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僕らは天才じゃない  作者: 七寒六温
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(鈴木 俊哉)

「庭野のどこが好きなの? やっぱり顔か?」


「…………」

千春は考えるためか少しの間 黙りこんだ。


「皆がカッコいい人がいる、庭野君って子がかなりイケメンだって噂してて、それで意識するようになって庭野君の顔を度々見てみると、あっ、カッコいいなって思って、でも見た瞬間からカッコいいなとは思っていたから一目惚れなのかも」

一目惚れ。俺はまだそんな体験をしたことがない。俺の場合は最初は友だちから入って一緒に遊んだりしているうちに徐々に徐々にだったから一目惚れではない。


「一目惚れか。でもそれってどうなんだろう?」

「買い物でいったら衝動買いみたいなものだろ? 衝動買いって買ったすぐの高揚感は凄いけどのちのち考えると冷めるからね。やっぱりいらなかった、何でこれ買ったんだろうって、結局後悔する」

心の中でそんなことを思い、口に出そうか悩んだもののやめた。口に出したところでどう思ってもらえるかは分からないし、妬みっぽく理屈っぽく聞こえるのもカッコ悪いから。


「顔かぁ……やっぱりな……」

変わりに会話を成立させるためだけのしょうもない言葉を小さな声で呟いて下を向いた。顔って言われてしまっては、顔はどうしようもない。自分の顔には自信がないから、ずっと人間味で勝負してきた。カッコいい顔になるためには整形でもすればいいのかもしれないが、俺にはそんなお金はない。


「ええっ……ダメなの?」


「別に。ダメではないけど……」

「ただ、羨ましいなって思って。あんなにカッコよく生まれてさ……悩みとかあるのかな」

好きになった理由が顔っていうのがダメなわけじゃない。むしろ、顔が大事な条件のひとつだっていうのは胸を張っていっていい。みんな好みの顔があるのは当たり前だから、ないって言う人の方が間違っている。


「それにしても、不公平だよな。努力すればどんなことにでもどうにかなる 努力すればどうとでもなる。スポーツも勉強もルックスも何事も努力が必要っていうけどさ」

「限界はあるよな、努力には」

俺は努力って言葉がピーマンって言葉の次に嫌いだ。努力にも限界はあって、必ず報われるわけではない。

俺がどんなに努力したところで俺が国民的美少女になれることは700%ないのだから。


「努力っていっても生まれ持ったものがあるじゃんか、才能っていうやつ……」

「初期能力が30のやつと初期能力が200のやつが同じときに生まれたとしよう、30のやつはどれだけ努力すれば200のやつに追い付けるんだ?」

「200のやつも同じように努力したらその差を埋めることはできないだろ……むしろ初期能力が高いやつは性能がすぐに上がりやすいと思う、そういうやつは器用だろうしな」

今 活躍しているようなスポーツ選手や有名大学卒の人たち全員を批判するつもりはない。その人たちもたくさんの努力はしてきたに違いないから。でもそんなことでも言ってないと自分を保てない気がする。


「それでも努力をさせるのか? 無理だろう、悲しくなるだけだ。人の3倍頑張ったところで初期能力の差が開きすぎているやつには敵わない」

今 俺の目の前に、俺の初期能力を決めたであろう神様ってやつが現れたら容赦なくその頬を殴る。それもグーパンチでおもいっきり2、3発、それでもお釣りがきてもいいくらいだ。


「努力って報われないことの方が多い。しないよりかした方がいいっていうことは知っているけど」


「そうだね」


「千春、何してんの? 帰るぞ~」

屋上に千春の友だちである坂本が、千春を誘いに来た。千春の友だちだからあまり悪くは言いたくないが、俺は彼女のことが好きではない。

彼女の自信に道溢れた言動と男のような言葉遣いが苦手だ。実際彼女はそう行動できるだけの美しい容姿をしている。彼女のことが好きな同級生の男を俺は何人も知っている。そう、嫌いな理由がたくさんの人に好かれているというこれまた醜い理由も1つはあるが。


「補習はさ、少し前に終わってたんだけど少し用があってさ」

補習……?

そうか、彼女は頭はよくないのか。良かった。

彼女が数学の補習を受けていることを知ってホッとした。

神様は彼女1人を特別扱いしなかったようだ。


俺は、それでも神様に特別扱いをしてもらった男を知っている。容姿がいいというのに勉強も運動もそれなりにできる。女子から絶大な人気を得ている。何もかも神様からいただいた贅沢人間。


俺の皿の上にはさばの味噌煮とおしんこしか乗っていないのに、そいつの皿の上にはキャビアにシャトーブリアンにフォアグラ、伊勢エビ、ハンバーグが乗っている。そのハンバーグ、半分いや、4分の1でいいから俺に分けてくれないだろうか?


「あ、鈴木……いたんだ」

「邪魔したな ごめん」

坂本は俺の存在に気づくと左手を挙げた。俺は彼女に手を挙げられて挨拶をされるような関係性ではない。彼女の話は千春からたまに聞くくらいで。彼女はそんなことも気にをせず、誰にでもそんな対応を出来るのだろう。自分は周りの人間みんなから好かれている、好かれる存在だと自分で思っているのだろう。


「いいや別に大丈夫だよ。たわいもない話だったから じゃあ お疲れさま 気を付けて」

もう少し話したいことはあったが、ここで千春とは分かれることにした。坂本と千春と3人で屋上にいても気まずいしな。

見送るときに、千春の方を見ようと思うのになんか恥ずかしくなって坂本の方ばかり見てしまう。改めてじっくり見ると坂本は女優のような整った容姿をしているが、総合的な可愛さでは千春には敵わない。


「じゃあね俊哉 また明日」

「お疲れ 鈴木」

大きく手を振る千春が可愛すぎた。

坂本と女同士2人で話して千春が少しでも元気になってくれればいいな。俺は苦手だけど千春にとっては仲のいい友だちだろうし。


「女心を男が理解するのは難しいか」



「おっ、鈴木 今帰りかよ!」

「今まで何してたんだよ?」

 

「いや、別に?」

 

「まあいいや、一緒に帰ろうぜ?」

千春と坂本を見送り、1人で帰ろうとしていた所、下駄箱で、東雲和大に声を掛けられた。


「うん、いいよ」

1人で帰るのも微妙に寂しかったから、東雲と一緒に帰ることにした。


「途中でラーメン屋に寄ってこうぜ!今日は俺の奢りでいいからさ」


「えっ?いいのか?」


「いいよ。むしろ奢らせてくれ!」


「じゃあ、お願いしようかな……」

素直にお言葉に甘えることにした。


高校に入ってから初めにできた友だちは東雲だった。尾崎や岸は中学時代からの友だちだから。


「えっと…ひがしぐも君?」


「いや、しののめ、しののめ!」

「ひがしぐも やったらお前の前に座っとらんやろう?」

「す の前は、ひ じゃないやろ?」


「ごめん、しののめ君か」


「かまわんよ、しののめかずひろって俺の名前、1発で読めるやつそうおらんから」

東雲は、入学当時 俺の前の席に座っていたことで、自然と話すようになり、仲良くなった。


東雲は、庭野ほどではないが、整った顔をしている。身長も高いし、頭もいい。

テニス部では、部員が少ないこともあり、1年生から副キャプテンをしている。

本人は、キャプテンは嫌だけど、副キャプテンなら楽そうだから引き受けた。なんてことを言っている。


これだけモテそうな要素があるのに、彼女がいないのは、口の悪さと彼自身の女子に対する意識の低さによるものだと思う。


「今日も、山瀬のやつうるさかったわ~

授業中にさ、何が面白れーのか知らんが、ぎゃあぎゃあ ぎゃあぎゃあ、うるさい声で笑いやがってよ。もう少しで、手が出てたわ」

東雲は、特に女子に対しての評価が厳しい。何が気に入らないのか分からないが、口を開けば、女子の悪口を言っている。


不思議なのは、男子の悪口は一切 言わないこと。男友だちは俺よりも多い。

そういえば、男子とは多くのやつと、よく話しているが、女子と話している所を見たことがない。女子から嫌われそうな要素はないし、自分から避けているのか。

単純に女嫌いってだけなのか?


「思わねーか?」

「って鈴木は山瀬と同じクラスになったことがないから分かんないか。本当にうるさいよ、1限目から6限目まで、静かな時間がないんだよ。しかもあいつ馬鹿だからさ、風邪引かねーんだよ」


「そっか、大変だな 先生が注意すればいいのにな?」


「そこなんだよ、そこ!」

「あいつはどんなにうるさくしても軽くしか注意されないんだよ。山瀬は結局、ひいきされてんのよ 明らかに」


「それと他にもムカついたことあったわ。それは山瀬じゃねーんだけどよ。今日 テニス部は休みだったんだけど、俺が何でこんな時間まで残ってたかっつーと、俺の隣の席に座っている坂本って女子が、俺のカバンを間違えてたんだよ」 


「そこらにいるかと思ったが、いねーわけ。探したら数学の補習らしいってことが分かって、仕方ねえから待つじゃん。そしたらこの時間よ!」

これは、東雲の愚痴はラーメン屋につくまでは終わりそうにないな。


「坂本は補習が終わるとすぐに教室に戻ってきたんだけど、ここでもまだ気付いてないんだよ。自分のカバンにストラップがついていないことに気付き、探してたんだとよ」

「そのカバンにはついてねーよ、変なストラップは」


「まあ、そりゃそうだよな。坂本が持ってるのはだって、東雲のだもんな」


「話したくはなかったが、教えたよ」

「教えてやったら、一応 坂本は謝ってきたよ。だが、謝り方が気に入らなかったからさ、言ってやったんだよ!」

「俺の1時間は、こんなにくだらないことで、奪われたって」


「そしたら、坂本が黙って俺の目の前に1500円を置いてきた。金で解決するのかと思ったけど、これ以上話したくないし、ケチつけるのも男らしくないと思い、黙って1500円を俺は受け取った。仕方ないからそれで許してやることにしたよ」

金で解決しようとした坂本も坂本だが、東雲も大概だな。普通そんなことで現金を受け取るか?


「おい、ということは、もしかして、ラーメンを奢ってくれるっていうのは、坂本からお金を貰えたからじゃないだろうな?」


「ちげーよ。確かに坂本から1500円は貰ったけど、ラーメン代は、元々用意していたものから出すから、俺のお金だ」


「俺はチャーシュー麺大盛り、鈴木は?」 


「俺はラーメンで」


「じゃあ、チャーシュー麺大盛り2つ!」

東雲は俺に何にするか聞いておきながらも、結局 チャーシュー麺大盛りを2つ頼んだ。


「そういやさ、面白れー話があるんだった。面白れー話が……」 

このタイミングで、その話はやめてくれって言って、他の話をふっておけばよかった。東雲の面白い話っていったら大体がひと呑み悪口だと分かっていたのに。


「どこでかは、分かんねーんだけど、大声で叫んでいるやつがいてさ~~」

「青春の馬鹿やろう~~だってさ……どこのどいつか知んねーけど女の声でそう聞こえてきた。うちの学校にそんなやつがいるのかよ。少女漫画の読み過ぎか?今どきそんなくせー台詞、ドラマでも出てこねーわって」

千春のことだ。東雲は俺が千春のことを好きだって知らないから平然と千春の悪口を言ってくる。


「これだから女ってのはウザいんだよな。周りの迷惑を考えずに、自分の好きなように行動する。この世界での主人公が自分だと思っているのか知らないけれど自由だよな」

俺も同じように叫んでいたのに、そのことは全く触れなかった。やはり男の悪口は言わないようにしているのか。  


「おかしくね?おかしいよな?そう思うよな鈴木も?」


「あ、うん、ああ……」

情けない。何で、俺はそうは思わないと言えなかったんだ。何なら、チャーシュー麺代を置いて、店からから出て行くような素振りをして怒ってもいいくらいなのに。


結局 俺は、千春の悪口を言った東雲の隣で、東雲に奢ってもらったチャーシュー麺大盛りを一緒に食べている。モヤモヤと後悔と情けなさのせいで、いつもは美味しいはずのチャーシュー麺が、全く美味しくなかった。


東雲は、俺が千春のことが好きだとは知らないし、それに叫んでいたのが千春だったってことも気付いていなかった。単純に女子の悪口を言いたかったのだろう。


人とは勝手な生き物で、自分や自分の関係のある人が悪口を言われているとムカついたり、腹が立つのに、自分と関係のない人間や自分の嫌いな人間が悪口を言われていると同じように自分も悪口を言ったり、何とも思わなかったりする。




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