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僕らは天才じゃない  作者: 七寒六温
10/31

(三島 愛子)

自分でいうのもなんだけど、私はルックスは90点、スタイルも80点だと思っている。だとか自信家だとか自分で言っちゃうなんて嫌なやつだなと思われるかもしれないけど、私的には、謙遜する人の方が嫌みに聞こえる。ルックス80点の可愛い人に「私なんか全然」なんて言われるとあなたより可愛くない人は何になるの?ルックス80点の人が謙遜することで、ルックス75点の人も自然と謙遜しなければならなくなる。


可愛いやカッコいいと言われ続けてきた人は、周りには言わないだけで自分自身で気付いている。周りを見れば自分の方が整っているなんて普通に分かるし、それにそのように育ってきたのだから、意識は絶対にしている。


80点のルックスで生まれた方が幸せか、 

40点のルックスで生まれた方が幸せか? それ以外が全く同じ条件であるとすれば80点のルックスの方が幸せでしょう。

嫌な話だけど、ルックスで決まる仕事も世の中には何割かはある。全てがそうとは言いがたいが。


神様に、私はこのルックスをもらったかわりに、音痴にされた。どんなに練習をしても上手くなっている感覚がない。

歌が上手いかわりにルックスが30点にされたらそれはそれで文句を言ってただろうけど。人間は生まれたときから死ぬまでワガママな生き物だ。何かを手に入れたら、他の何かも手に入れたくなる。必要以上に理想を求めたくなる。



西村渉 

球技大会で、自分のクラスの優勝が決まったというのに彼は不満そうにしている。その理由は私には分かる。 

野球部である西村も活躍したというのに、その全てをかき消すかのように最後の最後に野球部でない男がサヨナラ2ランホームランを打ったのだ。


2ランホームランを打ってみんなの輪の中心にいる男 庭野正。

私は彼のことが大嫌いだ。


「残念、残念。先制点は、西村が決めたのに、そのことは忘れられて逆転の2ランホームランを打った庭野だけがあんなに、もてはやされて」


「別にいいんだよ。俺は野球部で庭野は帰宅部。野球部くせして、俺が取れたのは、先制点の2点だけ。誰が見ても庭野の方が凄いって思う。それが普通だよ」


「まあ、それはそうよね」

「あなたには、3打席あったんだから、全てホームランを打てていれば、少なくとも3点は入っていたんだから」

それは結果論ではある。西村には悪いけど、あの2ランホームランは庭野が打ったことに意味があるのかも知れない。元々人気のある庭野だから、彼の周りには自然と人が集まった。西村が3打席連続ホームランを打って圧勝しても、西村がヒーローになれたのとは限らない。


「なんだい?わざわざ俺の元にきて嫌みだけを言いに来たのかい?」


「そういうつもりじゃない。私はあいつの元に近寄りたくないだけ!ああやってヒーロー気取りしてるのもムカつく」

「私は西村に大活躍してもらって、庭野に見せ場を作らせないで欲しかったから、あなたのこと密かに応援してたの。ただ、それがこのざまだから、励ますついでに活を入れようと思ったの」

私は、庭野のことが嫌いだ。理由は、彼に告白してフラれたから。

正直フラれるなんて思っていなかった。庭野も人気がある生徒ではあるけど、ルックスだけでいけば私も引けを取らない。それなのに彼はあっさりと私の告白を断った。

だから、庭野がヒーローとしてもてはやされているのが非常に気に入らない。


「そうだよ。俺は情けないな」


「相手ピッチャーも野球部だったとはいえ、このレベルでよくプロ野球を目指そうとしてたよな……」


「プロ野球選手?」


「笑うよな~昔の話なんだけどな」

「小学2年生から始めて、その小学校の中では才能があったんだ 中途半端に、そのまんま中学に入っても1番上手かったのは俺で、本当にプロ野球選手になれるんじゃないかなんて思っていた」


「だから、野球の強い強豪校に行くつもりでいたんだが、同じ中学校に通う同級生のお兄さんが行ってるってことで特別に、見学させてもらったんだが、レベルの差をそこで実感した」


「俺の力が10だとしたら、その高校の部員たちは、最低で70、80 90レベルの人たちがほとんどで、そこで自分の力のなさにギリギリ気付けた」 


「俺は、プロ野球選手を目指していいレベルではなかった。力の差は年齢の差とかいう理由じゃなく、明らかに能力的な差があることが痛いほどに分かった」


「それで、地元の高校に通うと、笑われそうな気がして、それは杞憂なのかもしれないけど、怖くて、祖母の家が近いこの高校に逃げてきたんだ」

彼の経歴を聞いて驚いた。

私に近い物がある。同じ挫折を知ってる人がいたなんて。


「西村の昔の実力で通用するとかしないとか私には分かんないけど、気付けたのはいいことなんじゃない。必要なのよそれは」

「人間は、中途半端に才能があることが1番迷惑なのよ!」

才能が中途半端にあるのは本当にムカつく。才能とは自分が意図していないものを配られることだってある。これは優しさなんかではない。単なる嫌がらせだ。


「もう少し、あと少し頑張ればプロになれるかも、必死の努力をしてもなれずここで脱落するもの、プロになったけど、芽が出ずに終わった者。それは、中途半端に才能があったために諦めるに諦めることができなかった」


「8合目まで登らせておいて、ああ、ここから先は立ち入り禁止だから、頂上からの景色はお預けね! 頂上に登れないことが分かっているんなら、最初から教えといて!登る前や2合目で分かっていれば、その時点で諦めることができたのに誰も教えてくれない」


「頂上まで登れなかったけど、登ろうとした過程が大事なのよ。その過程は決して無駄じゃないなんて軽々しい言葉を掛けられるのは所詮他人だから」


「本人はそうはいかない。今までの時間はなんだったんだろう? ああ、無駄なことに時間を費やしてしまったな。なんて自己嫌悪に陥るの」

過程が大事、過程が大事なんて表面上ではそう言われているけど、この世界はまだ、結果を求める。

小説家になりたくて3年間小説を書き続けた男と、小説を書こうとなんて1度も思わなかった男。どちらも結果小説家になっていなければ、2人ともただの会社員。会社員という事実しか残らない。


「私には、西村の昔の話を笑えない。私もそうだったから……」

私も彼と同じで若くして、夢破れたひとり。


「同じ?」

「三島も野球選手になりたかったのか?」


「いや、違うわよ」

「私もあなたと同じように、無謀な夢を持っていたの。話すと馬鹿にされそうな夢をね」

このことを同級生なか話すのは初めてだ。特に仲のいい相手ではないけれど、彼になら話せる、話してみたいと思った。


「男の子って、みんな1度はヒーローになりたいって思うでしょ? 女の子はそれが、アイドルなの。1度はみんなあんなかわいいアイドルになりたいって思うの」 

ヒーローが大好きな男の子とアイドルが大好きな女の子。昔はみんなそうだった。中には

ヒーローが好きな女の子やアイドルが好きな男の子もいたけれど。でもそれが私が最初に感じた 私が “女の子“であることだった。


「大半は子どもの時のくだらない夢だと割り切って、そんなこともあったなって思うくらいで忘れていくんだけど、私は本気でなりたかった。大人たちがかわいいねなんて言ってくれるから目指してもいいんじゃないかと思ってた。勿論親は大反対だったけど……」

ヒーローもアイドルもどちらかといえば非現実的な夢であると大人ならそう判断する。ヒーローの方がSF感が強いってだけで。

だから、両親は勿論大反対だった。ただでさえ難しい世界なのに、私には音痴だという欠点があったから成功するはずはない、絶対に苦労すると思ったのだろう。


「中学になってからも可愛いと言われ続けた私はその気になり、その夢は変わることはなかった。だけど、私には1つ大きな欠点があって……アイドルとしては致命的な欠点だから、その欠点がマシになったらオーディションを受けていいって両親からの承諾も得た」

中学生にもなれば諦めるだろうと、両親は思っていたらしいが、私は諦めるどころか、その思いが一層強くなった。だってみんな私のことを可愛い可愛いやアイドルみたいな顔してるねなんてことを言うんだもの。中学生の私は、それを信じた、鵜呑みにした。


「欠点……?」

「それは、なんなんだ?」


「私は、音痴なのよ。自他共に認めるほどの。歌うことは好きだったし、たくさん練習したけれど一向に上達しなかった」

「約束していたの、中学校3年生の春までに歌が上手くならなければ、周りの子と同じように普通の学校に行って、現実的な企業に就職するって」

「それで私は、オーディションを1度も受けることなく、夢を諦めた」

そんな約束をせずに、いっそのこと1度オーディションを受けていたら違ったのかな?

でも、そのオーディションに合格していたとしても、アイドルとして一流になれたかはまた別の話だけど、経験していないことはきっと上手くいったんじゃないかといい風に考えてしまう。


「現実的に、現実的に、現実的に」

「そのためには、私がアイドルを目指していたなんて知られたら、普通の現実的な高校生活なんて送れないと思って、私も西村と同じように、地元から逃げてきたのよ」

現実的に、現実的に って言われたから普通の生活を送るためには地元の高校に通うわけにはいかなかった。新しい土地で、私は普通の生活を送り、普通に彼氏を作り、普通に企業に就職する。それでアイドルを目指していたことを忘れられるように。


「アイドルは無理でも、芸能界に進む方法は他にもあったんじゃないのか? 芸能界のことはよく分からないけど、例えば女優とかダンサーを目指すだとか?」

西村に軽々しく言われたような気がして、少し腹が立った。私がなりたかったのは、アイドル。女優、ダンサー、芸能界で働ければ何でもいいってわけじゃない。


「それは違う。私は、アイドルになりたかったわけで。じゃあ西村は、明日からラグビー選手を目指すの? 違うでしょ?」


「そ、それは違うけど……」


「でしょ? 私もそれと同じ」

西村には違いが分からないかもしれないけど、私の中では、アイドルと女優はそれくらい違う。それぞれ芸能界の中でも、こういう仕事がしたいってある程度のヴィジョンがある人がほとんどだと思う。芸能界なら、芸能界のどこかに属せばいいじゃんなんて軽く考えていいものでもないし、芸能界というひとくくりにしていいものではない。


 

「大人は何かあると、君たちは若いんだから何にでもなれるなんて言葉をすぐに使うけど、何にでもはなれないよな。目の前に魔法使いでも現れれば別だけど」

分かる。何を根拠にそんな言葉を使うのか、何にでもなれるんなら私たちはこんなに悩んでないわ。何にでもはなれないし、そもそも認めてもらえない物の方が多い。なんだかんだ理由を付けられて、反対されることの方が多い。



「これを言っておけば、とりあえず励ましてるつもりかも知れないけど、それは言った方だけの自己満足だ」

「今から俺がプロゴルファーになれるか? 恐らくなれない」


「変に背中を押すだけ押しといて、なれなかったときの言葉はもう用意してある。なれなかったときはこう言うんだ」

「君の努力が足りなかったんだ……」

努力が足りなかった。

とても楽な言葉で、冷たい言葉。

本当に努力が足りなかった人もいるかも知れないけれど、努力した、努力すらさせてもらえなかった人間もいる中で、その言葉を使うことはどうなんだろうか?努力が足りなかったって言われたら、言われた方は何も言い返すことが出来ないよ。



「そうね。私も嫌いな言葉がある」

「あなたの好きなことをやりなさいって言う言葉」

「自分を正当化させたいからか知らないけど、口ではそんなことを言うくせに、本当に好きなことはさせてくれないんだよ」

なんて、無責任な。私が大人になった時、きっと 父さんは好きなことをやれって言ったぞ、これは自分が決めた道なんだからお前の責任だぞって言ってくる。


「まあ別に。嫌な言葉ばかり考えていてもつまらないだけだから、好きな言葉の方を考えることにする。私が好きなお笑い芸人さんが言ってた言葉なんだけど」

「自分に才能がないって気付けるのも才能だって」


「なるほど、じゃあ俺たちにはその才能はあるってわけか……」


「いいや、違うわ」


「私たちがこれから別の分野で活躍することがデキた時、初めてこれは才能だったと認められる」

私が他の分野で大活躍して大逆転できるとは思っていない。だから私は、少しでも容姿のいい人間と結婚して、生まれてきた娘をアイドルにするつもりでいる。

娘がアイドルになってくれたその日、私の才能が認められる。それでいいのそれが私ができる最大限のことだと思うから。










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