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18 転換期

都内の有名ホテル。

ロビーの一角は黒服に埋め尽くされていた。

彼等は黒服とサングラス、イヤホンをして、無口で立っている。

中には十人程の狐面を着けた者が居た。


その全員が、ソファでくつろぐ一人の少女を囲む様にして、周りを警戒して居るのだ。


やがて、少女の脇に立つ男が、イヤホンを指で押さえて、小声で呟いた。


少女の脇にしゃがみ、彼女に声をかける。


「お嬢。迎えが来たそうです」

「わかったわ」


少女。深淵会の深井アユミは、ソファから立ち上り、ロビーの出口へと向かう。

進む道の左右は、既に黒服が固めていた。

アユミの後ろを、狐面を着けた黒服の男女が付き従う。

体格は、かなり良い。


ホテルの出口で、狐面の二人は、面を外して並ぶ黒服に手渡し、サングラスをかける。


ホテルの出口には、黒塗りのクラウンが停まっていた。

運転手がドアを開けて、女性二人が後部に。男性が助手席に座った。

車を見送る為に、アユミの親衛隊五人が車の脇に立っている。


「お嬢。お気を付けて」

「大丈夫や。こっちに敵は居らんからな」


走り出すクラウンを追いかける様に、三台のベンツが走り出す。


「あぁ、運転手さん。過保護な家族が心配しているだけからや。気にせんといてください」


車内でアユミが告げる。


クラウンは、街中を抜けて、官庁街へと進む。

そのまま、ある建物のゲートから入ると、ベンツは、ゲート前で、一度停まり、走り去った。


建物の周りは、警官により警備されており、国の施設であるのが分かる。




三人が案内されたのは、大きな会議室で、椅子が20程もあった。

既に半分以上が埋まっており、テーブルに置かれた名札を確認して、アユミが座り、二人が背後に立つ。


一部の者が、ざわめいている。


「そちらの男性は、陰陽師ではないのですか?」


椅子に座っている者の指示で、御付きの者が聞いてくる。


「生まれは何であれ、私の従者ですわ。彼のお陰で十八人の陰陽師を始末しましたのよ。貢献度は充分でしょ」

「しかし・・・」

「これ以上、私のファミリーにケチを付けるなら、敵対者と見なしますよ」

「・・北の帝王・・・・」


アユミが睨むと、使いの男性は主の顔を見て、元の場所に戻っていく。


そんなやり取りの間に、席は埋まっていた。

中には外国人の姿も有る。


上座の男が、立ち上がる。

財界のフィクサー。綾小路真人あやのこうじまひとだ。


「皆さま。御多忙のところ、お集まり頂いて、誠に恐縮です」


ゆっくりと、丁寧な礼をする。


「本日、お集まり頂いたのは、我々の移住計画が、次のステップに移行するお知らせをする為です」


円卓の中央に、天井から巨大なモニターが降りてくる。


「先ずは、近況報告を致しましょう。蒲田教授の開発した通信機で、母星との連絡が取れ、陰陽師が増えない様に転送を中止してもらいました。」


モニターには、特殊な形をした機械と蒲田教授の姿が表示された。


「次いで、転送安定装置の開発が邪魔されない様に、各国で陰陽師の撲滅を行いました。日本では、元『北の帝王』でいらっしゃった、深井アユミさんが活躍して下さいました」


モニターにアユミの姿が写し出され、『北の帝王』と聞いて、オオと唸りが上がる。


「陰陽師撲滅の、だめ押しをする為に、家畜を転送して魔物化させ、混乱に乗じての処分も、おおかた終わり、現在に至ります。では、次のステップについて、教授に伺いましょう」


綾小路が着席し、蒲田教授が立ち上がる。


「御存知の通り、異世界転移の試みは、空間回復力による強制帰還や、物理法則の違いによる肉体の変容、現地生物との融合など多くの失敗を経て、現在の精神融合に落ち着いているわけです。しかし、現在までの転送の欠点は、転送効率の不安定さでした。その不安定さの為に、陰陽師などを産み出し、無意味な自滅行為に至ってまいりました」


元は同じ故郷、同じ目的だった者が、殺し合う状況は、悲劇としか言えない。


「今回、開発した機材により、これを改善致します。向こうから送り出すだけだったものを、こちらからも引っ張る事で、より安定性の有る完璧な精神融合を実現致します」


モニターに地球儀が表示され、グラフィックで、日本、アメリカ、ヨーロッパ、南極に光点が発生し、其々を直線が繋いで、地球に食い込む巨大な三角錐が形成されて行く。


「この度、多国籍で協同開発した安定機を用いれば、従来の60%だった転移の成功率を、全世界を対象に99%以上に上げる事が可能で、局部転送実験には成功しております」


会場から、オオッと声が上がった。


「実際の広範囲稼働は、各所の受入れ準備状況によりますが、半年から1年以内を予定しております」


教授の着席と共に、会場の各員が、小声で話し合う様子が見て取れる。

予定の調整など、国内外でやる事が山積みなのだ。


「今まで、長い期間と犠牲を払ってきましたが、やっと報われる日がやってまいりました」


別所大臣が声をあげ、皆が頷く。


誰からともなく、拍手がおこり、場が盛り上がった時に、いきなり会場の扉が開き、何者かが乱入してきた。


バン!


扉を蹴破る音に、一瞬で静寂となり、全ての視線が侵入者に注がれる。


「お前達の企みも、ここまでだ!」


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