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僕らは天才じゃない  作者: 七寒六温
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(青木 千春)

「庭野のどこが好きなの? やっぱり顔か?」

俊哉にそう尋ねられて考える。私って庭野君のどこが好きなんだっけ……


「…………」

好きになるきっかけとなった具体的なエピソード。無くしたと思っていた消しゴムを見つけて笑顔で届けてくれたとか、大変な作業を手伝ってくれたとか、悪い人に絡まれていた所を助けてくれたからとか、そういうのは私には一切ない。 


「皆がカッコいい人がいる、庭野君って子がかなりイケメンだって噂してて、それで意識するようになって庭野君の顔を度々見てみると、あっ、カッコいいなって思って、でも見た瞬間からカッコいいなとは思っていたから一目惚れなのかも」

少し長めの文章で語ってみたが、結局のところ……顔である。顔がカッコよかったと思ってからはもう、庭野君が何をしてもカッコよかった。


「顔かぁ……やっぱりな……」

俊哉は小さな声でそう言うと、下を向く。


「ええっ……ダメなの?」


「別に。ダメではないけど……」

「ただ、羨ましいなって思って。あんなにカッコよく生まれてさ……悩みとかあるのかな」

ああ、そういえば、俊哉の顔をイケメンだとかブサイクだとか判断したことがない。兄弟の顔をそういう風に判断することがないのと同じようなものかもしれない。でも、イケメンかブサイクかで言われたらイケメンだよ。本人も別にそれを武器にしてはいないようだけど。


でも、それ以上に性格がいいからね俊哉は。俊哉のプレゼンをするならは顔じゃない性格。

だから、そんなに悩まなくても大丈夫なのに。俊哉のよさを気付いていない方が悪いんだよ。よく言う、あれ、時代が追いついていないってやつだ。


「それにしても、不公平だよな。努力すればどんなことにでもどうにかなる 努力すればどうとでもなる。スポーツも勉強もルックスも何事も努力が必要っていうけどさ」

「限界はあるよな、努力には」

俊哉が語りだした。深そうな話をする俊哉の顔は切ない。自分の才能の無さに呆れた科学者とでもいおうかそんな顔をしている。完璧な庭野君と自分を比べて落ち込んだのだろうか。庭野君と比べるのは無理がありすぎる。俊哉が悪いわけではない。 


例えるなら高校野球の試合に突如現れた助っ人のメジャーリーガー。高校生の中では怪物って言われている野球少年も、メジャーリーガー相手では全く歯が立たない。

メジャーリーガーのプレイを見て、野球少年は落胆する。そこと比べたってしようがないのに。これと同じような事を俊哉はやっているようなもんだから。庭野君はチートだと思う。カッコいいし、運動神経もいいし、友だちも多い。欠点が見つからない。


「努力っていっても生まれ持ったものがあるじゃんか、才能っていうやつ……」

「初期能力が30のやつと初期能力が200のやつが同じときに生まれたとしよう。30のやつはどれだけ努力すれば200のやつに追い付けるんだ?」

「200のやつも同じように努力したらその差を埋めることはできないだろ……むしろ初期能力が高いやつは性能がすぐに上がりやすいと思う、そういうやつは器用だろうしな」


「それでも努力をさせるのか? 無理だろう、悲しくなるだけだ。人の3倍頑張ったところで初期能力の差が開きすぎているやつには敵わない」

俊哉の話していることは何となく理解できた。私もそのようなことを考えたことはある。考えてみてはすぐに諦めた。


可愛くなるために髪型や仕草の勉強をしたところで、元から可愛い茉優美のナチュラルな可愛さにさえ勝てる気がしない。だから頑張る気にもなれない。誰も私に振り向いてくれないのならこんなことやる意味はないと思った。


「努力って報われないことの方が多い。しないよりかした方がいいっていうことは知っているけど」


「そうだね」

私も胸を張って努力をしているとは言えないけれど努力って言葉はあんまり好きじゃない。


「千春、何してんの? 帰るぞ~」

俊哉と話をしている途中だったけど、屋上まで茉優美が私を呼びに来た。数学の補習が終わったのだ。茉優美は美人だけど頭はよくない。特に数学と英語が苦手なようだけど、茉優美の場合は、多少頭が悪くても心配ないと思う。


何故なら可愛いから。

可愛いければ勉強をしなくとも社会を生き抜く方法はいくつかあるだろう。容姿だけで採用を決める会社もあると先輩が噂しているのを聞いたことがある。


「補習はさ、少し前に終わってたんだけど少し用があってさ、ごめん ごめん」


「あ、鈴木……いたんだ」

「邪魔したな ごめん」

茉優美は俊哉の存在に気づくと左手を挙げた。茉優美は私と俊哉の話の邪魔をしたことを気にしたのか申し訳なさそうにしている。


「いいや別に大丈夫だよ。たわいもない話だったから じゃあ お疲れさま 気を付けて」

俊哉は私たちを見送る。俊哉は茉優美の方ばかり見ている。やっぱり俊哉は茉優美のことが好きなんだと思う。だとしたら、邪魔だったのは俊哉じゃなくて私なんじゃないかな。俊哉も茉優美と話したかったのかな?


「じゃあね俊哉 また明日」

「お疲れ 鈴木」

私は茉優美と2人で帰ることに。

私も茉優美も帰宅部だから一緒に帰ることが多いけどそこまで仲良しというような関係性ではない。


「聞いてくれよ千春~ 先週別れた彼氏なんだけど、やっぱりやり直したいって連絡がきてさ~」

茉優美は先週まで他校の生徒と付き合っていた。茉優美いわく、高スペックな彼氏ではあったらしいけど、ちょっとしたすれ違いで別れることになったらしい。でも流石 茉優美。他校から彼氏を見つけるなんて。


「悪いのはむこうだからな。私との約束をドタキャンしておきながら友だちとカラオケに行ってたんだからさ。一応 男5人だけだったらしいけど、そんなん浮気疑うわな~」

麻由美は自分の話をするのが好きな子で逆に他人の話にはあまり興味がない。


「少し問い詰めただけで別れるって泣きながら言ってきたから別れたのにさ、今更やっぱりやり直したいって、遅すぎるやろ?」

「千春はどう思うさ? 普通はやり直さないよな? 話す気にもならない。むこうが悪いんだからさ」


「でも、もう1度、もう1度だけ2人でゆっくり話し合ってみたら? お互いが理解するまで。話し合ってから別れる、やり直すっていう決めるっていう選択もあるんじゃない?」

「茉優美1人が考えないで、2人で考えるといいよ」

そう言おうと思ったけど、俊哉の顔がふと 思い浮かんでやめた。


「俊哉は多分、茉優美のことが好きだから、これは俊哉にとってチャンスかもしれない。俊哉が茉優美と付き合えるかもしれない」

「ならば、このまま別れてもらったままの方がいい。茉優美の元彼と私は知り合いじゃないし、私は俊哉の味方をする」


「さっすが千春じゃーん」

「千春ならそう言ってくれっと思ってたわ~まじで、千春に話してよかった~」

「1回話を聞いてあげたらなんて甘いこと言われてたらまじ、ショックだったわ」


「う、うん……」

よかった、茉優美も喜んでくれたみたいだし 結果的にこれでよかった。私の判断は間違っていなかった。


「サヨウナラって文章で送っとくさ」

「口頭で伝えてもどーせ 喧嘩になるだけだろうしさ。こういうときは文章の方がいいだろ?」

完全に元彼のことは忘れたのか、麻由美の目には涙はおろか悲しそうな表情すら一切ない。むしろ清々しいほどの笑顔だ。


「茉優美ならすぐ、新しい彼氏見つかるんじゃない? 茉優美かわいいし」


「そ~か? まあ、次は同じ学校で同じ学年にするわ。他校は色々と面倒だ。監視できんし、会うのは週1だし」

やった、やった!

同じ学校で、同じ学年。

茉優美の出した条件に、俊哉は当てはまっている。


「条件が 当てはまるの、大事!」

30代男性求むといわれているアルバイトに私が参加することはできない。それは条件が当てはまっていないから。


「千春もさ~彼氏つくんならさ、同じ学校で同じ学年にしときなー。そっちのほーがぜってーいいし」

「それと、幼なじみと付き合うと案外上手くいくっていわれてんよ。いんじゃん千春には。あーうちにも幼なじみがいればな~」

幼なじみと付き合うって、私と俊哉はそういう関係じゃないよ。俊哉が彼氏だったら、嬉しいし、楽しそうだけど 昔から知ってるから少し恥ずかしい。

それに、俊哉は茉優美のことが好きなんだよ!  

茉優美 気付いてあげて欲しい。


「そういえば、茉優美は庭野君のことは何とも思わなかったの?」


「ああ、庭野?」

「カッコいいとは思うさ、素直に」

「だけど、あいつは無理さ。落とせそうな気がしない。うちは、アプローチをかける相手を選ぶからさ、可能性がないとこに時間掛け

ても無駄やし」


「かっこいいとは思ったんだ……」


「で、結局あいつ、宮田さんだっけ? ブサイクな女選んだじゃん」


「ああ、宮城さんね」


「それな!」

「うちが名前覚えられてない時点で、陰キャじゃん! そんな陰キャを彼女にして何が楽しいのって」


「名前覚えるってそんな難しいことかな?」


「ああ、そりゃ無理だわ千春。私が何で、今後も絡まないようなあんなやつの名前覚えてやらなきゃいけないの?そりゃあ無理だわさー。それならさ、千春の好きな食べ物をまた1つ覚えた方がマシじゃんさ?」


「あ、あの角を曲がったところに新しいクレープ屋さんができてるらしいから寄ってこ、寄ってこ」

女子高生の楽しみの1つといえば、学校帰りの寄り道。その日の気分で洋服屋さんにいったり、アイスクリームを食べたり、ファミレスで時間潰したり。


「あ、うん そうだね」

楽しいけれども結構きつい部分もある。

女子高生の中でも親の仕事や月々の小遣いによって所持金に差が出る。茉優美の所持金が

オセロットだとしたら私はピグミーマーモセットくらい。だから、茉優美がクレープに使うお金と私がクレープに使うお金の重みは違う。


「茉優美は何でも持っているなぁ~」

茉優美は頭の悪さを引き換えに、神様に整った容姿と裕福さをもらったんだ。

正直いってずるい。


私なんて飛び抜けた才能や武器になるような特技もなければ茉優美のような整った容姿でもない。声だけでも可愛ければもう少し違ったんだろうけど。不公平だ、不公平。


「天は二物を与えない」


イケメン科学者として一躍有名人となった男性研究者は、過去の研究に偽装があったことがばれ、「大嘘つきもの」「ペテン師」と世間から酷いバッシングを受けたのちに、研究者を辞めることとなった。リークしたのは彼の友人だったらしい。それ以降 人を信じることができず、2年後に自殺した。


「人魚姫」のアダ名で有名になった美人水泳選手は、世界選手権で金メダルを取った次の日に、彼氏でもあるコーチの運転する車で交通事故にあって24歳の若さで亡くなった。コーチの方は怪我は負ったものの命に別状はなかったという。


頭もよくてカッコいい、可愛いのに水泳の才能もある。恵みを与えすぎた神様は、容赦なくその人たちを処罰したのだろうか。


「茉優美……あなたもいずれ処罰されるのかな?」

茉優美は天から二物もらっているよ。


平凡な人生だけど、80年生きることができるのと、何でも自分の思い描いたような人生を送ることができるが、23歳を迎える前に死んでしまう。


「あなたならどちらの人生を選びますか?」

と言われたら、私は迷わず後者を選ぶ。

今 私は17歳だからあと5年しか生きられないことになるけど、思い描いたような人生を送ることができるのなら、その5年間を必死に生きる。


「生きた年数と幸せは比例しない」

誰の名言かは知らないけど共感は持てた。

長く生きる分だけ楽しいことを経験できる可能性が増えるかもしれないが、辛い経験をする可能性も増える。


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