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内なる狂喜

戦闘描写書くの楽しいんですけど、ちょっと自分でも細かく書きすぎてるかな?という感じがしないでもない。加減が分からないの。


お楽しみください。

「じゃあライ兄ちゃん。行ってくるよ、オレ一人で十分だから。」


「え、フウ一人で……?」


 一緒に前へと進もうとした俺の事を押しとどめ、そのような事を言うフウカに困惑する。

 ロインが指名しているのは俺たち二人だったわけだし、俺はフウカを支援して全力でやらせる気満々だったのだ。


「だって流石にライ兄ちゃんのアレがあったら勝負になんねぇだろ。それにすぐ終わっちゃったらつまんないし……。」


 つまりフウカはどんな状況だろうとこちらも楽しみたいという事らしい。まあ流石にどちらが強くてもお互いに殺すなんてことはしないだろうし、フウカは道場の稽古などで寸止めとかの手加減は手慣れてる。

 ないとは思うが万が一フウカが怪我した場合は俺が治してやればいい、納得した俺はフウカを送り出した。


「怪我したら言ってよ?治すから。」


「……あの痛いの嫌だ……絶対怪我しない。」


 治すの言葉に顔を少し強張らせ、そして引き締めたフウカは一人でロインの元へと歩いていく。

 それを見たロインは不満げだ。


「なんだ? どうしてお前ひとりで来るんだ!あの魔物を仕留めた時と同じように来いよ!」


「それだとすぐ終わっちゃうし、危ないんだよ。」


「んだと!」


 まるで完全に相手を舐めているかのような言動ではあるが、決して驕りでは無い。

 実際にフウカが彼の撃ち出した矢を掴んだ時の驚きようは、そのような事が可能だと思っていなかったような反応であった。

 もしも自分も同じことが可能なのであれば、あそこまで驚くことは無いだろう、警戒心を強める程度だ。

 

 しかもあの時のフウカは魔力による強化など施されていない、つまり素の身体能力と反射神経で成したという事。

 戦闘という一点に関してはフウカとロインで明らかに実力の隔たりがある。


「じゃあ、どうする? オレはどっちからでもいいけど、そっちから攻めるか?」


「あぁ良いだろうよ! すぐに後ろのあいつも引っ張りだしてやる!」


 怒りからか(とき)の雄たけびを上げながら走ってくるロインの速度は決して遅くはない。

 もしも日本であればオリンピックを目指せる様なそんな速度であり、間違いなく速いのだがしかしどうしてもその程度で留まってしまうレベルでしかない。


 そしてロインは走りながら木剣を持った方の肩を、走る速度をそのままに後ろへ引いて鋭い突きをフウカに繰り出す。


「せやぁ、ッ!」


「ほっ。まずは一発な。」


 しかしロインの身体は突きを繰り出した形のまま硬直する、左目の前にフウカの爪先があったからだ。

 やった事はフウカの得意技だ、敵の攻撃を透かしてカウンターを入れる、たったそれだけの事。


 ロインの突き出した剣の先を視認してから重心を一気に倒れるように低くし、両手を元の足の位置からみて垂直方向の地面に付きながら、身体を振り子のように回転、突き出された木剣を絡めとるように伸ばした足でその顔面の横に蹴りを放ち、寸止めしたのである。


 恐らくロインの視界からは突然フウカが消え足だけが現れたように見えた事だろう。一連の動作には1秒どころか半秒もかかっていない、こちらに来て鍛えられた身体能力の賜物だ。


「ちぃっ! はぁっ、ぉっと!?」


「アハハ、尻尾だってあるんだぞー!」


 我に返り足元にいたフウカに木剣を振り下ろそうとしたロインだったがすぐに足元がグラつきその場で尻もちを着く。

 その足にはフワフワとした毛で覆われた、脚と同じ程の長さを誇る尻尾が巻き付いていた。


 確かにあの尻尾はあれ一本でフウカの全体重を支える事が出来る程の筋力を発揮できていたし、人間一人を転ばせることくらい簡単だろう。


「くそっ!」


「ほら、早く立ち上がって。」


「ッ!」


 あくまで軽い調子を崩さないフウカに、ロインの表情はだんだんと恐ろしいものへと変わっていく。

 不快が憎悪へと、怒りが憤怒へと。しかしその様子を見てもフウカの態度は変わらない。


「はぁ! っ、くらぁ! ぃぃ……、あぁ! 畜生がぁ! んぶ!」


「あ、わりぃ。寸止め失敗した。」


 立ち上がりながら水平に振られた剣は軽い跳躍で回避され、同時に跳ね上げた爪先を腹に軽く当てられる。

 縦に振り下ろされた斬撃は半身で避けられ回転しながらの裏拳で首元を小突かれた。

 そうしてむきになって繰り出された突進は、突如として身体の向きを反転させ両足を投げ出すような状態になったフウカの両足で、踏み込んだ足を挟み捻られ再び転倒、一瞬で起き上がったフウカによる追撃の掌底打ちが、倒れかけ未だ空中にいたロインの横腹を穿つ。

 腹に溜まった空気と共に苦悶の声が口から洩れた。


 その様子に、勝負にすらなっていないとはまさにこのような状況を表すものだと自然と認識させられた。


「随分とまぁ……一方的よのぅ……。そんに、あの首輪もどういう訳だか透き通っちょる……。」


「まあ、フウのあの動きは、元々対人用のものですから。応用して獣とか魔物相手にも使っていただけで、本領はこっちなんですよね。首輪に関してはそういう機能があるとしか。」


「はぁそりゃぁまた……ロインもそろそろ折れりゃぁ良いものを……。」


 気の毒そうな表情で呟く村長に俺はそう解説をする。それを聞いた村長は気の毒そうな表情を更に強めた。


 一方俺が村長と話している間にも模擬戦闘という名の蹂躙劇は続いている。


 十の行動に対して十の対処をされ十の攻撃を返される、それはまさに戦っている側からすれば悪夢そのものだろう。

 例えばフウカのカウンターに対して攻撃仕返したりする技量や力があればまた別なのだが、そういうものはロインにはない。

 

 あの時戦った魔物のように強靭な肉体を持っているならば、捨て身の攻撃で負傷を負わせることも可能だし、獣のように死に物狂い襲い掛かってくるのであればもしかするとワンチャンスあるかもしれない、火事場の馬鹿力、死力というのは侮れないものだから。


「なんで当たんねえんだよ! はぁぁ!」


「攻撃が分かりやすいからだな。だからこうやって!攻撃返しやすい。」


「ぐふぉっ!」


 木剣は空を切り、代わりにフウカの蹴りがロインの腹に突き刺さる。

 たたらを踏みながらも何とかその場に留まったロインを見て、フウカは一言断ってからこちらを振り向き俺たちに話しかけてきた。


「ちょっと待って。なあ、これってどれくらいやるんだ?」


「そうよなぁ……ロインの奴が満足するまで、付き合ってやってくれんかのぅ。」


「んー、わかっ――。」


「せやぁ!」


「たぁ!話してる時に後ろからはやめろ!」


 返事をしようとしたフウカの後ろから突然ロインが木剣を構えて振って来る。

 しかしそれを事前にフウカは認識していたのか、袈裟に振られた剣の軌道の陰に倒れこむように回避するとそのまま馬の後ろ蹴りのような体勢のまま思い切り腹を蹴り上げ吹き飛ばす。


 余りの衝撃に、ロインは口から何かを吐瀉した。


「うわ汚ったない! ……かかってないよな?」


「ぅぅぅ……。」


 腹を抑えてうずくまるロインと、服が吐瀉物で汚れていないか確認をするフウカ。

 その様子は明確に勝者と敗者の構図を表しているかのようだ。


 服には特に問題が無かった事を確認すると、フウカは未だ腹を抑えて蹲るロインに向かって近づいていく。


「おい。早く立てよ。」


「ゴホッ、ゴホッ……。」


「突然後ろからやって来てさ、何考えてんだ?これは模擬戦闘、試合みたいなもんだ。卑怯な真似はやめろよな。それとももう満足したのか?」


「くぅ……!」


 口の横を腕で拭ったロインは立ち上がって再びフウカに木剣を構える。

 それを確認したフウカは口を開いた。


「なあ、オレからもそろそろ攻撃しても良いよな。」


「ぁぁん!?」


「オレさ、結構怒ってるんだぞ? ライ兄ちゃんの事悪く言ったり、何より弓を撃ったりさ。

 なのに謝罪の一つもない、それどころかオレたちと戦いたいとかいい加減にしろよ。」


 フウカの纏う雰囲気が、静かなものから徐々に荒々しいものへと変わっていく。

 緩く垂らされていた拳に力が籠り、握りしめられたその手はプルプルと震え、尻尾の毛が僅かに逆立ち始めた。


「あーなんか余計にムカついてきた。なあ村長、骨折るくらいなら良いか?良いよな。」


「フウ? ちょっと待って、どうしたの?流石にそれは……。」


「骨折ならばすぐに治す方法もあるからのぅ……。」


「え? 良いんですか!?」


 結構なことを言うフウカとそれを了承する村長に俺は驚き困惑をする。

 それを聞いて前に進み出たフウカの身体には力が籠っていない、しかしそれが謎の威圧感を助長させている。


「今からオレがお前をボコボコにするからな、謝るなら手加減してやるぞ。」


「……っ、うらぁ!」


「ふん、じゃあやるぞ!」


 フウカの勧告を無視して木剣を振るったロインに対して、しかし怒っているはずのフウカの顔には酷虐な笑みが浮かんだ。

 あれは……なんか暴走していないか?


「はぁ!」


「うぐぅ!」


「アハハ! たぁ! よっ、せぇい! たぁ!」


「ガッ、ぐぅ。や、やめ! あ゛ッ!」


 まるで瞬間移動したかのような速度で踏み込んだフウカの肘がロインの肩に突き刺さり、その勢いでロインは半身仰け反り横向きの体勢になる。

 フウカは肘を振った勢いそのままに腕を伸ばし側転の要領で身体を回転させて、遠心力を保持したまま踵で強くその背中を打ち付けた、あの衝撃だとろっ骨が折れたかもしれない。


 フウカの猛攻は止まらない、うちに笑みどころか明確に声を出して笑っているフウカはとても楽しそうだ、行っている虐的な行為とは裏腹に。


 フウカは身体が柔らかい。180度開脚だって出来るし、ブリッジだって何の問題もない。

 柔軟で薄く、しかし同時に堅く丈夫さを持つ筋肉で覆われた獣の様にしなやかなその体躯は、フウカの身体の小ささに見合わない強烈な破壊力を打撃に乗せる事が出来る。

 更に身体能力が上がったことで、一見変化はないように見えてもその出力は跳ね上がり、今や樹木を抉る事だって容易に可能だ。

 そんな蹴りを喰らうなど、無傷で済むはずがないのである。


 しかもここへ来て変わったのはパワーだけではない。

 普通であれば両手で身体を支え両足が浮いている状態であれば、流石のフウカでも普通は一旦身を引くしかないのだが、ここへきて尻尾という五肢目を手に入れてしまった。

 尻尾を地面に突き立て身体全体を支え、その状態から更に反対の足で放つ蹴りへと繋げた。


「ア゛ァ゛!」


「ふふ、アハハハ! アハハ、はぁっ!」


 背中への衝撃で海老反りになっていたロインだったが、今度はその突き出させられた腹部分に思い切り蹴りを喰らい身体全体がガクンっと戻される。


 このままでは、流石にまずいそう思った俺は村長の横から飛び出してフウカに駆け寄っていく。


「フウ! それ以上はまずい!」


「アハハ! は、ライ兄ちゃ、うわっ!?」


 気を失ったのかその場で膝をつき頭から倒れたロインと、そんなロインに対して思い切り脚を上げてとどめを刺そうとする様子のフウカ、俺はとっさにフウカのその振り上げられた脚に肩を当てて背に手を回してそのまま押し込む、片手で尻尾を掴んで体重を支えられないようにするのは忘れない。


 フウカの脚は俺の肩を滑って、まるで前で肩車をしているような体勢のまま地面に倒れこむ。

 尻尾の付け根、尾てい骨のあたりを強く抑えつけ、フウカの下腹部に強く顔をうずめる様な形になりながらも俺はそのまま立ち上がれないように足を固定し続ける。


 これはフウカに昔教えてもらった対処法だ。本来はただ脚を肩で掬い、そのまま押してやるだけで相手を倒せるというものだけれど尻尾があるフウカにはそれが通用しない、だからこそ一緒に倒れる必要があったのだ。

 そして、この時間で少しでも落ち着いてくれればと期待して。


「フウ、大丈夫?」


「ぁ……あれ、オレ……あれ?」


「……。」


「なんともまぁ、こっぴどくやられたもんよなぁ……。」


 何とか自体は終息したようだ、終息はしたものの、呆然とする村長、真っ青な顔をして酷く混乱しているフウカ、気絶したロイン。


 その惨状は、端的に言って中々の地獄絵図だった。

下腹部って言い方してますけど、肩車の位置が反転して顔側に来たら何処にどうなるかとか聡い人ならわかりますよねっていう。


フウカくんのしなやかな筋肉に触りたいという方は、ご友人に布教をよろしくお願いします。

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