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僕らは天才じゃない  作者: 七寒六温
26/31

(伊藤 くるみ)

鈴木君の恋を応援する。

そんな風に自分で言ったくせに、モヤモヤしている自分がいる。身勝手な自分。失恋をするのが正直怖い。


「じゃあ、どうしたいの?」

と聞かれたとしても、これという明白な答えを言えない。協力するのをやめて、いっそ思い切って告白してみるという選択もあるというのに、それを実行するつもりはない。それは鈴木君のためっていうのもあるけれど、フラれるのが怖いから。


誰もいない教室で1人、そんな風に物思いにふけていると

「お困りですか? お困りならこの僕が助けましょう! 心配いりません。僕は常に弱いものの味方、報酬は一切受け取りません。どこかの肩に星をつけたヒーローのとは違いますよ!」

よく分からないポーズをして男の子が話しかけてきた。恐らく彼は、思春期の男の子の8割が感染しているという特効薬のない病気に感染している。この病気が治る期間には個人差がある。



「私の名前は、ゴローマン。困ったことがあれば何なりと!」

声を掛けてきたのは、肥田君という自称ヒーローの男の子。

頭はいいけど、変わっているから少し浮いてる。だけど嫌な人ではないのは分かる。常に困っている人はいないかと目を光らせていて、自分を犠牲にしてでも、手を差し伸べている姿を何度か見たことがある。


肥田君は、素直にまっすぐな目でこちらを見てくる。その純粋そうな目を見たらとても悪い人には思えなかった。浮いている理由は何となく分かるけど。


「敵はどこだ? 私は鍛えているから、大男の1人や2人、いとも簡単に倒すことができる」


「いや、倒して欲しい敵はいないよ。そういうことで困っていたわけじゃないから大丈夫だよ。ありがとう」

ヒーローだから、やっぱり敵を倒したいのかな?申し訳ないけど、私にはそんな敵はいない。目に見えるような敵で悩んでいるわけじゃない。


「何ですと!」

「はっはーん、その敵は、私では倒せないと思っているね? なめてもらっては困る。すぐに証明してみよう!」

なめてない。別に勝てないから頼まないわけじゃない。それに、教室にいるのは私1人だし、彼には何か他の何かが見えているんだろうか?


「いや、倒せる 倒せないとかそういう話じゃない。目に見えるような敵じゃないの」


「何!」

「もしや 君の敵は…宇宙怪獣的なものかい? 噂には聞いていたが、まさか本当に存在していたとは。そうとなれば一筋縄でいかないことは分かっている。強い、そこらへんのクマとは比べものにならないくらい強い」

「だが、このゴローマンをなめてもらっては困る! こう見えても私は、そこら辺の者たちと、鍛え方が違う。鍛える根本が違う。例え敵が、宇宙怪獣であろうとも、互角に戦える自信がある」


「いや、あの……だから、本当に大丈夫ですって……」

宇宙怪獣って何?

こうやって言われたノッてあげるのが正解なのかな?それだと私まで変な人に思われるし、それに今の私にはそんな元気はない。

対処法が分からなくてつい、大きい声で言ってしまった。本当に、悪い人ではないんだろうけど、世界観がよくわからない。


「あ~~っ!なるほど そういうことか」

「君も、ヒーローなんだね?君もヒーローであるがゆえ、その正体を隠したいがために、誰の力も借りず1人で解決しようとしてるわけか……なるほど その気持ち分かる分かる……辛いよね ヒーローって、分かる分かる」

「でも心配はいらない。何故なら私も君と同じヒーローだから。このことは他言無用」


「私はヒーローじゃないよ。そんな存在とは程遠い。私の邪魔をするのはいっつも私。私の敵は、ずっと私自身だから」

何故か今度は私まで、ヒーローにされた。私はヒーローって言われるような人間ではない。体を張って誰かを守るために敵に立ち向かうことは出来ない。


「本当の敵は自分自身、なるほど……己が己を超えたとき、本当の己になる。そう言いたいわけか……その考え方、勉強になるな~」


「いや、違うって! だから私はヒーローなんかじゃないって!」

話がかみ合わないことにイライラしていたのもあるけど、自分がモヤモヤしていることをで余計に肥田君に怒ってしまった。なのに、どこかで誰かに助けて欲しいという気持ち、誰かに話を聞いてもらいたいという気持ちはあった。

 

「実はね、お姉ちゃんのことで、今モヤモヤしていて。悲しんでいるお姉ちゃんの姿を見るのがかわいそうで」

「お姉ちゃんは、昔から恋愛の相談をされることが多くて、恋のキューピットってやつ? お姉ちゃんも自分のおかげで幸せになる人が増えることが嬉しくて、快く相談に乗っていたの 最初はね……」

もちろんこの話は嘘。私にお姉ちゃんはいない。自分の悩みだって話をするよりもお姉ちゃんの悩みだったいった方が、話がしやすい。この方法はよく用いられる。仮に自分のことだといって話をしたとしても肥田君は、このことを他の人にペラペラとバラすような人ではないとは思うけど。


「でも、そんなある日、お姉ちゃんが好きだった男の子から恋愛相談を受けた。その子は、お姉ちゃんの親友のことが好きだって言うの。複雑な気持ちだったけど、協力することにしたの」

「けど、男の子と親友が仲良くなるたびに、悲しくて、辛くて、男の子の恋が成就した日、お姉ちゃんの恋は終わる。だからといってその協力を雑にして、2人の仲を悪くさせるのも、卑怯だからやりたくないって」

私はどうしたかったのか、どうしたいのか。

私ってこんなに面倒くさい人間だったっけ?てか、そもそも私がキューピットなんて役割を担っていたのが、間違ってたんだ。

恋愛経験がないのに、人にアドバイスできるかよ! いや、私みたいな恋愛対象にならない人間だからいいように使われてただけなのかな。害がないと思われていたのかな。


「難しいでしょ? いくらヒーローの肥田君でも?」

「もし、肥田君の好きな人が、親友と付き合うことになったらどうする?」


「心から祝福の拍手を送る……」

間髪を入れずに答える肥田君。それがヒーローとしての肥田君の答えかと思っていたけど、肥田君は、少し間を置いてから話を続ける。


「まあ、そう言えたら素敵ですが、実際はどうか分かりません。僕が親友のことを、僻むかもしれないし、その子とは、親友は辞めて、友だちになるかもしれません。経験してみないと分からないですね」

「僻むなんて ださいこと、ヒーローにはあってはならないことなんですけど、人間は少しくらいダサくてもいいと思います」

この部分だけ敬語で話す肥田君。


「まあ、そう言えたら素敵ですが、実際はどうか分かりません。僕が親友のことを、僻むかもしれないし、その子とは、親友は辞めて、友だちになるかもしれません。経験してみないと分からないですね」

「僻むなんて ださいこと、ヒーローにはあってはならないことなんですけど、人間は少しくらいダサくてもいいと思います」

意外だった。肥田君がこんなことを言うなんて。ただヒーローに憧れているだけの男の子だと思っていたけど、こんな風なことも言えるだなんて。 てっきり、「応援する。 人の幸せは自分の幸せ。人の幸せを幸せと思える人間になれるように頑張るんだ。頑張れー」なんて風なことを言われると思っていたから。



「それにしても、あなたのお姉さんは偉い」

「このゴローマンが拍手を送っていたと伝えといてくれ!!」 


「偉い?」 

拍手を送っていた……なんて言われても、これは拍手をされるようなことなのか?


「ブラボー、ブラボー、ブラボー!」

「ええ。そもそも、悩んでいるのは、好きな人のことも親友のことも粗末に扱っていないからであって、どうでもよければそんなことで悩む必要はない。雑に手伝って協力しているふりをしていればいいだけ」


「ヒーローだ、ヒーロー!」

「自分のためではなく、人のために動くことが出来るあなたのお姉さんはヒーローだ!」

肥田君は私のことをベタ褒めしてくれる。肥田君と少しだけしか話していないのに、イメージがだいぶ変わった。いや、変わったんじゃなくて私が今まで勝手に解釈していただけなのかもしれない。


「肥田君、ありがとう」

「お姉ちゃんにそう伝えておく。喜ぶかは分からないけど」

嬉しかったよ、十分。偉いなんて人に言ってもらえるなんて嬉しい。それがたとえお世辞だったとしても。


「いいや、それほどでもないよ!」

「守らせてくれて、今日もサンキュー」



「あと、それと、肥田君は、ヒーローを目指しているんだっけ?」


「ええ! 僕はヒーローになるべくしてなる!」

 

「うん、肥田君ならなれると思うよ。分かんないけどヒーローになってる姿が想像できる!」

何も根拠はないし、私は、ヒーローっていうものの定義をいまいち理解していない。けれど、なんか肥田君のような人がヒーローってものになるんだろうなって思う。分からないなりに何となくそう思った。こんなにまっすぐな目をして、困っている人を探している。見つけたら悩み事が解決出来るように最善を尽して体を張る。それでいて不正は絶対に許さない。肥田君がヒーローになれなかったら、ほとんどの人間がヒーローにはなれないと思う。





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