい。」


 フウカと話している間に目的の部屋に着いたようだ、村長がドアを開けると、そこには俺とフウカが森で暮らしているあの小屋と同じくらいのサイズの部屋。

 

 いや、部屋一室と同じくらいのサイズって……俺たちの家、小さすぎる。


「んじゃぁ、後程呼びにまた来るわい。」


「あ、村長。」


「ん?なんじゃぁ?」


「なんで俺たちに任せてるんですか。俺たちは魔物を見せるだけって話だったでしょう?」


「あぁ、そん事かいのぅ。」


 俺の文句に、なんだそんな事かと言わんばかりの反応を見せた村長は、フウカの方を振り向いた。


「フウカ殿が、全てライン殿に任せれば何とかなるっちゅぅてたもんで、言葉に甘えさせてもろうたわい。」


「え、そんなのいつ言ったんですか?」


「ヒルト殿と二人で頭ペコペコ下げ合っとる間じゃのぅ。」


「フウ……?」

 

 なんという事を……フウカの信頼はありがたいけどこれはただ厄介ごとを呼び寄せただけだ、俺はフウカに咎めるような視線を送る。

 するとフウカは視線をしどろもどろさせながら、俺に焦って弁解をしてきた。


「だ、だって、ライは昔から何でも出来たし、これもライが色々話した方が良いかなって思ったんだ。」


「それで?」


「だから、村長にそう言って……ごめんなさい。」


 最終的にしっかりと謝ったフウカに、俺はため息を吐きながら頭を軽く撫でる。

 でも今のうちに言っておけてよかったのかもしれない。もしこの先もっと厄介な出来事が起こったとして、そこで担ぎ上げられたらシャレにならないだろう。

 ここは異世界、何が起こるかわからないのだ。

 だから俺はフウカへと注意する。


「あのね、フウ。昔から何でも出来たっていうけど、そんな事ないよ。俺はフウとは違ってあくまで凡人だからね。だからそうやって何でも俺に任せようとするのはやめなさい。」


「え、でもオレよりしっかりしてるし……。」


「それは、フウの前だったからだよ。」


 フウカは、俺を過信している節がある。そして過大評価している節も。

 まあそれもこれも俺が悪いのだ。ついつい年下のフウカに意地を張ってしっかりしているところを見せようと日々努力をしていたから。


「だから、俺は基本的に普通。フウが思ってるような人間じゃないの。失望した?」


「……き。」


「ん?」


「大好き!」


「うぁ!」


 飛び掛かられてベッドに押し倒された俺は、フウカから熱い抱擁を受ける。

 ふと村長と目が合った。何とも言えない顔をしている村長に、俺も何とも言えない気持ちになってしまう。


「あー、村長さん。後で呼びに来てください。」


「……若いのぅ。」


「違いますから!」


 不埒な想像をしたのであろう村長に怒鳴るように言い返すと、村長は若干口角をあげながら部屋を出て行った。

 それを確認した俺は、お腹に頭をこすりつけるようにしているフウカの脇腹に両手を入れて自分の上半身ごと持ち上げる。


 俺の膝の上に座るような形になったフウカの満面の笑みを見ながら、どうしたのかと尋ねた。


「どしたのさ、突然。」


「オレの為に頑張ってくれたって事だろ? オレの前だから格好つけたって事だよな!? つまりライもオレの事が大好きだって事だぁ!」


「あーわかった、わかったから!ってか大声出さないで外に漏れる!」


「そっか……ライ、大好きだぞ……!」


 荒ぶるフウカにそう指摘すると、一転声を潜めたフウカは顔を俺の耳元に近づけ小声で熱烈な告白をしてくる。

 なんかもう、猛烈に可愛い。そう感じてしまう俺は俺でもう末期である事には間違いない。


「フウったら……俺もだよ。」


「やった……!」


 抱き着いてくるフウカの背中をトントンと軽く叩きながらそろそろ離れるように催促をした。


 お互いに雑談をしたり軽く遊んだりしながら二人で過ごす。しかし結局村長さんが呼びに来るまでの恐らく半刻程の間、ずっとフウカは俺から離れなかった。

色々と忙しいので不定期更新となりそうです……まあペースは出来るだけ2日に1話は更新できるように頑張ります。

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