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19 逆転劇

「お前達の企みも、ここまでだ!」


乱入してきた者に、視線が集まる。

その後ろに警官隊が見えており、危険人物である事が明確だ。


いや、その全身に巻き付けられたダイナマイトを見れば、警官隊など関係無く怪しい。

更に引いているカートにもダイナマイトが山積みで、アンテナと通信機らしい装備が乗っている。

侵略者は二人おり、一人は右手に拳銃を持ち、左手でカートを引いている。

もう一人は女性でショットガンを構えている。


カートの取っ手にはボタンの様な物が付けられ、そこを握っている。


恐らくだが、スイッチから手を離すと荷台と体に巻いたダイナマイトが爆発する為に、警官隊も手が出せなかったのだろう。


建物を吹き飛ばすのに、十分すぎる量だ。


しかし、誰も騒がない。

陰陽師もだが、ツーフェイスも一度は肉体的な死を乗り越えてきた者達だ。

転送は、心身ともに、かなりの苦痛を伴った。

今さら、パニックになどならない。


別所大臣の合図で、囲んでいた警官隊が、銃を構えながら会議室から出ていき、男は扉を閉め、フルフェイスのヘルメットを脱いだ。


「確か、元、京都府警の服部英治だったか?逮捕されたはずだったが?」

「ああ。その通りだ。お前達の計略にのせられたが、まだまだ仲間や協力者が居る。こうして、お前達の頭を狩りに来たって訳だ」


確かに、ここには日本のツーフェイスの重要人物が集まっている。

準備には、彼にして最後のコネクションを使ったのだろう。


「幾つか、勘違いがある様だから、教えてやろう。我々が策略をしなくても、囚人を無断外出させて殺人を行わせていたお前は、犯罪者だ」


そう口にしたのは、警察庁の長官次長だった。


「五月蠅い!侵略者め」

「いやいや、記憶を侵食しているお前達だって、十分に侵略者だろう?」


生物学者の橋本教授が口にする。


「お前達とは違う」

「ここで、我々全員を殺せても、計画は止まらないぞ」


蒲田教授が、笑いながら話す。


「しかし、お前達の社会構成に、大きな打撃を加えられるだろう」

「そうやって、お前が足掻いたお陰で、連絡先さえ判らなかった陰陽師の上層部まで一網打尽いちもうだじんになってしまったぞ」


そう言いながら、物陰から出てきた男に、服部は驚愕する。


「文殊菩薩。いや、渡部光一?陰陽師であり、連絡係りのお前が、なぜ?」


渡部光一は、陰陽師の連絡係りとして有能な人物だ。

ただ、社会的地位は高くない為に、陰陽師の上層部の情報を持っていなかった。


逮捕された服部は、署内の全ての協力者を犠牲にして逃げ出し、渡部に頼んで上層部への連絡と、情報収集、爆弾などの手配を頼んだ。

準備が出来るまで、渡部の別荘に潜伏していたので、状況は渡部に聞いている範囲だった。


「お前も前世の記憶が有るのだろう?私の大事な娘が狐憑きの方に転生してしまっては、敵対する訳にはいかないじゃないか。今は、甥だけどな」


そう言って、渡部は、探偵の巽静雄の後ろに付いた。

二人は、にこやかに微笑みあう。


「裏切り者!」


服部は渡部に発砲するが、音だけで着弾はしない。


「空砲だよ。その爆弾もね。うちの娘は、そういった凝ったイタズラが得意でねぇ」


服部は、銃とカートを投げ捨てる。

カートは、それらしい警告音を発するが、いつまでたっても爆発はしなかった。


服部が誰かを人質に取ろうと動いた瞬間、彼のむき出しの後頭部に激痛が走り、床に倒れた。


後頭部を押さえなが、振り返った彼が見たのは、ショットガンを手にフルスイングを終えた、相方の女性侵入者だった。


「鬼子母神!お前もか?」

「子供達を殺したお前達を、私は許さない。特に事件を有耶無耶にしたお前は、絶対に!」


ヘルメットを脱いだ後に出てきたのは、保育園園長の中川友紀恵だった。


呆然とした服部は、護衛の者に取り押さえられ、中川は、その場に座り込んだ。


「少しでも気は晴れたか?」


渡部が、座り込んだ中川の肩を叩く。


「ええ。でも、人間は皆が異世界人に乗っ取られてしまうのね?」


中川の言葉に、渡部もうなだれている。


そんな服部の背中に、巽が手を当てる。


「御父様?何か勘違いをなさっている様ですが、私達『俺達は、何も潰しあっているわけじゃないんですよ』」


巽の言葉に、中川と渡部が顔を上げる。

いつの間にか綾小路までが、近くに来ている。


「破壊的、強欲な人格を持つ地球人人格は、押さえ付けたり、薬物などで消去したりしたが、基本的に我々は元人格と共存している。」


深井アユミも、近くにやって来た。


「勇気が出ない時、自分でも間違っていると判っているのにやめられない時、彼等が私に代わってやってくれて、どれだけ助かった事か!」


そこに有るのは、ヤクザのトップの顔ではなく、気弱な女性のものだった。

しかし、次の瞬間その顔は、キツイ物に変わる。


「憑依した先の者が、間違った行為や、目先の欲望の為に、自滅に走ったら、共倒れだからな」


深井アユミの豹変に、渡部は自分の甥の姿を、再び見る。


「伯父貴。俺達は、異世界の知識を持って、更に高次な多面的な人間に成長するだけさ。失う訳でも閉じ込められる訳でもない」


渡部も、中川の隣に座り込む。


「我々陰陽師は、いったい何をやっていたのだろう?」


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