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僕らは天才じゃない  作者: 七寒六温
25/31

(肥田 吾郎)

今日は、休養日。

「トレーニングは毎日すればいいってものではない。時に休息も大事である」

と、『週3戦士 ハタラカイレンジャー』が言っていた。休みがあるから人が頑張れるように、体も程よく休みが必要だと。


せっかくの休みだから、少しばかり人助けさせてもらってから家に帰ろうと思い、校内を回ってみることにした。


「どこかに困っている人はいないか? どこかに助けを求めている人はいないか?」

困っている人を探してみるが、簡単に見つからない。タイミングが悪かったか、放課後はそもそも人がいない。部活だったり、遊びだったりデートだったりと、皆 それぞれに楽しい時間だったり、予定が待っているのだから。  


無理だなー、仕方がないなー

なんて諦めモードで探していると、

「な、なにー!!」

「なんか困ってそうな人が、困ってそうな人がいるではないか!」

教室で1人、何か悩んでいそうな女子生徒を発見した。これは、ゴローマンこと肥田五郎の出番ではないか…?


「お困りですか? お困りならこの僕が助けましょう! 心配いりません。僕は常に弱いものの味方、報酬は一切受け取りません。どこかの肩に星をつけたヒーローとは違いますよ!」

ゴローマンポーズとともに、カッコイイセリフ。

決まった!!!

マルゼナンをはじめとする様々なヒーローのポーズを参考に1ヶ月かけてようやく出来上がったゴローマンポーズ。

右手を胸の辺りに当ててピースサイン、左手でチョップのポーズ。これがゴローマンポーズだ!


「私の名前は、ゴローマン。困ったことがあれば何なりと!」

興奮のあまり、名前を名乗るのを忘れていた。これではヒーローではない。そういう所だぞ、気をつけろ。


拙者は、名乗るほどのものではございやせんと名前を名乗らずに人助けをするのが、侍。

名前を名乗り、自分が何者なのか伝え、安心させた上で人助けをするのがヒーローだ。


「敵はどこだ? 私は鍛えているから、大男の1人や2人、いとも簡単に倒すことができる」

僕は、日々 トレーニングを欠かさない。それによって鍛えられたこの体。場数こそ少ないものの勝てる自信はある。いや、勝たなくてはならない! だって僕はヒーローだから。


「いや、倒して欲しい敵はいないよ。そういうことで困っていたわけじゃないから大丈夫だよ。ありがとう」


「何ですと!」

「はっはーん、その敵は、私では倒せないと思っているね?なめてもらっては困る。すぐに証明してみよう!」


「いや、倒せる 倒せないとかそういう話じゃない。目に見えるような敵じゃないの」


「何!」

「もしや 君の敵は…宇宙怪獣的なものかい? 噂には聞いていたが、まさか本当に存在していたとは。そうとなれば一筋縄でいかないことは分かっている。強い、そこらへんのクマとは比べものにならないくらい強い」

「だが、このゴローマンをなめてもらっては困る! こう見えても私は、そこら辺の者たちと、鍛え方が違う。鍛える根本が違う。例え敵が、宇宙怪獣であろうとも、互角に戦える自信がある」


「いや、あの……だから、本当に大丈夫ですって……」

頑なに拒否する彼女。そんなに他人に力を借りることが嫌なのか。他人に力を借りること、それも君の力なんだけどな。


「あ~~っ! なるほど そういうことか」

「君も、ヒーローなんだね? 君もヒーローであるがゆえ、その正体を隠したいがために、誰の力も借りず1人で解決しようとしてるわけか……なるほど その気持ち分かる分かる……辛いよね ヒーローって、分かる分かる」

彼女の目を見て、気付いた。やはり、彼女は紛れもなくヒーローだ。自分のことは後回しで他人のために行動することが出来る人間の目をしている。私のヒーローアイで見ればすぐに分かった。


ヒーローとは辛い……

ヒーローは強くなくてはならない。他人に弱みをみせてはいけない。憧れの存在ではあるが、ゆえに 孤独な存在でもある。相談できる相手を探すのも一苦労で、1人で歯を食いしばって頑張らないといけない。


「でも心配はいらない。何故なら私も君と同じヒーローだから。このことは他言無用」

さあ、その悩み、僕に打ち上げてごらんよ。


「私はヒーローじゃないよ。そんな存在とは程遠い。私の邪魔をするのはいっつも私。私の敵は、ずっと私自身だから」


「本当の敵は自分自身、なるほど……己が己を超えたとき、本当の己になる。そう言いたいわけか……その考え方、勉強になるな~」


「いや、違うって! だから私はヒーローなんかじゃないって!」

彼女が大声を出す。

何故だ? 何故彼女は大声を出して怒ったのか?考えても考えても分からない。


ヒーローにとって一番困難なことは、最強最悪の敵を倒すことでもなく、パンクした軽トラックを素手で運ぶことでもなく、人が何で悩んでいるのかを分かってあげることだ。


マルゼナンならきっと、今 彼女が何で悩んでいるのかを簡単に当てることが出来るんだろうけど。


「守ってあげられなくて、ごめん……」


「実はね、お姉ちゃんのことで、今モヤモヤしていて。悲しんでいるお姉ちゃんの姿を見るのがかわいそうで」

彼女の方から、悩みを打ち明けてくれようとしている。これは感謝だ。


「お姉ちゃんは、昔から恋愛の相談をされることが多くて、恋のキューピットってやつ? お姉ちゃんも自分のおかげで幸せになる人が増えることが嬉しくて、快く相談に乗っていたの 最初はね……」


「でも、そんなある日、お姉ちゃんが好きだった男の子から恋愛相談を受けた。その子は、お姉ちゃんの親友のことが好きだって言うの。複雑な気持ちだったけど、協力することにしたの」

「けど、男の子と親友が仲良くなるたびに、悲しくて、辛くて、男の子の恋が成就した日、お姉ちゃんの恋は終わる。だからといってその協力を雑にして、2人の仲を悪くさせるのも、卑怯だからやりたくないって」


「難しいでしょ? いくらヒーローの肥田君でも?」

「もし、肥田君の好きな人が、親友と付き合うことになったらどうする?」

これはお姉ちゃんではなく、彼女自身の悩み

だということはマルゼナンを見ている僕には分かる。話し方や声のトーンが人の話をしているようには聞こえない。

マルゼナン第14話 「偶然の妹」で、似たようなシーンがあった。人は時に、自分の悩みを、あたかも他人が悩んでいるってことにして、相談することがあるということをこの回では教えてもらった。


「心から祝福の拍手を送る……」

言ってから気付いた。僕はなんて無責任言ってしまったのだと。心から祝福の拍手が送れるのならば、悩んではいないはずだ。


「まあ、そう言えたら素敵ですが、実際はどうか分かりません。僕が親友のことを、僻むかもしれないし、その子とは、親友は辞めて、友だちになるかもしれません。経験してみないと分からないですね」

「僻むなんて ださいこと、ヒーローにはあってはならないことなんですけど、人間は少しくらいダサくてもいいと思います」

私はヒーローだが、まだ僕は人間でもある。完璧なヒーローと呼ばれるにはまだ程遠い。


「だからか……」

「僕が彼女のことをヒーローだと勘違いしたのは、わかりかし間違いではなかった。少なからず君もヒーローに近いものがあったからだ」

彼女にはヒーローの素質はある。そのひょろい体は鍛える必要があるが、その心は本物だ。好きな人の恋愛が美味くいくように協力することなんて簡単には出来ない。


「それにしても、あなたのお姉さんは偉い」

「このゴローマンが拍手を送っていたと伝えといてくれ!!」 

彼女の行動は拍手すべき行動だ。人のために動くことが出来る。まさにヒーローだ。

やはりか、最初から思っていた通り、彼女もヒーローだったか。


「偉い?」


「ブラボー、ブラボー、ブラボー!」

「ええ。そもそも、悩んでいるのは、好きな人のことも親友のことも粗末に扱っていないからであって、どうでもよければそんなことで悩む必要はない。雑に手伝って協力しているふりをしていればいいだけ」


「ヒーローだ、ヒーロー!」

「自分のためではなく、人のために動くことが出来るあなたのお姉さんはヒーローだ!」


アメリカ生まれのヒーローが言っていた。

「ヒーローとは、自分のことを1番後回しに考えられる人のことだと、損とか得とか儲かるとかを考えているうちはヒーローとは呼べない」


冗談抜きで、彼女は僕の、好敵手となりえる存在かもしれないな。僕の好敵手は、紛れもないサービス精神の持ち主である野球部主将 を務めていた本宮先輩か、身長183cm体重98kgと怪物のような体の持ち主の柔道部 3組の藤木豪毅。そこに新たに追加された名前は伊藤くるみ。まさかここに、女子の名前が入ってくることになるとは。


「肥田君、ありがとう」

「お姉ちゃんにそう伝えておく。喜ぶかは分からないけど」


「いいや、それほどでもないよ!」

「守らせてくれて、今日もサンキュー」

そう言ったものの今回は失敗だ。手応えがない、何も出来ていない。方法が分からなかった。この場合、どうすればよかったのか? どのようなアドバイスをしてあげれば彼女を救うことが出来たんだ。


彼女は無理したような笑顔で僕にこう言った。

「あと、それと、肥田君は、ヒーローを目指しているんだっけ?」


「ええ! 僕はヒーローになるべくしてなる!」

 

「うん、肥田君ならなれると思うよ。分かんないけどヒーローになってる姿が想像できる!」

生まれて初めてだった。ヒーローになれると思うよなんて普通は言わない。例え両親だろうとそんな言葉を掛けてくれることはないだろう。今までずっと抱えてきた、悩んでいたことが、この一言で少しだけ救われたような気がした。さすがは好敵手となりえる存在、彼女は優しい言葉のかけ方が上手い。私がヒーローでなければ、僕がもう少し人間であれば、彼女に恋をしていたのかもしれない。


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