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僕らは天才じゃない  作者: 七寒六温
14/31

(庭野 正)

「今日は部活休み?」

「じゃあ、一緒に帰ろっか?」

放課後 教室で帰る準備をしている彼女を見つけたので声を掛けた。付き合っているのが周囲に知られた以上そういう風に振る舞わなければならないだろう。俺は優しい彼女想いの男を演じるのだ。


「うん、今日は休みだから、今から帰ろうと思っていた所」

嘘つきだね君も。さっき楽しそうに会話しながらテニスコートに向かう女子テニス部の生徒を4人くらい見たけど、彼女たちは自主練習に行くのかな? 他人の評価は気にしない人間を演じているように見せて、本当は他人からの評価を気にしているんじゃないか。


「よかった、俺も今から帰るところだから」

「俺も休み……」

「って、帰宅部はいつも休みだったわ」

別に部活を休む理由を詳しく聞くつもりはない。好きじゃなければ部活なんてやる意味はない。俺はいまだに部活の勧誘を受けるが、どの部活にも入るつもりはない。レギュラーの座を奪われたとかいう変な恨みを買うくらいなら帰宅部でいる方が楽だ。


「うん、そうだね。一緒に帰れて私 嬉しい!」

彼女は断ることはなかった。それもそうだろう。部活を休みと言ったのだから断る理由がない。


「それっ、重いでしょ?」

「いいよ。俺が持つよ」

通学鞄くらいなら2つくらい余裕で持てる。

それくらいは男としてさせてもらう。


「元気ないみたいだけど大丈夫?」

「ちゃんと ご飯食べている?」

彼女が傷付いていることは、彼女の目を見ると分かった。いや嘘。そんな能力は俺にはない。状況で判断しただけだ。

俺たちが付き合ったことで学校で何か変化することは予想できた。今何が起きているのかは何となく耳に入ってくる。


普段なら傷付いている人がいようが何かしてあげようとは思わない。どうせ嘘泣きでもして誰かに泣きついて相談するんだろうから。

ただ、彼女は、本当は傷付いているくせに強がってそんな素振りを見せない人間だから、誰にも相談しようとはしないだろう。そんな人をみるとほっとけない、少しだけ話を聞いてあげてと、昔の俺が助けてあげろって言ってる。あの時の辛さを思い出せって。


「ねぇ?」

「いつまでそれでいるつもり? もう誰も見ていないでしょう?」



「これは本当に心配してるんだよ」

「俺が一緒に弁当を食べようか?」

ハブられたのだ。彼女は1人寂しく弁当を食べているらしい。これだから人間は嫌いなんだ。ちょっとしたことですぐに関係を壊す。

空気やらを読んでか知らないけれど、自分たちの意思っていうのはないのか。

友情は恋愛の弱点属性か、友情が恋愛にかなうわけがない。恋愛沙汰で友人を無くすことはあっても、恋愛沙汰で友人が出来ることはほぼない。


「別れたら友だちに戻ろうね」

そんなの無理だ。待っているのは地獄。

そんなことをしていると仲良くしている元カノ元カレのせいで浮気を疑われたり、中途半端な関係性のせいで次のステップにすすめなかったりと。別れたらもう2度と会わない、それくらいの気でいた方がいい。


「人は恋のためならば友だちを裏切ることが出来る。何故なら、人間本来の目的である遺伝子を残すことに、友だちはまったく必要ないのだから……」

安っぽい恋愛小説の冒頭に書かれていた言葉なのに何だか奥深い。人間本来の目的を遺伝子を残すこととするならば、友だちも必要なければ、勉強も必要ない。学校は相手となる異性を見つける場所になり、学校で教えられることは限られてくる。


それでも彼女は強がってこう言った。

「大丈夫 私は、1人が好きだから」

「ひとり焼き肉とか ひとりボウリングとか、私 全然出来るタイプだと思うし、何ならひとり遊園地でも楽しめる自信はある。まあ、そんなくだらないところには行こうとは思わないけど」


「そう なるほどね」

「1人が好きならそれでいいけど、無理に群れる必要はない」

「1人になった方が人間は強い。1+1は10になることもあるけど、マイナス5000になることもある」

1人で飯を食べることは悪いことではないのに、なぜか気を遣われて、哀れみの目で見られる。美味しいものは1人で食べても美味しい。それに1人なら誰に気を使う必要もない。食事に集中出来るのは1人の方がいいのかもしれない。


「結局、人は最終的には1人で戦うことになるんだ。最後まで味方をしてくれるのは、自分1人だけだから」

1人に慣れてない人は、いざ1人になったときに弱い。そう言った意味では、今のうちに1人を経験しておくのも悪くないのかもしれない。


「もうほとんどの人が知っているようだね。俺たちが付き合っているってことを。まあ付き合っているふりだけど」


「そりゃそうよ高校ってそういうところだから。誰か1人に話したらあっという間に噂は広がって皆が知ることになる。悪い噂なら大半が知るには、5日もかからないかもね」


「まあ、バレるように望んだのは俺だから構わないんだけど、流石に早すぎない? 2日でこんなに広まっているとは思わなかったよ?」

1週間くらいでこのことは知れ渡るのかと思っていたが2日。かかったのは、たった2日だった。これだから学校という世界は恐ろしい。


俺が付き合い始めたことで、少しは俺に対する女子たちの対応は変わると思ったが、ほとんどは変わらなかった。ごく一部は、俺に対して挨拶すらしなくなった。


山瀬は、すれ違うたびに俺のことを睨むようにこちらを見てくるが、俺はお前のことがこの学校で1番嫌いだ。睨みたいのは俺の方だ。お前が俺から涼ちゃんを奪ったのだから。


「今日の現代文、本当に退屈だった」

現代文の授業を受けていた8割の生徒が退屈と感じただろう。先生の説明する声は小さく聞き取りづらいのに授業のスピードだけは早い。教える授業というよりは、教科書を終わらせる授業である。


「今回の現代文のテストヤバそうだな。あの授業では」

「赤点はとるわけにはいかないな。単純に恥ずかしいし」


「ねえ、現代文教えてよ?」

何気なく彼女に聞いてみた。せっかく付き合っているふりをしているのだから、勉強を教えてもらえるのなら教えてもらいたい。


「え? 私が?」


「いいじゃん 君、頭いいでしょ?」

実際、彼女は俺よりも頭がいい。

この学校では、テスト返却の際、クラスの最高点数と取った人の名前が読み上げられる。

これは、少しでもやる気を出させる、競争意識を持たせる意味でやっているらしい。


「最高点は94点、宮城晃」

その名前が読み上げられることが今までに何度もあった。


「別に、私が教えられる部分なら教えてあげてもいいけど」

彼女は照れくさそうに言った。教えられる部分って君はほとんど教えられるんじゃないのか?


「本当に? じゃあ 頼むよ」 


「今日は無理だから、明日とかなら空いているけど そっちはどう?」


「俺? 俺は大丈夫だよ。じゃあ明日図書館で。学校が終わってから2人で図書館に行こう」

学校が終わって2人で図書館に行こうと約束をした。現地集合は嫌いだ。予定が入ったとか言い訳をされて土壇場でキャンセルされる可能性があるからだ。一緒に行けばその心配はない。



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