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僕らは天才じゃない  作者: 七寒六温
22/31

(小野 翔三朗)

「おい、何だよ!」 

僕は感情をコントロールすることができない弱い人間だ。こうして今も怒りという感情を1人では抑えることができずに、庭野という男の頬を殴った。弱いくせにそんなことをするから、後で返り討ちにあう。それは分かっているけど行動せずにはいられない。


「誰だよ お前!」

庭野は、声を荒げて僕を突き飛ばした。

突き飛ばす彼の力は強くたくましい。僕が敵いっこない。僕のような弱者が彼のような強者に挑むことが間違っていたのかも知れない。力の差は歴然。

僕の左手から、スペシャルビームでも出せれば立場は逆転することは可能かもしれないが、ああ、負けるのかよ僕は。


「ああ、君か……」

冷たい目で見られた後に、僕は胸ぐらを掴まれ無理やり起こされては右頬を1発 さらに左頬を1発強めに殴られた。


「痛い 痛い 痛い」

痛い。本当に帰宅部なのかと疑うくらいの強さ。そのパンチを表現するのなら、固形のカマンベールチーズを頬にぶつけられたような痛み。僕は漫画家や小説家じゃないから上手い表現が見つからないや。久しぶりに殴られた、いじめられていた中学生の時以来か。殴られるっていうのはいつまでたってもなれないもんだな。

ただ、青木さん、あなたはもっと痛かったですよね? もっと辛かったですよね? 殴られるよりもきっと青木さんの方が辛いはずだ。それをこの男は平気でやってのけるんだ。


「お前のせいだ、お前のせいで」

庭野のこいつのせいだ。お前のせいで青木さんは屋上で泣いていたんだぞ。てっちゃんからだいたいの経緯は聞いた。てっちゃんは僕が青木さんのことを好きだって知らないから軽い噂話のように話してきたけど。僕は聞いているだけで辛かった。


「お前のせいだからな!」

「お前のせいで、青木さんは涙を流すことになったんだぞ、お前のせいだ!」

「謝れ……」

「今すぐ僕に、そして青木さんに謝れ!」

2ヶ月前、屋上にいた青木さんは自ら命を絶とうと考えていたのかもしれない。やっぱりお前のせいだ、お前なんかいなければよかったんだよ。庭野に謝罪を要求した。

お金なんかいらない。ただ僕は彼の口から、謝罪の言葉がほしい。青木さんに誠意ある言葉でしっかりと謝るんだ。


「青木、それは誰だ? 僕は知らない。話をしたこともないからね」

「君は何か勘違いしているよ。他を当たってくれ」

何だと、青木さんのことを知らないなんて、馬鹿なことを言うな! あんな可愛い人を知らないなんて嘘をよくつけたな。


「勘違いじゃない。お前のせいだ」

「青木さんは、お前のことが好きだったんだ。なのにお前が付き合ったのは別の女だった。そのせいで、そのせいで青木さんは涙を流すことになったんだ」

不思議だよ、納得いかないよ。

カッコよくてみんなから人気もあるのに、何で宮城なんかを選ぶんだ。宮城なんてうちの学校の美女ランキングの圏外の女だろ?彼女のどこに魅力があるっていうんだ! あんな女を選ぶくらいなら、それなら青木さんと付き合ってあげろよ。くそ庭野め。


宮城が庭野と付き合うのがどういうことか?

奇跡、奇跡に近いようなことがあるわけない。例えていうなら僕みたいな人間が青木さんと付き合えるってことだ。そんな奇跡はそこら辺には簡単に転がっていない。いや、転がっていたら、いけないんだよ!


「君は、その人のことが好きだったのか?」


「ああ、僕は青木さんのことが大好きだ。現在進行形で!」

「馬鹿にされたっていい。俺は自分の気持ちに嘘はつかないって決めたんだ!」 


「ふん。そうか よかったじゃないか」

僕のことを鼻で笑い馬鹿にしたように見てそう言う。よくない、全然よくない。


「よくない! 青木さんが悲しんでいるんだ、いいことなわけないだろ?」  


「分からない、何を言ってるかサッパリ分からな。やはり俺が謝ることじゃない」


「なんだと、言い訳するんじゃない!」

「これは、お前が謝るべきことだ、ことなんだよ。だから、謝れよ、早く謝れ!」


「よしいいよ。分かった。そこまで言うのなら謝ってやる。ただ、最後にこちらの質問にあと1つ答えてはくれないか?」


「質問?」

「分かった、質問を受ける」

この期に及んでも、まだ自分が優位に立とうとしているのか。どれだけ僕のことを見下せば気が済むんだ。


「君は、青木さんと、どうしたいんだ?」

「付き合いたいのかい? キスしたいのかい? それともただ1回だけ抱きたかったのか?」

「彼女に幸せになって欲しい。それは偽善だから、そんな答えではなく、君の本心を知りたい。それが分かったら謝るよ」

すごく嫌な言い方をするもんだ。自分は全てを手に入れられるけど、所詮お前にはどれも手に入れることができないんだろうと馬鹿にするかのように。そうだよ。


「…………」

悔しい。こうしたいって即答できない。

僕は、青木さんのことが好きだけどどうしたいんだ?付き合いたいのか?キスがしたいのか?抱きたいのか?分からない。


今まで生身の人間に興味が持てなかったから、何がしたいなんて真剣に考えたことがなかった。アニメの中のキャラクターにキスをすることも抱くこともできない、だけど拒絶されることもない。だからそんなことを考えたこともなかった。だから、青木さんとどうしたいかって言われても。ただただ、青木さんの笑顔を見ていられれば、それだけで十分かもしれない。


「答えられないのなら、俺は謝らない」

「じゃあ、交渉決裂だな」


「くっ、ふざけるなー」

「お前が、お前が悪いんだよ!」


「お前ら、何やってる! 喧嘩か?」

僕が庭野に掴みかかった所で、生徒指導の大本先生が止めに入る。


「お騒がせしてすみません先生。大丈夫ですよ。少し言い争いはありましたが、これは、喧嘩ではありません」

庭野はすぐさま優等生モードか。


「って、庭野と小野か!!」

最初は、喧嘩を止めにきた感じだったのに、いたのが庭野と僕だったから先生は驚いたのだろう。


「おい、これは誰にやられたんだ?」

「誰だ? 川中か、横山か?」

庭野は先生からの評価も高く、問題行動を起こすような生徒ではないと思われているのだろう。対して僕、僕の場合は気弱でクラスでも目立たない存在だから、喧嘩できるような勇気を持ってないだろうと勝手に思われているのだろう。だから先生は第三者が犯人だと言った。


「違いますよ、その2人は関係ないです」

「ちょっとした言い争いを僕らでしただけで、喧嘩をしたわけでも、巻き込まれたわけでもありませんよ」

「そうだよね?」

庭野の言葉に同調するように僕も頷いた。

先に手を出したのは僕だというのに庭野はチクったりしないのか。


「そっか、それならいい 言い争いもほどほどにな。てか、お前たち仲良かったんだな、先生知らなかったよ!」

とだけ言われて、それ以上 聞かれることはなかった。


「この方がお互いにとってよかったよね?」

「君も、こんなくだらないことで目立ちたくないだろ?」

庭野がこっちを向いて笑う。先生に大きな嘘をついたのに平然としている。


「もういいかな、行っても?」


「あ、じゃあ 一言だけ、謝っておくよ」

「申し訳なかったね」

庭野は本当に一言だけ、心のこもっていない言葉だけの謝罪をすると、庭野は自分の教室に戻っていった。


「それと、俺はこのことをチクるつもりはない。君が誰かに言いたいのなら言えばいい」

僕は、庭野にそう言われた通り、このことはまっつんとてっちゃんだけにしか話さなかった。2人なら話しても大丈夫だ。親友だから裏切ることはない。そう思っていた。 

それなのにこのことは一瞬にして、学校中に知れ渡った。殴ったことだけならまだしも、殴った理由までも知れ渡ってしまった。そのせいで僕は更に学校に行きづらくなった。


みんなが冷たい目で僕のことを見ている。


結局 庭野だ、庭野が裏切って全てを話したんだろう。庭野レベルが話せばすぐに噂は広まるだろう。先生の前ではいい子ぶってたくせにとんでもない野郎だ。

そう思っていたが違った。噂を広めたのは、庭野ではなかった。このことは、親友だと思っていたまっつんこと松田航平の仕業だった。


僕に何の恨みがあったから知らないが、なくしたと思っていた定規も、実は松田が盗んでゴミ箱に捨てていたのだった。その定規を、

どういうわけか青木さんが拾ってくれて僕の元に戻ってくることになったけど。このことを僕が知ることはなかった。


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