(庭野 正)
「今までどれだけの女を泣かせてきたのだろう」
告白は数えきれないほどされた。
告白してきた相手を笑顔にしたことは1度もない。告白は常に断ってきたから。
告白をしてきた子の中には女優のような綺麗な子や茶髪でショートカットのタヌキ顔。顔だけでいえば俺のタイプにあてはまる子もいたが、OKする気にはなれなかった。
「他人のことが信用できない。裏切られるのが怖いから、裏切られる前にこちらから先に裏切るようにしている」
ある出来事がきっかけでこのような人格が形成された。
庭野 正 17歳
俺はいい人なんかじゃない。普段はいい人のふりはしているが。自分でいってるんだから間違いない。周りはそう思ってようが思ってなかろうが、それが俺だ。
『この世は舞台、人はみな役者だ』
シェイクスピアの名言の中で俺が一番共感するものである。
分かっている。本当はこの世の誰もが嫌われないようにいい人を演じていることを。自然体って言われる人もどこかしらで演技をしている。
本当は嫌いなものをその場の空気に合わせるために好きっていってみたり、嫌なことを言われても、本当は傷付いてもその場がしらけないようにわざと周りに合わせて笑ってみたり。悲しくなくとも人は悲しくなることだって出来る。
演技をして、周りに合わせるってことが、大人になればなるほどそれが上手くなる。いや、それを上手く出来る人が大人と呼ばれる存在になるのだ。
俺は生まれながらのモテ男ではなかった。小学生、中学生の頃は男友だちは多かった方だが、女友だちと呼べるような子は1人もいなかった。恋愛には無縁だったけど、仲のいい男友だちと遊ぶ。実際、それが楽しいと思っていた。
俺自身もそういうことに興味がなかったということもあるが、女子から告白されることなんて1度もなかったし、俺のことが好きな女子がいるって噂を聞いたこともなかった。高校に入っても特に変わることはないと思っていた。俺も俺の周りの友だちも。
だが、入学して3ヶ月したある日の放課後
「庭野、3年の先輩がお前のことを呼んでるって」
そう言われて美術室に行くと、美術部の部長である3年生の新井先輩が待っていた。
「何の用だろう?」
その時の俺はそういうのに鈍くて、何で自分が呼ばれたのか、分かっていなかった。接点もなく、ただ名前だけは部活動紹介の時、綺麗な人がいるなって印象で覚えていた。
「好きです、付き合って下さい」
新井先輩は静かめな声で言った。その日雨が激しく降っていて、先輩の声は聞こえづらかったけど、言葉の意味は分かった。
「ごめんなさい……」
初めての告白に、戸惑い、心の整理が出来なかった俺はその告白を断った。今思えばこの時の選択が間違っていたのか。
俺が断ったことが理由かは分からないが、次の日その先輩は、長かった髪をバッサリと切り、ショートカットになっていた。
「原因は何だ?」
「何が彼女を変化させたのだ?」
そんな疑問から始まり、
「後輩に告白したらしいよ」
「え、今まで何度も告白を断ってきた新井さんが、自分からいったの?」
「それで、フラれた…」
その日の出来事が学校中に知れ渡る。何かとてつもない事件が起きたかのように騒がれる。
この美術部の部長は、この高校で相当な人気者だったらしく、その部長が告白するような男だからとんでもない美形なんだろう。
噂が噂を呼び、
「庭野はイケメン」「モテ男」
というキャラクター像が作られてしまった。モテ男なんてやったことないのに。演じ方が分からない。
「かっこいい 庭野く~ん」
それを気に俺は次々に異性から人気の的になった。異性から好かれるようにはなったが、同姓からは嫌われるようになっていった。
普段はニコニコして俺の周りに近付いてくる男たちは皆 陰で俺の悪口をいっていることだろう。
「何であいつばっかり」
「何だよ、ちょっとカッコいいからって」
「風邪でも引いて、学校休まねーかな? いや、むしろ一生学校来なくていいわ」
直接聞いたわけではないけど、悪口の内容まで予想がつく。
昔は友だちだったやつらも、今となっては、俺の周りにいることで、自分がカーストの上位にいることをアピールするためだけのやつが半分。俺とつるんどけばおこぼれでももらえるんじゃないかっていう淡い考えを持つやつがもう半分。
半分、黒い。どころか全てが黒い。
本当に俺のことを友だちだと思っているやつは1人もいないだろう。ああ、中学校時代はそんなこと考えなくてよかったし、楽しかったな。
「俺の好きな山瀬さんのことを泣かせやがってよ~~お前なんか友達やないわ!」
小学校からずっと仲が良かった涼ちゃんはそのちょっとしたことで、俺の元から離れていった。
仲良くなるのに結構な時間がかかったのに、離れていくのは一瞬。弁明の余地もなかった。あれから涼ちゃんとは言葉を交わしていない。
「正ちゃん、おれたちはなにがあってもずっといっしょだからな!」
「おれたちしんゆうだからな!」
「う、うん」
「よし、りょうちゃんただしちゃんどうめいだ!」
「だいじょうぶだ!これをむすんだおれたちは、たがいをたすけあうんだ!」
小学3年生の時に結んだ
「りょうちゃんただしちゃんどうめい」
はこんなにも簡単に決裂出来るものだったのか。まあ、同盟といってもただの幼子の口約束に過ぎない。ゆびきりもしなかったから、針千本も飲ませることもできないな。
涼ちゃんは俺が生まれて初めて出来た友だちだったのに、一番の親友と呼べるのは涼ちゃんだと思っていたのに、そんな風に思っていたのは俺だけだった。
「じゃあ、どうすればよかったのか?」
俺は悪いことをした自覚はない。
涼ちゃんが思いを寄せていた女子の告白を断った。親友の好きな人と付き合うことはできないと、これでも涼ちゃんに気を使ったつもりなのだが。どうするのが正解か?模範解答があるのなら教えて欲しい。OKして、付き合うのが正解だったのか?
付き合ったら付き合ったでどうせ文句は言われてただろうけど。
「涼ちゃんを返してくれ女にはモテなくていいから、大好きな俺の親友の涼ちゃんを返してくれ」
家の中で何度この言葉を叫んだことか。誰にお願いしていいのかも分からず、誰に相談したらいいのかも分からずにただ、ただ、俺は1人。1人で悩むだけ。
「庭野くん、好きです」
「私と付き合ってください」
「ごめん、君とは付き合えない……」
「どうして?誰か、好きな人がいるの?」
告白を断ると女子は決まって理由を尋ねてくる。好きな人がいなければ断ってはいけないのか?
「君とは付き合えない それが理由だから」
そう答えると、泣き出してしまう女の子もいた。ただどうせこの涙も一時的な者だ。女はそんなに弱くない。むしろ弱いのは男の方だ。俺に、最初に告白してきた新井先輩だって、あの1週間後に、野球部の堀田先輩と付き合い始めた。諦めの悪い堀田先輩は3度目の告白で見事OKをもらったらしい。
「付き合えないから付き合えないって言うんだよ。その他に理由はない」
どうしてこれで理解してもらえないのか。
適当に好きな人がいると答えればよかったのだろうか?そうしたらそうしたらで別の問題が発生する。
庭野の好きな人は誰かってことが、学校中で噂になる。誰だ誰だとエセ探偵が現れ、謎を解こうとする。それはまた面倒くさい。
「俺は、人を信じることができないんだ。裏切られるのが怖いから最初から期待しないようにしている君も俺と付き合ってもどうせ浮気するんだろ」
俺が断っている理由を正直に伝えても誰も理解してくれないだろう。彼女の方が浮気しなかったら俺の方が先に浮気のようなことをするだろうな。やられるくらいならこっちから先にやってやる。俺はそういう人間だ。




