16 監察官
ドン!
「くそっ!大黒まで殺られるとは・・」
京都府警の服部英治警視長は、机を叩いてメールの内容に憤慨していた。
府内で陰陽師の拠点が、次々と襲われ、メンバーや協力者が行方不明となっている。
明確に死亡を確認された者も居る。
僅かに残ったネットワークからの情報で、陰陽師殺しを殺すために、殺人犯として投獄されていた麻橋花蓮こと大黒天を向かわせた。
性格に問題はあるが、殺害の技術は秀でており、彼女も一応は陰陽師だ。
ところが、その陰陽師殺しを追っていた先で、東京からの捜査一課に見つかり、射殺されたらしい。
「なぜ、東京のが京都に居るんだ?なぜ、漏れた?」
服部は、机の上の別の書類に目をやる。
「コイツが原因か!」
その書類には、京都市の東部で続発する殺傷事件が書かれていた。
動物に襲われた様な傷が残り、一部の目撃では等身大の未確認生物との報告が有る。
自衛隊を呼ぶ前に、東京の本庁から応援を呼んで調査する通達があった。
麻橋が発見されたのは、そのついでみたいなものらしい。
千年以上の歴史で、作り上げたネットワークが、ここ数か月で瓦解している。
いや、ネットワークで情報統制したが為に、一度漏洩すると被害は甚大なのだろう。
「まさか、麻橋が殺られたのは、情報漏洩が原因か?偽情報だったのか?」
施設が襲われた時に、個人情報の漏洩が叫ばれ、その後に施設や陰陽師の連絡途絶が増加した。
ネットワークが悪用されているのかも知れない。
地位のある者は、警護を強固にしているが、そうでない者は、大半が逃げた。
「そう言えば」
服部は、別の書類を引っ張り出す。
携帯電話の位置情報を、業者に公開させる為の裁判所へ出す書類だ。
陰陽師や施設。公には一般人と一般企業だが、それらが殺傷、行方不明や破壊された事件の容疑者としてあげられている者で行方不明な者を探す為らしい。
「犯人扱いされている者も、逃げた陰陽師じゃないのか?」
リストに幾つか、服部も知った名前がある。
書類によると、通報があった容疑者の自宅は藻抜けの空で、そこから過去に殺された人物/陰陽師の名前と写真と住所や、破壊された建物の詳細が書かれたリストが発見されたらしい。
更には爆弾や自動小銃まで発見されている。
残っていたパソコンのメールアドレスを辿ったところ、やはり一部が行方不明になっており、自宅や会社ロッカーから、同様な物証が発見された。
「陰陽師の殺害事件を利用して、逃げた陰陽師を探すつもりか?」
多くの関連性を理解して、服部は、この裁判所書類を留め置くことにした。
時間を稼いでやる事くらいしか出来ないが。
「兎に角、この情報を他の陰陽師にも伝えなくては!」
トントントン
服部が電話しようとした時に、彼の居る警視長室がノックされた。
「服部警視長。いらっしゃいましたね。監察です」
服部が返事をする前に、数名の男が入室してきた。
「何だね?無礼だろう。私は警視長だぞ」
「服部英治警視長。首席監察官承認の逮捕状です」
男達の一人が、逮捕状を広げる。
監察官は警察の中の警察だ。
警察不祥事の捜査や服務規定違反など内部罰則を犯した警察官への質疑などを行う。
そして、そのトップである警察庁長官官房首席監察官は、国家公務員である。
「容疑は何だね?」
「殺人犯の脱獄関与と、その隠ぺいを指揮したものとして、既に証人も証拠も確保してある」
監察官の後ろから、資料で見知った、本庁の人間が姿を現す。
服部の目には、その顔に、狐の様な影が重なって見えた。
「狐憑きか!大黒天投入のメールも罠か?ハメラレタか」
麻橋を使う為に、刑務所と警察の協力者や陰陽師に指示を出したのは、確かに服部だ。
尋問の為に移送扱いにして、その為の書類にサインもした。
物証はあるだろう。
輸送車は、協力警官と共に、本来は目的地でない場所で発見されただろう。
服部に逃げ場は無い。
彼は大人しく、監察官に同行した。