流星街
この街では毎晩星が降る。
流れ星とかそういった子供だましみたいなものではなく実際に星が落ちるのだ。しかし、こう言ってしまえば隕石のようなものを想像してしまい穴ぼこだらけの街を想像するものもいるだろうがそれも違う。
これだけは見たものにしかわからないだろう。絵本に登場する流れ星が下らなく思えてくるほどの絶景に飽きたこの街の人々は今日も煌々と灯りを照らしている。
ほら、今も星が私の窓を叩く。本当なら星がはじける時に虹色の火花を散らすのだが、人工的な灯りに勝てないそれらは虚しく消えるだけだ。
二回目、また星が窓を叩く。これは偶然ではない。いくら星が降ると言っても二回続けて私の窓を叩くことなどありえない。
そう、彼女が来たのだ。彼女は落ちてくる星を器用に受け止め、それを窓にぶつけてくるのだ。
彼女は黙ったまま背を向けている。後ろに組まれた手は夜には似つかわしくないほど白く、弱々しい。人差し指についているシルバーリングは去年、私が挙げたものだ。
私は窓から飛び出し靴も履かないまま彼女の元へ行く。部屋用のスリッパが情けなく地面をたたく。
その音に気付いた彼女は真っ白のワンピースを翻しながらこちらに振り向く。
首筋のすぐ隣を所在なく流れ星のイヤリングが揺れている。そんなありきたりなものでさえ彼女が身に着けると不思議と価値あるものに見えてくる。
彼女は眉毛を隠すように切りそろえられた真っ黒の前髪を直しながら私の手を引く。
2人の指の隙間を狙ったように星が落ちてくる。指の間にある闇は虹色に輝いている。
麦わらのサンダルはご機嫌に進んでいく。
二つの影は頼りない細い線でつながり、そこに跳ねる星たちは生き生きとしていた。
彼女はこの街で一番明るい広場に私を連れて行った。
目の前には元気をなくした噴水があり、それを問い囲むように街灯がいくつも立てられている。
立ち止まった私たちを中心に影は花火のように広がっている。その上に落ちる星のせいで本当の花火のようにも見えた。
しかし影以外に星が降っていることを確認する方法はなく、見ることが無くなった私は彼女の曇りないワンピースが揺れるのを見ていた。
彼女は合図をするように僕の手を軽くゆすった。彼女の顔を見ると小川のように緩やかな笑みを浮かべ私を見ている。
そうして自然に、そうしないと死んでしまうかのように健気に僕の隣にならび、絡み合っていた指をほどき腕を組んできた。
あまった彼女の左手は空高く吊り下げられた満月をさしている。
しかし月明かりは街の明かりに侵されやはり陰っているように見えた。
残念がる私をよそに彼女は人差し指をたて指揮者のようにないやらカウントしている。彼女の指が振り子のように弾み、一往復した後、元の高さに戻り、彼女の指が振り下ろされた瞬間、街の灯りは消えた。
何も考えることのできない僕の目に飛び込んできた光景は圧倒的だった。
一面虹色の花に埋め尽くされ、読む気配のない煌めく流星は身丈の何倍もの尻尾を引き連れ地面に沈んでいく。
月光は元気を取り戻し煌々と彼女の白を際立たせている。
病的に笑う彼女の耳には流星が嬉しそうに跳ねていた。