そういう関係
恐らくはこの次の話くらいでまた(作者)暴走回を挟むはずです。
普段の話と比べてそういう話書く時のモチベーションが倍以上高いの何とかならないもんですかね。
「証明? それならすぐに出来ます。」
「ほぅ、出来るのかいのぉ。」
「あー、ライ兄ちゃん、部屋でてちゃダメか?」
俺がやろうしていることに気が付いてか、隣に座るフウカがひどく嫌そうな顔をして俺にそう提案を持ちかける。
まあ、多分大丈夫だと思うけど、一応村長に確認を取るべきだろう。
「なんゃ、何する気じゃ?」
「いえ、魔物を倒したって証明するなら、実際に魔物の死骸を見るのが一番だと思いまして。
ただちょっと、臭いがきついので……。」
「そこの幼子にゃきついって事かのぅ?まあ、そんならいいぞ。
ただ、部屋ん外にゃお主らを撃った馬鹿モンが居るからのぅ、暴れんようにな。」
「だってさフウ、大丈夫?」
「……おう、抑える。」
本当に抑えられるのか心配だが、まあ何とかなるだろう、適当だけど。
フウカはひょいっと椅子から飛ぶように降りると、後ろにあったドアを押して開く。
「なんだ、お前一人で出てきたのか?」
「うるさい。」
「ちっ。」
……扉が閉まる瞬間、何やら陰険な雰囲気漂う会話が聞こえてきた。
というかフウカのあそこまでひんやりとした空気漂う態度を初めて見たかもしれない。
まあいい、気を取り直して俺は腰に付けていた革袋に手を伸ばす、固定していた紐を解いて帯から取り出す。
そして入り口に手を突っ込んで魔物のものらしき感触を探していく。
「はぁ、袋庫。随分とまた貴重なもんもっとるなぁ。」
「これ袋庫って言うんですか?」
「なんじゃ、名前も知らずに使っとったんかい。」
村長の顔に何度目か分からない困惑と呆れの表情が現れる。
それにしても、顔は皺くちゃなのに随分と感情が伝わってきやすいお爺さんだ。
柔らかい毛皮の感触、植物特有の若干弾力がある感触……あった。
俺は手に伝わった硬い針のような毛の感触のするそれを掴むと、思い切り外に引っ張り出す。
グインっという擬音がなりそうな程勢いよく飛び出したそれは、上半身だけが外に出たまま中心のテーブルに張り付くように落ち、周囲に異臭が立ち込める。
「はぁ……こいつかぃ……。」
「そうです、これで証明は出来たって事で良いでしょうか?」
「……まあ、そうよなぁ。実物見せられちゃ認めん訳にゃぁいかん。」
村長は若干前のめりになっていた姿勢を正すと、魔物の死骸から目を離し俺の目を見据え改めて口を開いた。
「ようこそ、我が村へ。お主ら二人を客人として歓迎しよう。」
今までの若干気だるげな雰囲気を漂わす口調から一転、丁寧な言葉遣いと良く通る声へと変わった村長に、俺も自然と気が引きしまる。
「それでは改めて、御用向きはなにかね?」
魔物の死骸を革袋……いや、確か袋個だったか、それに仕舞うと、その問いに改めてここへ来た要件を伝えた。
「実は、森で狩った獣が余ってしまいまして、服や調味料と交換出来ないかと思い森から出てきたんです。」
「なるほど……。」
村長は軽く目を瞑り何かを考えるようにすると、おもむろに立ち上がりドアの方へと歩き出す。
「村長さん?」
「ちょいとお待ちを、すぐに戻りますので。」
「あ、はい。」
軽く会釈する村長に俺も頭を下げ返し、村長がドアを開けた。
「……。」
「……。」
「あ、ライ兄ちゃん! こいつ酷いんだ!」
俺と村長の目に入ったのは、地面に仰向けに転がされ頬に赤い殴り跡を付けられた青年と、その上に馬乗りになり拳を振り上げているフウカの姿。
俺に気が付くとすぐに怒りの色が乗り感情を共有しようと強い口調で話しかけてきたけれど、その前に一瞬見えた無機質な瞳は気のせいだろうか……何となく、フウカは怒らせないようにしようと思った。
というか、フウカは基本的にため込むタイプで、過去にいじめられていた経験から我慢するのは得意な方だと思ってたんだけど、殴り掛かるとはどういう事だろう。
ため込むのを辞めたのだろうか?
「ずっと睨みつけてくるし、突然掴みかかってくるしよー。だから反撃したらなんか文句言ってくるしライ兄ちゃんの悪口だって言ってきたし!」
「それはお前が無視するからだろうが! それにアイツがひ弱そうな見た目なのは事実じゃねぇか!」
「ライ兄ちゃんは弱くなんかないぞ!」
えーっと、つまりフウカは俺のために怒ってくれたって事なんだろうか、未だに状況が分からないけれどフウカの言う通りなら。
嬉しいことだと思うけど、過激な事は出来れば止めてほしいなぁ~、とは思う。
フウカは元々力が有り余っているような子だから仕方がないのかもしれないと考えなくもないのだが。
「はぁ、まーたお主かロインよ。何回馬鹿やりゃぁ気が済むんゃ?」
「いや村長! こいつが無視するのがわるッ――。」
青年、ロインが倒れた体勢のままなんとか弁明しようとした瞬間、村長の纏っていた温厚で誠実そうな雰囲気が一変
「口答えすんじゃぁないわぁ!!」
「うっ……あぅぅ?」
「ふ、フウ、大丈夫?」
至近距離での大音量は、直接怒鳴られたロインよりもすぐ近くにいたフウカにダメージが大きい、俺も立ち上がり、フウカの事を落ちつけながらロインの上から引きはがす。
その隙に、村長はロインの首元を掴んで引きずりながら横の部屋へと入っていった。
「うー……ライ兄ちゃぁん。」
ギュッ。
「おぉっと、どうしたの?」
「耳いたぁい。あとこの部屋くせぇぇ……!」
俺はそう訴えながらお腹に頭を押し付けてくるフウカの頭に手を置くと、両手で両耳をコリコリとほぐしてやる。
あ、柔らかい、手が止まらない。
「んあぁ、ライ兄ちゃっ、なんかそれ変な感じ、ムズムズするっ。」
「あー、触り心地良いねぇー。」
「ちょ、ライ兄ちゃ、んっ!」
「ご客人よ……何をしておられるか。」
フウカの耳の触り心地に夢中になっていると、後ろから声を掛けられる。
振り向くと立っていたのは戻ってきたのであろう村長、そしてロインだ。
ロインは怪訝そうな顔をしてこちらを見ている。
「なんだお前ら、そういう関係なのか?」
そういう関係?どういう関係だか知らないが、こういう風に頭を撫でたりするくらい仲がいい関係っていう意味ならそういう関係だろう。
ふとフウカを見てみると顔を真っ赤にしている、こうやって人前で俺にしがみついているのが恥ずかしいのだろうか。
「ん?まあ、そういう関係……ですかね?」
「ライ兄ちゃん!?いや、違うぞ!?や、別にヤって訳じゃねーけど、そういうんじゃ!」
「はぁー、そこのガキはともかく、お前もおとなしそうな顔して中々なんだなぁ。」
「黙らんか馬鹿モン、んな話誰も得せんわ。ご客人も、そろそろよろしいか?」
「あ、はい。ほらフウ?起きて。」
「んんん~~~~!!!」
俺の言葉に一度勢いよく顔を上げ、右往左往しながら喚くようにそうじゃないそうじゃないと喚いていたが、俺たちの話に流され再び俺のお腹に真っ赤な顔を突っ込んだ。
「えっと、すいません、このままで良いですか……?」
「まあ、話さえ出来るならば私としては問題ありません。」
「くふっ、村長が『私』って……!」
「黙れぃロイン、客人には礼儀を持つものよ。おっと申し訳ない、では我々から渡せる交換可能な品物の件ですが……。」
別の部屋から持ってきたのであろう紙を手に持ち、それを見ながら俺に説明をしてくれる。
交換できるだけの予備があるのは、服、塩、そして麦などの作物だそうだ。
しかし、このような村で作物に予備があるというのは中々恵まれているのではないだろうか。
「本来は作物に余裕は無かったんですがの、ご客人が魔物を狩猟して下さったおかげで森の幸を得る事が出来るようになりました。
ですので、かなり余裕があるのです。」
「なあ村長、本当にこいつらが魔物を倒したのか?見せてらったって言う魔物が本物だっていう確証はあんのかよ、俺らを謀ってんのかもしんねえぞ?」
「はふでほへはひは!」
「フウ、お腹くすぐったいから。」
「ぷはっ!何でオレたちが騙さないといけないんだ!」
疑問を浮かべるロインの言葉に、すっかり彼を嫌ってしまったらしいフウカが俺のお腹に強く押し付けていた顔を離して怒鳴りつける。
すると村長は本当に馬鹿だとでも言いたげな顔でロインに言い放った。
「魔物の死骸なんぞ偽装できるかい馬鹿モンが。第一、そんなこたぁ出来る技術がありゃ、取引の申し出なんぞしにこんわい。」
「ばーかばーか!」
「フウ、煽らない。」
「くっ!」
少しだけ目尻に輝くものを溜めながらフウカを睨みつけるロイン、流石に少し可哀そうになってきた気が……いや、矢の件もあるし別に可哀そうではないか。
とりあえず彼とフウカの仲の悪さは一旦無視して村長との話を続ける。
「じゃあ、とりあえず交換レートの確認をしてもよろしいでしょうか、それと荷物ですが何処に運び込んで貰えると嬉しいんですが……どこか、空家を貸してもらう事って出来ますか?」
「それなら客人用の小屋が村の外れにありますので、そちらをお貸ししましょう、何なら村へ滞在して行って貰っても構いません。」
「あ、本当ですか! ありがたいです。」
家を借りれるというのは非常に嬉しい。
それに今まで森の中の小屋でしか生活してこなかったから、村の生活というのがどんな感じなのかとか、村の様子を見て回ったりだとか、やりたいことが湧き出てくる。
俺がどこかワクワクとした気持ちを隠せないでいると、フウカから生暖かい視線が飛んできた。
「相変わらずライ兄ちゃん、そういうの好きだよな。新しい場所ってやつ?」
「んー、まあ、楽しいからね。」
何があるのかわからないというのは楽しい事だ、だからこの異世界に連れてきてくれたフウカには一応感謝の念はある。
まあ、代償として向こうでの生活を失ったわけだが。
「それでは、ご案内させて頂きます。」
「はぁ? 村長が自分で案内すんのかよ、それくらい俺でも出来るぞ。」
「どうせ喧嘩すんに決まっとろうが、お前にゃ任せられんわ。」
村長が部屋を出て、後ろを振り向き俺たちが立ち上がるのを待っている。
俺はフウカに立つよう促し、二人でその後を追っていった。
そしてロインは村長の家に残る。
未だ黄金色に稔る前の豊かな深緑色の畑と、周囲を覆う草原の緑色、若干違う二色の緑によるコントラストが美しい。
森の仲とは違い、獣の臭いや刺激臭が香ることが無いこの村の空気は、森の中よりもずっと美味しく感じられた。
フウカも周囲の様子が気になるのか、しきりに尻尾を振りながら辺りを見回している。
そんな中、村長から声がかかる。
「すいませんねぇあの馬鹿モンが。」
「い、いえ。魔物がそんなに強力な存在なんだとしたら、疑うのは当然ですから。」
「そういって頂けると助かりますの。」
村長は振り返らずに言葉を続ける。
「ロインは儂の孫でしての、両親を失っとるんですよ。確か6歳の時でした。」
「それはつまり、村長さんの子供もお亡くなりになっていると……ご愁傷様です。」
俺のその言葉に軽く頷いた村長は先ほどよりも少し言葉を柔らかくして俺たちに振り向き、お礼を告げる。
突然のお礼に俺は困惑した。
「まことに、感謝しとるよ。」
「え、えっと……。」
「二人を殺したのは、ご客人が倒して下さった『圧壊獣 ゲカウドゥハゥ』じゃってのぅ。
感情が揺れ動きにくぅなったこんな老人でも、清々する思いじゃ。」
僅かに口元を緩ませる村長に、俺はすぐに言葉を返すことが出来なかった。
隣のフウカを見ても複雑そうな顔をしている。
お礼を言われても、素直にそのお礼を受け取ることが出来ない。
理由は簡単だ、俺も、多分フウカも、魔物に対する侮りがあったから。
最初に出会ったあの魔物は村長が言うには下から二番目という話で、その下から二番目という位もそもそも何段階あるのかわからない。
だけど、少なくともあのレベルの魔物であれば俺が支援をしたフウカであれば問題なく狩る事が出来てしまうのだ。
魔力で強化された状態のフウカであれば片足を激しく負傷していてなお打ち勝つことが出来る、つまり万全の状態で挑めば少しの苦労で倒せてしまうという事である。
しかし、そんな存在でも彼らにとっては天災のような存在、俺たちの認識と世界の認識の乖離がどうも引っかかって、このように心から感謝されるという出来事に申し訳なさにも似た的外れな感情を抱いてしまうのだ。
しかも俺に至ってはフウカを支援していただけで、俺がお礼を言われるのは違うだろうというそういう気持ちも混ざっている。
……ん?待て、あの魔物が出始めたと言っていたのは10年前、そしてその頃に両親を亡くしたロインの年齢は6歳……同い年!?あのもう20歳超えてそうなロインが!?
そんな俺の戸惑いを知ってか知らずか村長は歩き続け俺たちは後に続く。
やがて一軒の立派な家の前で立ち止まった。
「ここが客人用の家です、どうぞご寛ぎ下さい。交換の準備はしておきますので、後々私の家に再びおいでになって頂きたい。」
「あぁ、わかりました。」
「それでは、失礼します。」
去っていく村長を見送り俺たちは家に向き直る。
村長の家と同じ、もしくはそれ以上に立派な造りで、少し周囲の風景と浮いている印象を受けるこの建物は、貴人などを迎えるために建てられたものなのだろうか。
そのような建物を使わせて貰えるのは、とてもありがたいことだ。
「立派な家だな!」
「そうだね、じゃあ入ろっか。」
「おう!」
俺は数歩 歩いて家のドアの前に行くと、そっと押した。
二人はそういう関係です。プラトニックだった『そういう』に不純物が混じり始めそうですがそういう関係です。




