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僕らは天才じゃない  作者: 七寒六温
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(宮城 晃)

「君も1人だとはいえ、噂話は聞こえてくるだろう? 黙っておこうと思ったけど、ここまで広まったから君にも話す。約束したんだが、あいつの方が先に約束破ったんだ」

庭野が私にそう言って話をしてきた。話をしてくれる人はいないとはいえ、私も他の人の会話くらいは聞こえているのだから、庭野が何のことを言っているのかは分かる。


「俺は小野ってやつに殴られたんだ。彼と接点はないからビックリしたが、恨まれるとしたら恋愛がらみだと思った。だから彼は、てっきり君のことが好きなんだと思っていた。だが、彼は青山だったか、青木だったか全く知らない女の名前を出してきた。俺はそんな名前の女に告白された覚えはない」 

いきなり理由もなく、他人に殴られて怒らない人間などいない。それでも怒らない人がいるというのなら、その人は優しいのではなく、人として間違っている。


「なのに、俺がその女を泣かせたって言われた。意味が分からない」


「確かにね意味が分からない、でも意味が分からないのが恋愛なのよね。何故その人とその人が好きになるのとか? 好きな人と付き合いたいという気持ちは強いのに、それ以上に好きな人の恋を応援したくなったりと、その本人さえも分からなくなるくらい、意味が分からないのよ」

意味が分からない理由ではあるが、それがまかり通ってしまうのが恋愛の恐ろしいもの。好きな人と付き合いたいという気持ち、でも、その人が他に好きな人がいたら? 自分がそれ以上の人間になるのか、自らが犠牲となってその人の恋を全力で応援するのか。


「知ってる? 夫が不倫相手に一方的に捨てられる。それはそれで妻は不倫相手に頭にくるんだって……奪われそうになって腹立たしいけど、それ以上に自分の夫が魅力がないって思われることが悔しいらしい」

それは、自分の大切にしていた茶碗を手放したと思ったら、すぐに価値がない言われて、安物となって自分の元に返ってくるよりかは、新しい使い道が見つかって、他の人に大切に使われる方が十分マシだ。


「まあ、あなたには分からないでしょうね。私もあんまり分かんないけどあなたほどではないと思う」

「ただ、何があったとしても、自分の感情を暴力を振るって表現するのは間違っているとは思うけど。言葉で伝える。そのために人として生まれたんだから」

気に入らないことがあったら、暴力を振るう、暴れる。そんなことが許されるのは5才くらいまで。大人になるにつれてその行為は時に、犯罪となる。言ってしまえば今回の小野は、暴行罪だ。一方的に、自分の思いだけで、攻撃をしたのだから。


「だよな、普通は暴力を振るう前にまず話し合うだろ? まあ 痛くはなかったけど、いきなり殴ってきたからな、やってることはチンピラと変わんないよ」

彼は話すなんて出来なかったんだろう。それだから、それよりも簡単で、やってしまえば数秒で終わる殴るって行為に出たのだろう。それは弱い人間だから。弱い人間ほどすぐに暴力で何かを解決しようとする。強い人間ほど、自分に自信があるから、話で解決を、口で冷静に物事を説明することができる。


「別れようか?」

「別れたことにした方が君が無視されることも減るんじゃないのか? 俺とこうなったがためにひどい目あってるんだろ?嫉妬って感情だったっけ?」

庭野が急にそんなことを言ってきた。それもそうか、庭野も私とこんなことするなんてもう飽きたか、私 面白い人間じゃないし、メリットも特にないし。最初から相手にしてなかったのかも、ただ馬鹿にされていただけかも知れないけど。


「あなたと別れてからも無視されていたら、その無視は嫉妬じゃなくてただ私が嫌われているだけになるから、そっちの方が辛い。今の方が周りも私のことを無視しながらも少しばかりは劣等感を感じているだろうし」

「私がただ嫌われているだけ。そうなった時は私のいる意味はなくなるから、その時は、死ぬかもしれない」

少しだけ正直な気持ちを話してみた。もしかしたら、庭野が私のことを気にして、別れようなんて、こんなことを言ってくれた可能性にかけて。言い方的には何となく、勝手にいい方に解釈すれば、私が楽になるなら別れよっかなんて言ってくれているようにも聞こえる。


「うん ああそうか……」


「もし、あなたがそうしたいって思っているなら今すぐにでもそうしていいから。なんなら付き合っていなかったってことにしてもいい。実際付き合っていたわけではないし」

付き合っていたわけでもないから、別れ話をしているわけでもない。ただ、付き合っているふりを辞めるだけだから、彼の恋愛履歴書には私の名前はのらないし、私も彼の名前を書くこともできない。会社見学に行ったレベルか。

 

「違うんだ、君が嫌じゃなければこのままでいい。俺は君といると楽でいいから」 


「じゃあさ……」

「それならさ、俺たち本当に付き合ってみないか? いいじゃんか、どうせ付き合っていることになっているんだし」


「ん? えっ?」

あれ? これって? 

私は庭野に告白されている?あの庭野が私に? 今にも泣きたかったが、今なくと馬鹿にされそうで、そんな姿を見せると嫌われそうな気がして、まばたきをいつもより多くして、必死に我慢した。


「あ、あなたがそう言うんなら私は断る理由はない」


「なら、今日からちゃんと付き合っているってことで……」

「俺たちのことだからな、いつまで持つかな。正直 2週間ですら保証は出来ないけれどな」

私の今までの辛かったこと、悲しかったこと、困難、その全てが1つでも掛けていたら、こんなことは起こらなかったかもしれない。仮に、そうだとしたら今まで苦痛は、困難は、このご褒美をもらうための試練だったのかもしれない。


ああ、これで今の私に怖い物はない。

他の子たちに無視されようが、1人でお弁当を食べることになろうとも、怖くない。だって私は、あの庭野に告白をされて、彼の彼女になったのだから。


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