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僕らは天才じゃない  作者: 七寒六温
8/31

(西村 渉)

「大きくなったらぼく、やきゅうせんしゅになるんだ!」

「いっぱぃホームランをうってかつやくできるようなせんしゅになる。ピッチャーでは、さんしんをとりまくるぞー。それでチームをゆうしょうさせるんだー」

そんな夢を見ていた小学2年生から現在まで、ずっと野球を続けてきた。けど俺は、プロ野球選手になれない、無理だっていうのは薄々感じていたけど、色々犠牲にしてきたんだ。意地として、将来は、野球に関わる仕事がしたいと思っている。


「だけと俺にそんな才能はあるのか?」


「西村ならプロ野球選手になれるよ!」

「いいなー 頑張れば億稼げるじゃん」

中学では1年の時からエースで、4番を任され、その期待に応え、投げては抑え、打ってはヒットを連発と、それなりに成績も収めてきた。怪物だなんていわれ持ち上げられ、いい気になっていた。


「渉、兄ちゃんにお前の話したら1度高校に見学に来ていいって言ってたよ!」

そう声を掛けてくれたのは、同じ野球部だった富永君。


ワクワクした気持ちで、富永君とともに見学に行った。結果的に、この見学によって、俺は見学した高校ではなく、今の高校に行くことを決めた。今の高校は特段 野球部は強いわけではない。

富永君には感謝している。富永君のおかげで、俺は一歩踏みとどまることができた。


行けなかったのではなく、行けなくなったって理由にしたかったから、両親にワガママを言って、実家から遠く離れた祖母の家に住ませてもらうことにした。 

祖母の家の近くで高校を探したため、中学時代の知り合いは誰一人いない。


ある程度の関係性ができている知り合いが、誰もいない中で入学式を迎えるのは辛くキツいことだと分かってはいたが、地元に残って、才能がなかったと指を刺されて笑いものにされることの方がその時は嫌だった。


祖母の面倒を見るために、高校から転校することを明かすと、


「本当なのかよ西村!」

「もったいないな、せっかく才能があるのに、もったいない」

「じいちゃん、ばあちゃんの所に行くんだろ?それなら仕方がないよな」

友だちが掛けてくれたのは、俺が望んでいた言葉ばかりだった。こんなにいい奴らを、俺は騙しているのかという罪悪感は当時は感じていた。


中学校の卒業式の次の日

「西村、俺たちはずっ友だからな!」

「そうだよ、ずっ友だから毎日連絡するからな!」

「俺たちのこと忘れたなんて言わせねーぞ! 好きな人ができたら、俺らに連絡してこいよ!」

素敵な友だちの素敵な言葉、に見送られた。

祖母の家に向かう途中の車内で、1度は、この選択は間違いだったのではないかと少しだけ後悔をした。


だけど、見送られた日から現在に至るまで、彼らの中で誰ひとりとして連絡をくれた者はいない。

最初の頃は、みんなも高校の準備が忙しかったり、緊張してるんだろうと思っていたが、1か月、2か月、1度たりとも連絡がくることはなかった。ずっ友って言葉も、毎日連絡するからなって言葉も建前だったのだと知った。連絡は多分しないと思うけどなんて言って送り出すようなやつもいないだろうし。


いや、いっそせいせいしたし、吹っ切れた。

地元の高校に行っていてもそんなに楽しい未来はなかった、こんなレベルの友だち何だから、一生の友だちになれたとは思えない。小さなことで喧嘩して関係が崩れたに違いない。


俺は、野球だけは、意地だ。

意地でやっている 意地で続けている。

能力値的にプロ野球選手になることは無理だけど、野球に関わる仕事は他にもある。



球技大会

今年は、男子の競技は野球で、女子はバレーボール。

野球ばかりしてきた俺が唯一輝ける場所だ。


順調に俺たちのクラスは勝ち、見事決勝まで勝ち進んだ。決勝の相手は隣のクラスの2組。2組が勝ち上がることは何となく予想は出来ていた。野球部の野村がピッチャーをしていたから。


最終回 3対2と1点差で負けていた9回裏1アウト1塁。絶好の場面で俺はバッターサークルにいた。ダブルプレーにさえならなければ、俺に回ってくる。

長打で1塁走者が帰れば同点、ランニングホームランなら逆転できる。そしたら今回のヒーローは俺だな。


「ダブルプレーにだけはならないでくれ」

とバッターボックスにいる庭野に対して願った。最悪送りバントでもいいから俺に繋いでくれ。そしたら俺が逆転させてやるから。


「…………」

結果的に俺の願いどおり庭野はアウトにならなかった。


「ホームラン、サヨナラ2ランホームランだ」

大きく上がった打球。守備は必死でボールを追いかけるが、ボールはどんどん転がっていく。1塁走者は楽々帰り、庭野もホームベースを踏んだ。この瞬間3対4となり、うちのクラスの勝利が決まった。


ヒーローはサヨナラホームランを打った庭野。

彼の周りにはうちのクラスのやつらが男女問わず集まっていた。


「すげーな庭野!」

「さっすがだわ。勝てたのはお前のお陰だな!」

「きゃーー 庭野君 カッコいいわ」

全てを庭野に持っていかれた。


皆は忘れているだろうが、決勝戦 先制の2点タイムリーヒットを打ったのはこの俺だ。

2アウト2,3塁というプレッシャーのかかる場面で見事ヒットを打てた。あの2点がなければ現在3対2。まだ試合は終わっていなかった。庭野と同じように優勝の立役者として少しくらいは、褒められていいはずなのに、俺の周りに人は集まらなかった。


野球部のやつらは、入学してすぐに俺がレギュラーになったことが気に入らなかったらしく、俺のことが大嫌いだから、俺に見せつけるように庭野の周りに集まっているんだろうけど。俺の打席の時に野村の方を応援していたのも知っている。だが、それ以外も皆 庭野の周りで嬉しそうにしている。


それは、庭野の一振りで勝利を決められたからか?

それとも野球部でない庭野があんな打球を打ったからか?

元々人気がある生徒だったからか?

答えが最後だったら、あの打席で俺がサヨナラホームランを打っていたとしても、庭野がされているようなレベルの祝福は受けなかっただろう。俺は人気がある生徒ではないから。


庭野が悪いわけではないのに、庭野のことが嫌いになりそうだ。カッコよくて人気者のあいつは、そういう星の元に生まれたんだ。彼には運までも味方する。彼のような人間にはチャンスが回ってくる。そしてそのチャンスを見事にものにする。聞いたことがある、神様はチャンスをものにできる人間にしか、チャンスを与えないと。ものにできる人間だからチャンスが与えられてきたのか。


俺は、庭野を囲む輪に入ることが出来ずにいた。そこに入らなかったのは、俺自身だけは、先制の2点が勝負の鍵となったのだと思いたいから。


特に仲のいい友だちもいないから、俺は1人でその様子を座って見ていたが、俺の隣に1人の女子生徒が座った。


「残念、残念。先制点は、西村が決めたのに、そのことは忘れられて逆転の2ランホームランを打った庭野だけがあんなに、もてはやされて」

三島愛子。

彼女は、ルックスがいいことを自覚しているからか、他人を見下してるに聞こえることがある。喧嘩になるほどではないが。とはいっても俺は彼女とは特に仲がいいわけではない。というより俺に友だちがいないっていうのもあるが。


「別にいいんだよ。俺は野球部で庭野は帰宅部。野球部くせして、俺が取れたのは、先制点の2点だけ。誰が見ても庭野の方が凄いって思う。それが普通だよ」


「まあ、それはそうよね」

「あなたには、3打席あったんだから、全てホームランを打てていれば、少なくとも3点は入っていたんだから」

三島の言葉は正論だ。

決勝は、3打数3安打ではあったが、得点につながったのは2打席目だけ。1打席目は、塁に誰も出ておらず、3打席目は中途半端なヒットのため1塁の選手をホームに帰すことができなかった。


そう、その通りなんだよ。それは分かっているのにわざわざ言葉にしなくても。

3打席目、俺がホームランを打っていれば、それが逆転ホームランになっていた。


「なんだい?わざわざ俺の元にきて嫌みだけを言いに来たのかい?」


「そういうつもりじゃない。私はあいつの元に近寄りたくないだけ! ああやってヒーロー気取りしてるのもムカつく」

「私は西村に大活躍してもらって、庭野に見せ場を作らせないで欲しかったから、あなたのこと密かに応援してたの。ただ、それがこのざまだから、励ますついでに活を入れようと思ったの」

そうか、西村は庭野にフラれたんだったな。ルックスに自信を持っている彼女の辞書に、フラれるなんて言葉はなかったから、余程ショックだったんだろうな。自分のプライドを傷つけた相手だから、好きだったはずの男を、今は敵として見ているのだろう。


「そうだよ。俺は情けないな」

「相手ピッチャーも野球部だったとはいえ、このレベルでよくプロ野球を目指そうとしてたよな……」


「プロ野球選手?」


「笑うよな~昔の話なんだけどな」

「小学2年生から始めて、その小学校の中では才能があったんだ 中途半端に、そのまんま中学に入っても1番上手かったのは俺で、本当にプロ野球選手になれるんじゃないかなんて思っていた」


「だから、野球の強い強豪校に行くつもりでいたんだが、同じ中学校に通う同級生のお兄さんが行ってるってことで特別に、見学させてもらったんだが、レベルの差をそこで実感した」


「俺の力が10だとしたら、その高校の部員たちは、最低で70、80 90レベルの人たちがほとんどで、そこで自分の力のなさにギリギリ気付けた」 

「俺は、プロ野球選手を目指していいレベルではなかった。力の差は年齢の差とかいう理由じゃなく、明らかに能力的な差があることが痛いほどに分かった」


「それで、地元の高校に通うと、笑われそうな気がして、それは杞憂なのかもしれないけど、怖くて、祖母の家が近いこの高校に逃げてきたんだ」

何で俺は彼女に昔話なんかを語っているんだろう。別に聞かれたわけじゃないのに。


「西村の昔の実力で通用するとかしないとか私には分かんないけど、気付けたのはいいことなんじゃない。必要なのよそれは」

「人間は、中途半端に才能があることが1番迷惑なのよ!」


「もう少し、あと少し頑張ればプロになれるかも、必死の努力をしてもなれずここで脱落するもの、プロになったけど、芽が出ずに終わった者。中途半端に才能があったために諦めるに諦めることができなかった」


「8合目まで登らせておいて、ああ、ここから先は立ち入り禁止だから、頂上からの景色はお預けね! 頂上に登れないことが分かっているんなら、最初から教えといて!登る前や2合目で分かっていれば、その時点で諦めることができたのに誰も教えてくれない」


「頂上まで登れなかったけど、登ろうとした過程が大事なのよ。その過程は決して無駄じゃないなんて軽々しい言葉を掛けられるのは所詮他人だから」

「本人はそうはいかない。今までの時間はなんだったんだろう?ああ、無駄なことに時間を費やしてしまったな。なんて自己嫌悪に陥るの」

彼女の言葉は妙に説得力があった。中学時代の俺はどこまで登っていたのだろう。いやどこまで登れていたのだろう。諦めて下山し、登る山を変えた俺は、今の山の山頂からの景色を見ることはできるのだろうか。それともまた、頂上に行く前に別の山に登ることになるのだろうか?


「私には、西村の昔の話を笑えない。私もそうだったから……」


「同じ?」

「三島も野球選手になりたかったのか?」


「いや、違うわよ」

「私もあなたと同じように、無謀な夢を持っていたの。話すと馬鹿にされそうな夢をね」



「男の子って、みんな1度はヒーローになりたいって思うでしょ? 女の子はそれが、アイドルなの。1度はみんなあんなかわいいアイドルになりたいって思うの」

ヒーローか。確かに男はヒーローが好きだし、憧れるよな。俺が幼稚園児の頃は、周りのみんな、ヒーローかハンバーグになりたいなんて言ってたような気が。憧れるけど、なれるわけないことに普通はすぐ気付くから、諦めるというよりかは忘れる。


「大半は子どもの時のくだらない夢だと割り切って、そんなこともあったなって思うくらいで忘れていくんだけど、私は本気でなりたかった。大人たちがかわいいねなんて言ってくれるから目指してもいいんじゃないかと思ってた。勿論親は大反対だったけど……」

「中学になってからも可愛いと言われ続けた私はその気になり、その夢は変わることはなかった。だけど、私には1つ大きな欠点があって……アイドルとしては致命的な欠点だから、その欠点がマシになったらオーディションを受けていいって両親からの承諾も得た」


「欠点……?」

「それは、なんなんだ?」


「私は、音痴なのよ。自他共に認めるほどの。歌うことは好きだったし、たくさん練習したけれど一向に上達しなかった」

凄いな彼女は。欠点として、ルックスを挙げなかったということは、ルックスには自信があるんだな。まあ、自分を商品にするわけだからその商品を自身をもってすすめられるくらいでないといけないよな。自分に自信がないようではとてもなれない。


「約束していたの、中学校3年生の春までに歌が上手くならなければ、周りの子と同じように普通の学校に行って、現実的な企業に就職するって」

「それで私は、オーディションを1度も受けることなく、夢を諦めた」



「現実的に、現実的に、現実的に」

「そのためには、私がアイドルを目指していたなんて知られたら、普通の現実的な高校生活なんて送れないと思って、私も西村と同じように、地元から逃げてきたのよ」

そんな偶然あるんだな……

境遇が同じ人間がこの学校にいたとは。

でも、過去は似ているが、現在は俺と彼女では全く違う。彼女にはまだたくさんの友だちがいるだろうが、俺はいまだにこの学校に友だちと呼べるような存在がいない。


「アイドルは無理でも、芸能界に進む方法は他にもあったんじゃないのか? 芸能界のことはよく分からないけど、例えば女優とかダンサーを目指すだとか?」

ドラマと映画とか芸能系には疎い俺でも聞いたことはある。今や国民的女優とよばれるようになった女優も元はアイドル志望だったって話やアイドルとして活動していたけど、女優になるために卒業するアイドルもいることは。だから、アイドルという道は諦めたとしても、別の道は他にもあったんじゃないかって。


「それは違う。私は、アイドルになりたかったわけで。じゃあ西村は、明日からラグビー選手を目指すの? 違うでしょ?」


「そ、それは違うけど……」


「でしょ? 私もそれと同じ」

それは屁理屈だわ。ダンサーとアイドルは重なる部分はあるが、ラグビー選手と野球選手は重なる部分は少ないだろう。俺の言葉が、彼女の癇に触ったのなら謝るが、別に馬鹿にしたつもりはなった。あくまで素朴な疑問のつもりだった。


  

「大人は何かあると、君たちは若いんだから何にでもなれる。なんて言葉をすぐに使うけど、何にでもはなれないよな。目の前に魔法使いでも現れれば別だけど、何にでもはなれない」


「これを言っておけば、とりあえず励ましてるつもりかも知れないけど、それは言った方だけの自己満足だ」

「今から俺がプロゴルファーになれるか? 恐らくなれない」


「変に背中を押すだけ押しといて、なれなかったときの言葉はもう用意してある。なれなかったときはこう言うんだ」

「君の努力が足りなかったんだ……」

この言葉は本当に嫌いだ。馬鹿にしている、努力が足りなかったってなんだよ、何が努力だ。


「そうね。私も嫌いな言葉がある」

「あなたの好きなことをやりなさいって言う言葉」

「自分を正当化させたいからか知らないけど、口ではそんなことを言うくせに、本当に好きなことはさせてくれないんだよ」


「まあ別に。嫌な言葉ばかり考えていてもつまらないだけだから、好きな言葉の方を考えることにする。私が好きなお笑い芸人さんが言ってた言葉なんだけど」

「自分に才能がないって気付けるのも才能だって」


「なるほど、じゃあ俺たちにはその才能はあるってわけか……」


「いいや、それは違うわ」


「私たちがこれから別の分野で活躍することがデキた時、初めてこれは才能だったと認められる」

悲しいことではあるが間違いではない。

才能があっても成功していなければそれは、才能とは認められない。成功して初めて、天才だ、才能があったと言われる。そういう意味で言えばこの学校に、天才予備軍はいたとしても、天才はまだいない。


みんなに囲まれているあの庭野でさえも、まだ天才と呼ぶには程遠い。ああ、俺には天才と呼ばれるような日は来るのだろうか。


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