1章 まずはここから
「はっ」
どれくらい気を失っていたのだろう。辺りを見渡すと古い小学校の教室のようなところにいた。
窓の外は真っ暗で何も見えない。照明が仄かに付いていたからここが教室で窓の外が真っ暗だというのがわかった。
「どこだ、ここ」
窓の外が真っ暗だと思ったがあまりに不自然なくらいに暗い。いや、暗いというより黒い?
もしかしたら何か貼られているのではと窓に手を掛けたが、鍵が掛かっていないのに関わらずピクリともしない。窓を触っても何かを貼られているという感じもしない。
大体何故ここにいるのだろう。中庭で本を読んでいたら本から手が出てきてそれに引きずり込まれたのは覚えている。
「ゲームとかだとひとまずここを調べるなりなんなりだよな。で、最後はここから出られて……。いや、現実問題ここから帰れるのか?」
それと同時にこの薄気味悪い場所に一つの嫌な予感が浮かぶ。
いやいや、こういうのは考えたら出てくるとかそういうやつだ。と思いつつ考えることを止めることが出来ない。
今灯りが仄かにあるがこの灯りが消えたら?外に出てその先にも灯りはあるのだろうか。
灯りが消えた先に起こること。何かに襲われるのでは?それは対処が出来るのか?武器になるものは?走って逃げるなり、隠れて誤魔化すことは出来るのか?
後から後からと考えが浮かんでは恐怖として貼り付いていく。
一先ず灯りと何か武器になるものを探さねば。
なんとか考えを振り払い、後ろにあった掃除道具入れを確認してみる。
出てきたのは先端がT字になっている箒とちりとりくらい。
「ここ、明らかに古い感じだけど箒は比較的最近のものなんだな。いや、最近の学校ってどうなってるか知らないからわからないけど」
1人でいるせいか独り言が増える。風も無ければ辺りに聞こえる音もない。そうなると今の状況を誤魔化すためにも必然的にしゃべるしかなくなる。
「てか、机の中何もねぇな。なんかしらプリントとかねぇのか?燃やすもんないからあったところでどうしようもないけど」
「さっきから1人で何話してるの?」
机を覗き込んでごそごそとしていたところを突然の背後からの声に体が硬直する。
「ね、さっきから何探してるの?何かなくしちゃったの?」
声のする方を振り向くと長い黒髪に赤いスカートの少女が立っていた。
「ねーねー、お兄さん」
「あっ、き、君ここの学生さんなの?」
「んー、そうだね。ここにいるよ」
「そ、そう」
突然のことに頭がついていかない。今この状況で聞くべきなのはそんな普通のことじゃない、ここがどこでなんで外が見れないのかとかそもそもこの子は人間なのか?理不尽な状況に不安をそのまま少女にぶつけたい衝動に駆られる。
「ねぇ、ここ、はどこなの?どうして外が見えないのかとか窓が開かないこととかわかる?」
「ここはねぇ、本の中だよ。いろんな怨嗟の籠もった場所。お兄さんは選ばれたの、怨嗟の気持ちを慰める者として。だから出たくても出ることは出来ないし、外を見ることも出来ないよ」
「は……?」
えんさ?えんさってなんだ。出られないってなんだ。それに本の中って。俺は本当に出られないのか……?
「んーと、まず話伝わったのかな。お兄さんいつの時代の人かわからないから一先ず最後にここにいた人と同じ言葉を使ってみたけど。急にこんなところに放り込まれるんだもん、可哀想だよね」
そう言う彼女は色白なんて表現でなく白い。暗い中でもぼうっと見えるような陶器のような白さだ。
可哀想、と慈母の微笑みを浮かべながら話す彼女は見た目通りの年齢ではないだろうことが窺える。
「ここから出たい?」
「そりゃ、出たいに決まってるよ」
それでも見た目のせいで小さい子に対するような態度を改めることが出来ない。
「わかった。ついてきて」
「ついてきて、ってここから出る方法を知ってるの?」
「いいからついてきて」
ここにいたところで立ち往生するだけ。
ならば、とこっちこっちと手招きをする彼女にひとまずついて行くことにする。
少女について行くと違う教室に着いた。
「ここ。ここの教壇辺りに灯りがあった気がする」
指差された教壇の裏に回り、中を漁ると懐中電灯を見つけた。動作確認をしてみたが、問題無く動くようだ。
だとしても何故ここに。それに何故動くのだろうと疑問が絶えない。
「あとここにはね」
ザァッ、と足下で何かが動いた気がした。
慌てて光りを足下に向けると黒い何かが蠢いている。