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僕らは天才じゃない  作者: 七寒六温
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20/31

(伊藤 くるみ)

「くるみ、くるみくるみ」

一人で帰ろうとしていた私を後ろから追いかけてくるのは茉優美ちゃんだった。


「あ、茉優美ちゃん…」

茉優美ちゃんは自分が可愛いって自覚があるからか、人との距離感がおかしい。男女問わず誰にでも、昔から知っている仲のように話しかけてくる。


「あれ、くるみ元気ないな?」


「まあそっか、千春があんな感じじゃねー。引くに引けない、諦めるにも諦めきれないよなー。純粋なのも過ぎるとムカつくさー」


「元気ない時や気分が乗らないときはさー甘いものを食べるといいさ。あんまい、うんまい食べ物を食べれば、悩みも少しの時間だけ忘れられるって」


「う、うん」


「プリンとクレープどっちが好き?」

「ちなみに私は今 プリンが食べたい!」

茉優美ちゃんに、そう言われたら、プリンって答えにするしかない。茉優美ちゃんはちょっと強引なところがある。これも容姿のいい人の特権だけど。


「プリンとクレープどっちかっていわれたら、プリンを食べる機会の方が多いかな~」


「分かった、じゃあクレープ屋だね?」

「今日はクレープ屋にしよ!」


「えっ? 茉優美ちゃんプリンが食べたかったんじゃないの?」


「ダメ、プリンはダメさー」

「くるみは普段はプリンが好きなんでしょ? 好きなものを食べても好きだし美味しい。それじゃあ何も新しい発見はないじゃん?」

「それならあんまり食べない方を食べた方が、新しい発見を出来る確率はあがる。クレープを食べてみたら、好きだったプリンを超えて、新しいクレープって甘いものを好きになるかもしれないじゃん。プリンなんてどうでもよくなるかもよ?」

なんかよく分からないけど、茉優美ちゃんと2人きりで、クレープ屋に行くことになった。


「あの角を曲がったところに新しいクレープ屋さんがある。あそこで食べてこ!」

茉優美ちゃんに連れられるがまま、クレープ屋に入った。新しくオープンしたって噂では聞いていたけど、来たことなかったから嬉しい。誰かとじゃないとこんな所来ないし、食べてみたいか食べてみたくないかで言われたら食べてみたい。


「くるみは、何にする?」

「私の奢りだか~さ、好きなの選んでいいよ」


「い、いや大丈夫だよ。自分で払うよ」


「いいっていいって、くるみ」

「甘えることも女の可愛さなんだかーね! ここは、私で素直に甘えるってことに慣れとかないとさ」


チョコバナナ, ストロベリーホイップ

マンゴーオレンジ, プリンアラモード

モンブラン&モンブラン, コーンツナ

Kスペシャル,トリプルバナナとWチョコ

クレープは以上の8種類

私の中で注文するメニューは決まっていた。


「じゃあチョコバナナを」


「はい、不合格!」

「くるみは私が奢ってあげるっていったから、遠慮して~ここで1番安くてシンプルなチョコバナナにしたさ~それじゃあダメなの! 面白くない、面白くない」

1番値段の安いからって理由は当てはまる。自分で買うならこれって私は決めていたから。けどそれだけじゃない、チョコバナナは本当に好きな味だし。


「チョコバナナは美味しいの分かってるさ、今日の目的は、新しい発見をすることなんだからさ、くるみが自分でなら絶対に買わないって言うのを食べてみようさ!」


「じ、じゃあコーンツナにしようかな。おかずクレープって、あんまり食べようと思わなかったから」


「グッド! グッドだよくるみ!」

「ちなみに1番食べたかったのはどれ? 値段とか関係なしだったら?」


「それは、Kスペシャルかな。何が入ってるのかなって気になるし」


「おっけ! とりあえず買ってくるから、くるみは席に座ってて」


戻ってきた茉優美ちゃんはクレープを4つ抱えてた。お家の人にお土産で持って帰るのかな?


「はい、コーンツナ。私もくるみの真似してコーンツナにしたさ~」 

コーンツナクレープの他にもう1つクレープをくれた。


「あとこれさ、持ち帰り用にしてもらったから、Kスペシャル」

「家に持って帰って食べてよ」


「え? 悪いよ すでにクレープを奢ってもらっているのに、お土産を貰うなんて」


「私用のお家クレープはほら、このモンブラン&モンブランはあるし。だから、くるみが貰ってくれないと私が、私が困る。私を太らせる気?」


「じゃあ、ありがとう」


「いいのよ、いいのよ」

「くるみが少しでも元気になってくれるんならこれくらい安いもんさ。人の心はお金では買えないんだけどさ」


「えっ、意外に美味しいこれ」

「私もおかずクレープはナシ派だったけどさ、これは全然アリだわ、全然アリ」

私もクレープを1口食べた。茉優美ちゃん全く同じような感覚だった。おかずクレープも案外イケるってことを茉優美ちゃんのおかげで知れた。


「1つに絞んないで、他を見てみるのもありでしょ? たくさん味見してから1番好きな味を決めるのはいいけど、最初からこれが1番って決めつけておくのはもったいないさ」

「他も見てみるっていうのも、大切だと思うさ、私はたくさん味見をする。それから選ぶの」

茉優美ちゃんと私では違う。茉優美ちゃんのような可愛い子は、店の人からサンプルや試食品をぜひどうぞと向こうから勧められるけど、そうじゃない人は自分から貰いに行く必要がある。試食品を貰った後は、1、2品は商品を買わなければならない。


まさか茉優美ちゃんとこうして2人で、クレープを食べる日がくるとは。思ってもいなかった。


クレープを食べながら、少し離れた席に座っている男女の方を指さしながら茉優美ちゃんが言う。

「あれ見て、あれカップルっしょ?」


「あ そうだね」

「仲良さそうで羨ましそうだね」

私は思った通りの感想を言った。私には2人は仲よさそうに見えた。


「甘いね。くるみはさ」

「あの2人あと1週間で、別れるわ。今はカップルだけどね。彼女の方見てたら分かる、彼女はあの男のことをもう好きじゃないさ」


「え、そうなの? 仲よさそうに見えるけどね」


「彼女は、他に好きな男がいるわー」 

「私はさー、人より観察眼があるからさ、何となくそういうの分かるんだよね。その人が誰のことが好きかってのは少し観察すれば、何となくは分かるんよねー」

ってことは、私が鈴木君のこと好きだってのもバレてる?バレてるのかな?


「それでもさ、庭野は分かんなかったわ」

「あいつさ、そういうのには一切興味がなく、彼女とか作らないタイプて思っていたから。それがあんな売れ残りみたいなの選んで、何が目的なんだってさ。将来は結婚詐欺でもするつもりなのか、今は、予行練習でもしてんの?」


「結婚詐欺って、まあ庭野君カッコいいしね。騙されちゃう人多いかも」


「次は私は、誰にすっかな~」

「千春には言ったんだけど、次は同じ高校のやつにしようと思ってっからさ」

茉優美ちゃんはもう次の彼氏を見つけようとしている。

それは、茉優美ちゃんみたいな可愛い子だから、誰にするかななんて選ぶような言葉を発せるんだよね。普通は誰にするかな?じゃないよ。


誰々のことが好きになって誰々からOKをもらえるように、好きになってもらえるように頑張るものなのに、茉優美ちゃんはOKをもらえる前提で、後は誰を選ぼうかななんて考えている。まあ茉優美ちゃんくらい可愛いければ90%くらいはOKもらえるんだろうけども。


「次はあえてさ、コーンツナみたいなのいってみようかな。最初から美味しいって分かってるのじゃなくてさ、どっちか分からないけどチャレンジしてみたことによってコーンツナの旨さに気付けたんだしさ」

「一途なのもいいけど、今日みたいに他の物も挑戦してみるってのもいいのかも。視野を広げること……それが案外 人生のコツなのかもしれないしさ」

一途と言われると、私も一途だ。

中学2年生から私の好きな人は、ずっと鈴木君だ。高校に入ってからは、庭野君や津村君のようにカッコいいなとは思う人はいたけど好きって感情とは違う。


でも、そうだよね。

鈴木君が千春と付き合うことになったら、私、他に好きな人が出来るのかな?私だって男の子と2人きりでクレープを食べたり、恋愛映画を一緒に見たいとは思っている。

でも、その願いを叶えるためには、茉優美ちゃんの言うとおり視野を広げた方がいいのかも知れない。


「大丈夫くるみ? ごめんさ、くるみ」

「そーいう意味だけで言ったわけじゃないんだけどさーくるみにも幸せになってもらいたいし。くるみは私の大事な友だちだからさ」

私が考え事をしてボーッとしていたことを気にしたのか、茉優美ちゃんがそう声を掛けてくれた。茉優美ちゃんに友だちなんて言ってもらえるとは思っていなかった。茉優美ちゃんが私のことを本当にそう思っているか思っていないかは別として嬉しかった。でもなんか、意外だった。茉優美ちゃんはなんかそういうこと言わないタイプだと勝手に思っていたから。


「うん、全然全然 大丈夫だよ」


「ならよかった」

「少しは、元気出た?」


「ありがとう こういう所 あんまり来たことなかったから嬉しかったよ。ありがとう」

一緒に帰ろうと声を掛けてくれる人がいる、一緒にクレープを食べてくれる人がいるのは嬉しい。今までで茉優美ちゃんのこと友だちになりたくないタイプだなんて言って避けていたのは私の方だった。


トリプルチョコバナナクレープみたいに、人気のある茉優美ちゃんは、私が食べても美味しかった。美味しくて質の高い物は、高価だから手が出しにくいだけで、本当は皆食べたいと思っているし、食べたら大半が気に入る。だから、特別な日にだけ食べる。そのタイミングを楽しみに待っている。


茉優美ちゃんのことは私も好きになったけど、茉優美ちゃんは人気があって友だちも多いから、これからも私の方から茉優美ちゃんに気軽に声を掛けることはできない。

夕食後のデザートとして、茉優美ちゃんに買ってもらったクレープ Kスペシャルを食べた。お父さんとお母さんと分け合った。


スペシャルという名前がつくだけあって、中にはメロンやマンゴー等のフルーツが7種類が入っていて、チョコレートやホイップも2倍の量入っていて本当に美味しかった。けど私には値段と味と、毎回食べられるようなものではない。


お父さんもお母さんも喜んでくれた。それはクレープが美味しかったってこともあるだろうけど、私にクレープを一緒に食べてくれる友だちがいることが嬉しかったんだと思う。

私は学校帰りや休日に友だちと遊ぶようなことを頻繁には行こうとはしなかったから。

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