(鈴木 俊哉)
「なあ知ってる?」
「昨日小野が庭野のこと殴ったんだって!」
岸はまるで、フリージャーナリストが特ダネを掴んできたかのように話してくる。
「え、そうなの?」
俺はそのことは知らなかったからビックリした。小野はクラスの中でも目立たない いわゆるスクールカーストで下の方に位置する人間。その小野が、スクールカーストの頂点にいる庭野のことを殴った。そのことが何を意味するかは、小野自身もわかっていたはず。
人を見た目で判断してはいけないかもしれないが、小野は暴力を振りそうな人間には見えない。そもそも庭野のようなキラキラしたやつなんかには絡まなそうだ。
「驚いたろ? 実は俺も最初聞いたときは聞き直したよ?」
「小野が庭野を殴ったんだよな? 庭野が小野を殴ったんじゃないよなって。どちらかといえばそっちの方があるかなって思って」
「でも、その情報は間違ってなかった」
小野と庭野なんて、卒業まで交わることのないようのな2人が何で揉めた? 小野が怒りそうなことっていえば、あいつが好きそうなアニメを庭野が馬鹿にしたとかしか考えられないが、庭野はそういうのも上手くやりそうな気がするから、馬鹿にするなんてそんなくだらないことやらなさそうだけどな。
「へえ、じゃあ やっぱり小野が庭野のことを殴ったか~」
俺も気持ち的には庭野のことを2、3発くらいは殴ってやりたいと思った。それでも気が済まないが。
千春のために……
千春がそれを望んでいないから止めたけど、千春が望んでいたらやっていたのは俺だったかもしれない。
「何で小野が殴ったか理由は分かんないだけどな。まあ、僻んだのかな イケメンで人気者で、背も高くて なに1つ勝てない庭野にムカついたんだろう」
俺に気を遣ったのか、本当に理由を知らなかったのかどちらかは分からないが、小野が庭野を殴った理由を言うことはなかった。
小野が、庭野を殴った理由を教えてくれたのは、伊藤さんだった。
「鈴木君 私は前は焦らない方がいいってことを言ったけど、千春は色々と鈍いから、鈴木君が千春のことを好きだってこと全く気付いていないし、今のまま何もしないと気付きそうにもないような気がする。少しアピールをしてみてもいいと思う」
「アピール?」
「これを言うことはルール違反かも知れないけれど、千春は鈴木君が茉優美ちゃんのことが好きだって思っている。鈴木君は茉優美ちゃんのことばかり見てるって」
「鈴木君が茉優美ちゃんのことが好きだって言ってた何てことも言ってたよ」
俺が坂本のことを好きだって? そんなこと言った?言ってない いや、言った。ああ、あの時だ……
千春に唐揚げっていったら何になるのって言われて、そこで千春の名前を出そうかと思ったけど、恥ずかしくて坂本と山瀬の名前を出したときか。でもあれは一般的な意見として言っただけだし、それにあの時 山瀬の名前も出したんだけどな。特別坂本だけを言ったわけじゃない。
ああ、でも考えれば昔から千春は、わけの分からない独自の理論で謎の推理を始めることがあった。勿論その推理は全く当たっていないのだが。
俺の食べかけのプリンが無くなったって話をしたときは、俺の家にわざわざ来て、何故か冷蔵庫の大きさをメジャーで測っていたな。千春は部屋の中にいたネズミさんが間違えて食べてしまったとファンタジーな推理を披露した。
結局 犯人は酔っ払った父親が誤って食べてしまったというものだったが。
「小野君が殴った理由を、千春もいずれ知ることになる。私は千春には言ってないんだけど、それこそ茉優美ちゃんとか、すぐにいいそうじゃん。もう言ってるかもしれないけど」
「そうなったら、千春のことだから小野君のことを少なからず意識すると思うんだよね」
相手が小野だからと、どこか馬鹿にしている自分がいた。千春のことだから、相手が小野だろうと好きって言われたら、じゃあいいよとか言って付き合いかねない。そう思いながらも、今だに告白していない、気持ちを伝えられていない俺って……
「すぐに告白した方がいいとは言えない。言えないけど、何かしら伝えてみてもいいのかも。その唐揚げってのに、千春も入っているよって言ってあげるとか」
伊藤さんの言葉は優しかった。
「千春と俺の関係だから、真剣だとは思ってもらえないだろうな~」
「う~ん、でも千春は純粋だから、言葉に隠された意味なんか考えず、そのまま受け取るんじゃないかな。普通だったらだけど、鈴木くんと千春は幼馴染みだから、千春にとっては特別だと思うから分かんないけど」
「ありがとう」
「俺もそろそろ動いてみる」
そうだよな。敵が城に攻めてきている時に、何もせずにいたら、城は崩れる。幼馴染みって関係に今まで俺は、甘えていただけだった。伊藤さんに相談とか言って、それも逃げていただけだ。鬼ごっこは、動かなければ、逃げる方も捕まえる方も勝つことは出来ない。自ら動いて勝ちを摑みにいく必要がある。




