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僕らは天才じゃない  作者: 七寒六温
12/31

(宮城 晃)

スクールカーストの位置の違うもの同士が付き合うことになると、学校の雰囲気に何かしらの変化が現れる。それは知っていた。


例えば、上位層と付き合い始めたことによって下位層のものが急に上位層に上がるパターンや上位層のものが下のものと付き合い始めたせいで身分降格を言い渡されるパターン。


その変更を言い渡すのは誰でもないし、そういうタイミングが決まっているわけでもない。その場の空気が何となく身分の昇格や降格を知らせる。



私と庭野は付き合ったことになっている。

彼はこの学校で1、2位を争う人気男子。

今まで数々の女子たちが告白していったが、誰1人として嬉しい返事をもらうことができなかった。

その彼が誰と付き合うのかということに誰もが興味津々だった。彼に泣かされた女子も多い。そんな女子たちも自分がフラれた理由が納得出来るような、この人には自分では勝てないわって思えるような素敵な人と付き合ってほしいと思っているはずだ。


「はい、残念でした~」

「庭野が選んだのが私と知ってあなたたちはさぞガッカリするでしょう」

可愛くもない、面白くもない、頭がいいわけでもない。家が大金持ちでもない私が選ばれたことは誰一人として納得していないはず。そもそも彼女たちは私のことを対戦相手だとすら思っていなかったはず。人間が蟻にわざわざ決闘を申し込まないでしょう?

それは人間は蟻に負けるはずがないなんて思っているから。


全部あなたたちの自業自得。

カッコいいだとか運動神経がいいだとか都合のいい部分しか見ようとしなかったから、庭野のことを理解しようとせずに自分の好きという気持ちや思いばかりぶつけているから私なんかに負けるのよ。まあ、あなたたちにはこれからもずっと、庭野のことを理解することなんてできないだろうけど。


私は、悪い魔法使いから英才教育を受けたのでお陰さまで悪い魔法使いになることができました。ありがとうございました。


人が悲しんでいる姿を見て喜んでいる。嬉しくて心の中で笑いが止まらない。全く可愛そうだと思わない。

今まで下らない話ばかりしていて、何も考えないで生きてきて彼女たちが初めて苦しさというものを味わう姿が最高。

こんなことを考えているのだから、かなり悪い魔法使いだ。


能力はまだ使っていないけど、使えば 傷付いている女子の中の1人の命くらいは、元旦までには奪おうと思えば奪えるはず。人が傷付く方法を私は、知ってしまっているから、追い込むことなんて簡単だろう。


前の席の松永さんっていう吹奏楽部の女子は、ショックのあまり体調不良で学校を休んでいる。何の体調不良ですか、それは?あなたは庭野がいなければ生きていけないんですか?


隣のクラスの青木さんっていう女子は頭がおかしくなったのか、屋上で何かを叫んでいたらしい。私の悪口か?


この2人が特に腹が立つところは2人とも告白をしていないことだ。告白する勇気がなくって、もじもじしている間に私が庭野をもっていったから。自分たちが行動しなかったことが悪い。それなのに不満げにしている。 


「正直いってくだらない」 

「実にくだらな……」

こんなことで休んでいたらあなたは今後 様々なことで心が折れては会社を休むことになるよ。会社は学校と違って優しくないことを私は知っている。簡単に休ませてはくれない。離婚してすぐの母が、会社を4日間休んだだけで母には働いていた会社をやめるはめになった。母が離婚したことは会社にとっては何も関係のないことだから。


私は、庭野と付き合いはじめたと噂されてからの周りの環境は変わったような変わらないような。元々 人気者ではなかったし。


ほとんどの女子からは声を掛けられなくなったが、元々そんなに声を掛けられてはなかった。元々友だちと思える子はいなかったから友だちが一気に減ったわけでもない。

彼女たちが話す話題に飽き飽きしてたからめんどくさいことが、1つ減ったと思えば気は楽だ。


弁当は今までは4人で食べていたけど、1人になった。彼女たち3人がそうしたかったのか、空気的にそうせざるを得なかったからそうしたのか、どちらかは分からない。


まあどっちにしても、今まで4人で食べていたのは、部活が同じという理由だけで仲のいい集まりだったわけじゃないから、ぼっち弁当になったところで悲しくはない。

1人で食べようが4人で食べようが美味しいものは美味しいし、美味しくないものは美味しくない。

好きな人の前なら嫌いな食べ物が食べられるようになるか?答えはならない、なるわけない。


蹴られたり殴られたりするような暴力、教科書を隠されたりするような具体的ないじめは受けてないだけましだ。

無視はされるし、陰口は言われてるだろうけど、女から陰口を取ったら何も残らないから言われてて当然。陰口を言わない女子なんていない。陰口を言ってるあんたもいないところでは、陰口を言われているんだから。そんなことにも気づけていない方が惨めだし。


ただ……

今日の弁当に入っていたおにぎりは、母が塩加減を間違えたようでいつもよりもしょっぱかった。


それに対して、庭野は私と付き合いはじめたと噂されてからも変化はないようだ。さすが、スクールカーストの上位層に位置するだけある。そう簡単には嫌われない。全裸で校舎を走るくらいのことをしなければ嫌われないんじゃないだろうか?


いまだに彼に近づく女子は多い。彼女ではなく友だち希望なのか?ただ話がしたいだけなのだろうか?それとも私が長く続かないと思って、その後を狙っているのか?

言っておくけど、彼は本心では話さないと思うよ。少なくともあなたたちにはね、それなりのことをそれなりに返すだけ。


人が喜びそうな言葉を見つけては口にし、相手を喜ばせる。ずっと相手の顔色を伺いつつも心の底では誰のことも信じていない。


「今日は部活休み?」

「じゃあ、一緒に帰ろっか?」

放課後 教室で私が帰る準備をしていると、偽りの庭野が声を掛けてきた。周囲を気にしているからか優しい話し方をする。いかにもわざとらしい


「うん、今日は休みだから、今から帰ろうと思っていた所」

今日は部活に行きたくない。体調不良と嘘をついてずる休みをしようと思っていた。私が部活に行った所で、誰からも歓迎されないだろうし、これは元々だけど。


「よかった、俺も今から帰るところだから」

「俺も休み……」

「って、帰宅部はいつも休みだったわ」

さすが人気者の庭野は違うね~そんなくだらない冗談も言えるんだ~面白い面白い。いや、この言葉が面白いんじゃなくて、人気者がいうと自然とその言葉も面白くなる。


「うん、そうだね。一緒に帰れて私 嬉しい!」

一応私たちは付き合っていることになっているんだし断ることもできず庭野と一緒に帰ることにした。わざと鼻につくような声を周りに聞こえるように大きめに出した。


「それっ、重いでしょ?」

「いいよ、俺が持つよ」

庭野は、私の通学鞄も持つと笑顔で教室を出た。

途中 途中で同級生たちは彼に声を掛けられる。庭野の方は片手を挙げて、笑顔でお疲れと言って返す。


校舎を出るとやっとふたりっきりになった。

2人だけで並んで歩くのは少し恥ずかしい。

隣にいるのは偽りの庭野だっていうのに……


「元気ないみたいだけど大丈夫?」

「ちゃんと ご飯食べている?」


「ねぇ?」

「いつまでそれでいるつもり? もう誰も見ていないでしょう?」

学校からもうずいぶんと離れたのに、庭野はまだいい人のふりをしている。何ならこのまんま分かれてもいいのに。


「これは本当に心配してるんだよ」

「俺が一緒に弁当を食べようか?」

そんな風に優しくされると心を許してしまう……

ダメだ、ダメ 違う。

そんなわけはない。

私は、人を好きになったりしない。人のことを簡単に信じない。その方が絶対に幸せになれるから。こいつは調子のいいことを言っているだけで私のことを思ってこんな優しい言葉をかけてくれているわけではない。こいつも悪い魔法使いだ。


「大丈夫 私は、1人が好きだから」

「ひとり焼き肉とか ひとりボウリングとか、私 全然出来るタイプだと思うし、何ならひとり遊園地でも楽しめる自信はある。まあ、そんなくだらないところには行こうとは思わないけど」


「そう なるほどね」

「1人が好きならそれでいいけど、無理に群れる必要はない」

「1人になった方が人間は強い。1+1は10になることもあるけど、マイナス5000になることもある」

「結局、人は最終的には1人で戦うことになるんだ。最後まで味方をしてくれるのは、自分1人だけだから」

そう、庭野の言うとおり。

3人集まった所で、必ずプラスになるかといったらそれは違う。各々が自由に動き、足を引っ張りあえば、十分に発揮することはできない。結果的に1人でやった方がマシだったってことになる。


「もうほとんどの人が知っているようだね。俺たちが付き合っているってことを。まあ付き合っているふりだけど」


「そりゃそうよ高校ってそういうところだから。誰か1人に話したらあっという間に噂は広がって皆が知ることになる。悪い噂なら大半が知るには、5日もかからないかもね」


噂が広まるように仕向けたのは私だ。

「私、庭野くんと付き合うことになった」

と女子トイレ同じテニス部の安藤さんに自分から言った。近くにいた噂好きで有名な山瀬さんに聞こえるように大きめの声で。


「まあ、バレるように望んだのは俺だから構わないんだけど、流石に早すぎない? 2日でこんなに広まっているとは思わなかったよ?」

2日は早いと私も感じたけど、流石 山瀬さん。彼女は噂好きで有名で本当のことでも嘘のことでも毎日のように誰かの噂や悪口を見つけては、話している。自分だけが知らない情報があるってことを嫌うし、自分だけが知ってる情報を知らない人に教えることを生きがいとしているような子だ。これもビッグニュースだと思ってすぐに話をしたんだろう。


山瀬さんに伝わったことで、噂は捻れて捻れて真実とは多少異なる嫌な噂となって広まった。宮城は、庭野くんと付き合ったことを自慢していたとか。


噂は人から人へ伝われば伝わるほど真実とは異なっていく。最後の方になっていくともはや原型をとどめていない。全く関係のない文となって、大体が悪いように変化していく。


「A君がB君からリンゴをもらって食べた」

という文面が噂として人から人へ伝わると

「A君はB君の持っていたバナナを盗んで食べた」

という文面に最終的には変化する。もはや原形をとどめていない


「今日の現代文、本当に退屈だった」

嘘つきが。

くそ真面目に授業聞いていたじゃない。あの態度は、退屈そうな人の取る態度じゃない。


授業が退屈、先生が嫌い。

こんな当たり前のような会話も今まで他の人には話してこなかったのか。完璧な人間であるためとはいえ純粋にそれをやっていないのなら辛いよね。本当は人並みに悪口や文句の1つくらい言いたいだろうに。


「いいよ、私に存分に愚痴るといい。私は、あなたがそういう人間だって知っているのだから」

「恐れることもない 私は友だちもいないからこのことを誰かにチクったりはしない」


「今回の現代文のテストヤバそうだな。あの授業では」

「赤点はとるわけにはいかないな。単純に恥ずかしいし」

庭野が赤点を取るくらい成績が下がったとしても彼の評価は下がらないだろう。勉強できない姿も、かわいいなんて言われて褒められる。それが、庭野。


「ねえ、現代文教えてよ?」


「え? 私が?」


「いいじゃん 君、頭いいでしょ?」

私は友だちがいないから勉強ができる方だ。休み時間に無駄話をする必要がないので勉強に集中できる。むしろ勉強をしなければ高校に来ている意味すらない。


「別に、私が教えられる部分なら教えてあげてもいいけど」


「本当に? じゃあ 頼むよ」 


「今日は無理だから、明日とかなら空いているけど そっちはどう?」

ちょうどよかった。明日も部活にはいきたくないと思っていたから休む口実ができてよかった。サボりじゃない、勉強のために休むんだよ私は。


「俺? 俺は大丈夫だよ。じゃあ明日図書館で。学校が終わってから2人で図書館に行こう」

久しぶりにプライベートなことで他人の約束で予定が埋まった。休みの日に友だちとカラオケに行く約束とか、学校帰りに新しい服に買いにいく約束とかそういうのをもう何年もやってなかった。部活の合宿とかで埋まることはあっても。そんな友だちがいなかったから。


純粋に嬉しかった。

男の子と一緒に勉強なんて漫画のような体験を自分が出来るとは、このまま庭野に騙されてもいいから、頭ポンポンくらいは私もやってもらいたい。


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