(肥田 吾郎)
「完全ヒーロー マルゼナン」
幼かった僕を虜にさせたのは、1人の特撮ヒーローだった。
毎週 現れる様々な敵に屈することなく、軽く片付けるその姿が、実にカッコよかった。マルゼナンに心を奪われた僕は、今も時々 マルゼナンのDVDを見て勇気をもらっている。
「そんな子ども騙し、まだ見てんの?」
「くだらな、何が特撮だよ。そろそろそういうの卒業したら?」
「ヒーロー、すごいすごーい、はい、すごーい」
そう馬鹿にするやつもいるが、そいつらは、何も分かってない。
「大切なことを忘れかけている今こそ、特撮を見るべきだ!」
これは声を大にして言いたい。
特撮はアクションだけが魅力じゃない。
1つの人間ドラマとしても十分楽しめる。成長した今だからこそ、あの時は分からなかった感覚、生きていく上での辛さが分かり、人を助けるという意味を知ったからこそ、また違った目線で物語を楽しめるんだ!
僕は、マルゼナンに、ずるをしてはいけない理由と人に優しくなれる方法を学んだ……
「ヒーローになりたい!」
ヒーローに憧れを持つのは、おそらく、男の子なら1度は通る道だと思う。一生のうち、1度はヒーローになりたいと思うはず。ただ、大半はその事をすぐに忘れてしまうんだろうけど……
僕は違う!
僕は高校2年生だが、現在進行形で、ヒーローになりたい!いや、ヒーローになるんだ。そう本気で思っている。
主人公のヒーローを演じる俳優さんやスーツアクターになりたいわけではない。正真正銘 地球を守るマルゼナンのようなヒーローになりたいのだ。
「守らせてくれて、今日もサンキュー」
完全ヒーロー マルゼナンの決め台詞。
昔からこの台詞が好きで、ことあるごとに、この台詞を真似したものだ。この言葉が言いたいがために、おつかいに行ったり、皿洗いを手伝った時こともあった。
この言葉を聞いて、母も嬉しそうにしていた。自分でいうのもなんだが、かわいかったんだろう。
「ヒーローになりたい!」
小学生の頃から、背の順で並ぶと僕は、一番前だった。背が高くなりたくて、牛乳をたくさん飲んだのに、好き嫌いもせずにたくさんご飯も食べたというのに、残念ながら身長はいっこうに大きくならなかった。大きくなっていく友人たちを羨ましく思った。話を聞くと、当時一番大きかった太賀君は、牛乳が大嫌いで、ほとんど飲まなかったて言うじゃないか。悔しかった。飲んでない人間が大きくなり、飲んでる人間は大きくならない。このことに腹が立ったが、どうすることもできなかった。
身長が低いことに関してはもう、諦めた。仕方のないことだから。背の低い両親を責めるのも、僕のことを小さくしてやろうと意地悪したのかもしれない神様を責めるのも違う。
「人を恨む暇があったら、人に感謝する時間を作ろう! 恨みから生まれるのはマイナス要素ばかり、感謝から生まれるのはプラス要素ばかり」
マルゼナンの教えの通り僕はそのことに感謝することにした。これは自分を成長させるチャンスをくれているんだ 感謝 感謝。
身長が低い。だから、その分 体を鍛えることによって欠点をカバーする。結局は、心と体が強ければ、問題ない。
小さなヒーローだってこの世にはいる。小さなヒーローだからこそ、小さいものの痛みを知ることも出来るし、小さいからこそ、怖がらずに子どもたちも近づいてくれるかもしれない。
「トレーニング is マイライフ」
ヒーローにトレーニングは必要不可欠。
毎朝のランニングに始まり、ダンベルを片手に弁当を食べ、友人を会話時に、時よりもも上げを入れる。やり過ぎないように気をつけながら。
帰宅後は、腹筋、スクワット、腕立て伏せの筋トレ3兄弟を20分ずつやった後、牛乳を飲みながら15分休憩したら、10㎞ほど離れた公園までランニング。その道中で困っている人がいたら手助けをする。
「守らせてくれて、今日もサンキュー」
助けたんじゃない、助けさせてもらったんだから、それは感謝だ。また1つ僕は成長させてもらった。
僕は、部活に入っていない。
理由は、この学校にはヒーロー部もヒーロー同好会もなく、他に入りたいものがなかったから。それなら自分のやりたいこと、自分で、ヒーローになるための自主トレーニングに時間を使った方がいいと思ってたからだ。それに、生半可の気持ちで何気なく部活に入るのは、真剣に部活に向き合っている人たちに悪いから。
残念ながら、現在 日本には、ヒーローという職業はまだ存在しない。その理由は、別にヒーローという職業が必要はないからだ。
需要と供給……
需要がなければ仕事としては成り立たない。
「どうしよう、明日 怪人が家に現れるかもしれない」
「歩いている途中に怪人にさらわれてしまったらどうしよう」
「我が子が怪人王国の王子に嫁に来ないか? と言われて連れていかれたらどうしよう」
なんて不安を抱く人はほとんどいないだろう。実際、怪人が突如 自分の目の前に現れてその怪人に殺されてしまうなんて可能性は今は、0に等しい。それよりは、ただの人間が自分を殺しにくる可能性の方が高い。
ただ、10年後は分からない。
星人というものは遥か遠い宇宙に存在していて、その星人たちがやっと、地球にたどり着く方法を見つけ、地球を襲いに来るかもしれない。地球人なんて星人にしてみれば、情も何もない。容赦なく襲ってくることだろうし、殺すことにためらいもない。もしかしたら、人間を主食としているかもしれない。
もしくは技術の発達によって、怪人を製造することが実際に可能になり、製造された怪人がただの人間の指示によって、殺しにくるかもしれない。案外 怪人というものが10年後こ世界では、安易に買えるようになっているかもしれない。憎き人を変わりに殺してくれるのなら少しくらい高くても構わない。
需要と供給……
この怪人に需要が高まれば高まるほど、怪人の性能をよいものが供給されるようになる。鍛えていない生身の人間では歯が立たないような強い怪人が。
そんな、怪人が街中に溢れたとき、
日本にも、初めてヒーローという職種が認められるかもしれない。
「吾郎は、何になりたいの?」
僕はまだ、高校2年生だというのに、両親は僕に、進路について尋ねる。それは兄の影響もあるだろう。兄は進学校に合格したまではよかったものの、高校に合格することがゴールという考えだった兄は、高校入学後は、ろくに勉強もせず、毎日のように遊び呆け、挙げ句のはてには、警察にお世話になることもあった。
その後 兄は、近くの大学を受験したが、ろくに勉強をしていない兄に、桜が咲くことはなく、受けては落ち、受けては落ちを繰り返して、現在3浪中。日に日に兄のモチベーションも下がってきている。
そんな兄の状況を知っているからこそ、
「ヒーローになりたい!」
なんて思いを正直に、両親に打ち明けることはできず、
「困っている人を助けられるようなそんな人になりたい!」
となるべく近い表現を選んで答えた。
「そう、吾郎は立派ね~」
「そうか、そうと決まったからには、体を鍛えないとな、勿論 勉強もしないといけないぞ!」
どうやら両親は僕のなりたいものを
「警察官」だと解釈したらしい。わりかし間違ってはいないし、現状 イメージが一番ヒーローと近い職業といえば、警察官かもしれない。困っている人、弱きものを助け、悪を裁くが、その悪に対しても寄り添う心を忘れない。
だけど、僕の中での第一志望 ヒーローは変わらない。第二志望、第三志望を空白として、第四志望くらいなら警察官って書くかもしれないけど、あくまで僕はヒーローになりたいんだ。
「人は、何のために生まれてきたのか?」
何者かになるために、誰かのためになるために、何かの役割として人間が生まれてくるとするならば、僕は、ヒーローになるために生まれてきたのだと思っている。
困っている人を助けたいとは思っているものの高校という環境の中では、体を使って誰かを助けるような、僕が活躍できるようなことはない。今、必要とされているのは、お悩み相談やカウンセリング等といった机に座ってしっかりと相手の話を聞くといった心理的な悩みを解決するものだ。
この高校には、拳と拳で語り合うヤンキーは
存在しない。近年は、世間的にも暴力を振るうようないじめは少なくなり、言葉を使った間接的ないじめが主流となった。間接的ないじめは厄介なことに、やられている本人が、SOSを出さないと周りが気付きにくい。
SOSを出している、助けを求めた人だけを助けているようじゃ、ヒーローには程遠い。
本当のヒーローは黙っていても、SOSを出されなくても、ピンチの時には、必ず助けに来てくれる存在だ。それができていないということは、僕がまだまだ力不足だということだ。
完全ヒーロー マルゼナンは、第1話から完璧なヒーローだった。
第1話から最終話まで、敵に負けたことがない。稀に劣勢に立たされることはあっても負けない。1度も負け知らずの最強ヒーロー それが、完全ヒーロー マルゼナンだ。
あるレビューサイトには、こんな風に書かれている。
「主人公が強すぎてつまらない。主人公補正ヤバすぎ笑」
「絶対に勝つことが分かっているから戦闘シーンにハラハラ感がない。負けそうになっても負けないことが分かっているから、ヒーローとしての戦闘シーンに面白味がない」
そこが魅力だというのに、分かっていないやつが多いな。そんなやつはマルゼナンを見ないでほしい。常に弱いものの味方で、1度も負け知らず。完璧で、絶対に勝つ。そんな姿に憧れたんだ。
「目標や夢は大きい方がいい。小さい目標だと、追い付いたときに達成感を得てしまい、それ以降の成長がなくなる」
僕の夢は、ヒーローになりたいだが、最終目標は、マルゼナンを越えること。この大きな目標を達成することの難しさを分かりやすく説明するなら、覚醒したホッキョクグマに対して、武器は何も持っていないのに、右手は使わずに、左手だけで10分以内に傷1つつけずに眠らせる。これは、生半可な気持ちでは達成できるようなものではない。マルゼナンを超えるということは、それくらい難しいなのだ。




