勇者のしるし
「はいどーも勇者でーす」
「はいどーも、僕っ娘でーすよろしくおねがいしまーす」
「コンビ名は事情があって言えないんですが」
「自分がハーレムとか嫌がっとるだけやん」
「そこはええねんお前が言うなや」
「ホンマのことやし」
「勇者と僕っ娘でええやん」
「自分な、いい加減にしとき。お客さんはコンビ、ハーレム狙いな召喚勇者と魔族な僕っ娘王女様を見にきとんねん。要素抜け落ちすぎやろ」
「ええやんけ要らん要素は落としとけ落としとけ」
「いらんことあるか僕が王女で僕っ娘で自分の正妻っつのは大事な要素やで」
「さらに要らん要素を増やすなよ」
「いらんことないやろ、話題性もあるし」
「話題も人気も別にええねん俺は」
「そんな事言うて、この間サイン欲しい言われて喜んどったやんか」
「言うなや!」
「近所のおっさん相手にテレテレやったやん自分!」
「ええやんけそれは」
「テッレテレでな」
「うるさいな。まあな、まだまだな若手やけどな」
「うん」
「こうなんていうか、ご近所さんとかでもな」
「なんや」
「名前とか呼んで貰ったりサインとかな、あると嬉しいよな」
「ええことやな」
「街中でも、勇者ってたまに言われてな、嬉しいやら恥ずかしやらでね」
「ちょっとは名前売れてきたってことやで」
「俺はな。お前はまあ、昔から王女様やからそういうの無いか?」
「いやあるで」
「あんの?」
「最近は会う人会う人にな」
「ふんふん」
「ご結婚おめでとうございますて言われるわ」
「やめろ」
「ありがとございます〜いい人見つかってよかったです〜て返してる」
「夫婦漫才なんてただの設定やん。ちゃんと言うとけよ」
「ちゃうよ」
「何がちゃうの?」
「夫婦ちゃうでハーレム漫才や」
「そんなんないわ!」
「そろそろ、第二夫人とかガチで募集しよかな、と思っとんねん」
「ホンマやめて」
「それはまあボチボチ考えるとしてやな」
「考えんでもええよ」
「ハーレムな勇者をな、どやってもっとアピールしよか」
「まだ言うかそれ。コンビ名ホンマにどないかしてほしなあ」
「そしたらハーレムはええわ」
「最初から要らんとこやってんそこは」
「そんでもな、勇者っつうやつの設定をな、そろそろ真面目に考えていかんと」
「設定っつうのもやめろや」
「言い出したんは自分や」
「そやった」
「勇者言うたらアレやろ、ロープレとかファンタジーとか小説サイトにいっぱいおるやんか」
「そやな」
「ちなみに自分、ロープレ派?アールピージー派?」
「いきなり横道それんでええねん。どっちでもええよ」
「自分、あんな感じな勇者の一人なんやろ」
「あんな勇者ってどんなんか知らんけど、設定ではそうやな」
「そしたらな、勇者のしるしっつうか、勇者を証明するもんってないの?」
「俺が聞きたいわ。俺はお前のオトンにボイッて拉致られて、ほら勇者連れてきたで、てお前の目の前に放り出されただけや。なんもしらんよ」
「自分勇者のくせに知らんの?」
「俺、正式には多分誘拐された予備校生やぞ」
「不憫やな」
「なら帰してくれよ」
「そこは諦めときいや。そんで証明するもんを考えてん」
「予備校の学生証ならまだ持ってんで」
「そんなん意味ないわ。勇者の証明や」
「言われてもなあ、知らんもんなあ」
「だいたいは剣やろ。つるぎ。聖剣エクスカリバーとかアンデュリルとか、勇者の剣とかはかいのつるぎとかトカレフとか」
「後ろの方違くない?」
「それくらいで丁度ええんとちゃう?」
「よくないわ。なんやトカレフって拳銃やないかい」
「拳銃持ってる勇者とか新しいやんか」
「密輸拳銃持ってる人は勇者ちゃうねん」
「そんでもな、そういうの持ってないなら用意しよと思ってな」
「要らん要らん。舞台にそんなん抱えて出たら怖い」
「街中で捕まるくらいのをな」
「なんなん俺をどうしたいん?」
「勇者としての箔つけとか、自称勇者な予備校生って可哀想やから、とか」
「自称してへんから。お前らが勝手に言い出したんやで」
「あ、そーいう体?俺は言うてへん周りが自然と呼び出しただけみたいな、なんか勇者っぽい感じ?」
「こじつけんでええねん」
「そんな自称勇者な自分にな、なんか素敵な剣を用意したろっちゅう話や!」
「剣なんは決定済なんか?」
「どんなんがええ?」
「決定済みなん?」
「そやで」
「漫才師なんやからハリセンとかでええやろ?」
「あかんやん。ハリセン持ってる勇者なんかおらんし」
「なんか見た気がすんねんけどなあ」
「おらんて。何かもっと勇者っぽい奴を考えて自分」
「要らんもんを考えるの、難しいぞ」
「自分はどんなんが好き?」
「好きとか無いし。そっちで考えてくれればええよ」
「そしたら、なんかキラキラしたんがええな」
「どんなんや」
「星降りの剣とか」
「おお、なんかファンタジーっぽいな」
「振ると星が降ってくる的な」
「流れ星?」
「巨大隕石」
「俺も死ぬやんけ!」
「別名が恐竜絶滅の剣とかな」
「絶滅してもうてるやんけ、そんなん勇者が持つ剣と違う」
「ダメなん?」
「振るだけで文明崩壊するわ!アカン!」
「そしたら暗闇を穿つ剣とか」
「中二っぽくてええけど、なんか怪しいな」
「振ると」
「うん」
「ブラックホールが発生して」
「やっぱか!絶対だめや絶滅どころちゃうやん!」
「なんでダメなん」
「わかるやろ!剣振ったら宇宙規模でおかしくなるやろ」
「勇者パワー凄いやん」
「凄すぎんねん。隕石どころの話ちゃうやんもっとダメやろ」
「えー恰好ええと思うけどな僕は」
「人類いなくなって平和とかそういう勇者は嫌やねん」
「そしたら、地震の剣とか火山の剣くらいならええか?」
「ダメに決まっとるやんか!剣、剣や!ちゃんと切れればええねん」
「包丁みたいな事いわんでも」
「言ってまえば包丁やぞ」
「ひかりのつるぎとかビームだすやん包丁ちゃうやん」
「ビームだす時点で剣ちゃうねん!ビーム砲や!ロボットアニメや!」
「なんや知らんけど、そしたら斬れる、つうポイントがあんねやな自分には」
「そやで」
「変なこだわりやなあ自分」
「めっちゃ常識的ですよ?」
「なら、何でも斬れます!つうのがええんとちゃう?」
「んーなんか、いっぱいあるやん、そんなん」
「アレ、気になんねんけどな」
「何が」
「なんで蒟蒻は切られへんの?」
「いきなり、斬鉄剣に限定した話んなっとるね」
「ルパン三世のなんかこじらせ和風男子の方が持ってる奴ですよ」
「言い方が酷い」
「そこはええやん僕に免じて許したって?」
「あとで謝っとけよ」
「わかったわ。そんでな、弱点あるっつうのは面白いけど」
「物語的にもな」
「そんなん、蒟蒻でできた鎧まとったら終わりやね」
「ヌルヌルやし絵的にヤバいわ」
「絶対切られへんよ」
「斬鉄剣しか防がれへんやんけ」
「勇者の聖剣を防ぐって凄ないか?」
「アレが勇者の剣やったらな」
「パパがヌッルヌルの蒟蒻の鎧つけるんはちょっと見たいわ」
「見栄が悪い、何度も言うけど絵的にヤバい」
「そこはな、カラフルな蒟蒻を用意してやな」
「色ついてヌルヌルした蒟蒻は置いとけ!掘り下げんな!」
「けどあれやで、何でも斬れる剣やで。勇者が持つにふさわしくない?」
「切れすぎる包丁ってあんまよくないって言うやんか」
「なんで、なんでもかんでも包丁で例えるの!」
「切る道具の話をしとるからや!普通やわ!」
「よー斬れるほうがええに決まってるやん」
「そうなんかなあ」
「あーなんかヒモが絡まって面倒いわあ、もう切ってしまお、あれ、切れへんこの包丁切られへん困ったわー、てなったら嫌やろ」
「ヒモを切るときは、はさみをつかえ!」
「カッターでええやん」
「違う包丁使わんでええっちゅう話しとんねんハサミかカッターかはこだわって無いねんそういう話するからどんどん話横道それてくんや気付け」
「けど、よー切れる方がやっぱ使い勝手ええやろ。斬鉄剣ええで」
「なんで斬鉄剣推しやねん。なんでも切れるとか、他にもぎょーさんあるで」
「どっからでも切れるとかな」
「あの醤油とかわさびとか入ってる小袋のな、あれマジックカット言うてな」
「あーちっちゃく名前入ってるなアレ」
「登録商標なんやで?っておい何の話しとんねん」
「マジックカットが使い良いなって」
「違う」
「え、そしたらわからんわ」
「お前がボケる前に何を話しとった?」
「え、こじらせ和風男子の人が、あの女の人に惚れてるかの話やったっけ」
「ルパン三世のストーリーまとめ、ですらないなそれ!」
「斬鉄剣は関わってるんと違うか!」
「覚えてるやんけ!そうや俺がどんな斬鉄剣持たせても勇者に見えるんかっつう話や、ちなみに俺は誘拐された予備校生であって、勇者ではない!」
「つう設定でな」
「設定ちがう!」
「設定やろ。もう自分が勇者でも予備校生でもどっちでもええねん」
「ええことあるか予備校生がそんな何でも切れる刀なんか持ち歩いてたら捕まんねんぞ!」
「いやいや、さっき言うたやん。別に勇者でも捕まるよ」
「なお悪いわ!なんで俺にそんな危険物用意しよとすんねん!」
「見栄が悪いやん。自分顔ぶっさいくやねんから」
「そのディス要らん」
「せめて勇者っぽい武器をな手に入れればな」
「勇者とちゃうし俺」
「ぶっさいくな顔でも勇者っぽく見えるやん」
「なんや俺のためっぽく言うのやめえや」
「そしたらな、隣の僕が、より映えるやろ。めでたしや」
「お前のためか!」
「そやで」
「お前のために勇者やっとるわけとちゃうぞ」
「え、違うん?」
「あ違うわ勇者ちゃうねん俺、そやから剣なんか要らんねん!」
「えー恰好ええ剣、欲しくない?」
「要らんってさっきから言うてるやん」
「武器も無しでどうやって勇者やんねん」
「そもそもな、勇者とか抜きでな、そんな剣とか刀使われんし」
「なんで」
「剣道とかやったことないし。そんなん貰ても足とか手とか斬ってまいそうや」
「そこは魔法で治せるから。好きに怪我してええから」
「怪我したくないの俺は」
「怪我して治すの普通にあるやん。手とか足とか首とか皆ふっつうに魔法で治してるよ?」
「まて怪しい単語あるなそれ。首ってなんや」
「そら戦ってな、首ポーンとんでな、すぐ魔法かけてな、くっつけて治すんよ」
「死ぬやろそれ?」
「死なんよそれくらいで、そんなんで死んだら戦でみんな死ぬやん」
「いや、普通死ぬやん」
「死なん死なん。死ぬようなんは戦にはまだ早い」
「なんかえらいところで常識が覆ったわ」
「魔界の常識やで」
「ビックリやわ」
「それくらいちゃうかったら、そんな危ない武器とか持って戦われへん」
「つうか魔法で治せるんやったら、結局武器意味ないのんとちがうか」
「そやで、斬った魔法で治った、斬った魔法で治った、が延々と続く」
「怖いやろそれ」
「最終的に剣とか折れてまうからな」
「いつまでやっとんねん」
「最後は全員で殴り合いんなんねん」
「最初から殴り合えばええんちゃいますかね!」
「そんなことないよ」
「なんで」
「見栄えの問題や」
「またか」
「なんか恰好いい剣もってたら、あー勇者っぽいなあ、てなるやん」
「もうコスプレやんそれ」
「みんな、おーお前えっらい武器もってんなあ、いけてるなあ、て、テンションあがるからな」
「ほんまに見栄えの話なんかコレもしかして」
「そやで、きっらきらにデコるとかな」
「コスプレやん、勇者ちゃうやん」
「いやいや、勇者っぽくデコんねん」
「どんなんが勇者っぽいの」
「そやなあ、とにかくキラッキラに光ってるのがええな」
「目立つ的な?」
「カラフルでな、夜綺麗でな」
「夜の明かり代わりになるのは実用的かもな」
「そやで、それでそれ目当てに街中の恋人たちが寄ってくんねん」
「それイルミネーションちゃうの!」
「年末限定のあれな、僕自分と一緒に行ってみたいねん」
「何を怖いこと言うとんねん、違うやろ剣の話やろ」
「ちゃうで、もうこの際剣どうでもええからイルミネーションがええな」
「今までの流れ、どこいってん!」
「けどそっちのが、僕がもっと映えそうな気いするんよ」
「お前の我侭ぶりが怖いわ」
「僕が映えたら、自分も嬉しいやん?」
「そのために、俺イルミネーションを始終持ち歩く変な人んなるわけ?」
「ちゃうで、最近のは白熱電球ちゃうくて全部エルイーディーっつう奴で熱ないから、自分の体に巻きつけても大丈夫やと思うで」
「ああ俺がイルミネーションになるっちゅう話なんやな〜何か凄いなお前」
「え、嬉し。ありがと」
「褒めてない」
「こんな斬新な勇者のアイデア、僕以外に思いつく人おらんで」
「全身イルミネーション人間なんつうネタ思いつく人はよーおらんよ」
「え、僕が映えるやん。最終的には自分も嬉しいやろ?」
「お前が映えてる横で俺がなんやクスクスゲラゲラ笑われんねんぞ!」
「それくらいしてくれてもええやん!正妻やぞ僕は」
「夫をイルミネーションにしてまで映えを追求する女って怖くないか?」
「それくらい大事なとこやねん」
「どこが大事なとこやねん」
「想像してみ?夜の広場で、キッラキラに輝く自分に照らされて、真っ白なドレス着てる僕が映えてるとこ。綺麗やん」
「お前がポーズとってる脇で俺が万歳ポーズで、ピッカピカに輝いてるんやぞ」
「影とかつくらんよう、怖くならんように高いとこからやで」
「注文多すぎやねん。そんでなんで他の恋人たちまで寄っくんねん。何で俺万歳ポーズで全身にイルミネーション巻かれ倒されなあかんねん!あ、違います僕季節限定ちゃいますよ毎日やってますはい、明日もくるんで、ええお友達にもぜひ紹介してくださいね〜、いや熱ないんですよこれエルイーディーちゅう奴ですから。そうなんですよカラーリングもこだわっててね。歩けるからどこでもイルミネーションでね、ほら隣の妻がよー映えるでしょ?そうなんですよ妻の我侭にも困ったもんですわ。けどね、それに応えるのが夫冥利につきるっつうかね、はいおかげさまでありがとうございます、あ、いいですよ恋人さんですか、いいですねえ、ポーズどうしましょうか?ってこらあ!」
「何一人で楽しそうにしてんの自分」
「ちゃうわ!想像してん!俺めちゃくちゃ働かされてるやん!」
「楽しそうでええな〜」
「楽しくないぞぜんぜん楽しないからなこれ。俺あれやん、イルミネーションの人って呼ばれるようなってまうやん」
「よかったな話題性抜群やぞ。サインくださいってもっと沢山くんで」
「イルミネーション芸人としてな」
「ええやん、勇者嫌なんやろ」
「そやねんけど、そやねんけどさあ」
「まあ、自分は勇者でいてもらわんと困るけどな」
「え、どういうこと?」
「イルミネーションがな」
「勇者とイルミネーション関係無いと思うんやけど」
「もしかしたらイルミネーションが絡まってまうかもしれんからな」
「あーわかったぞ」
「なに」
「あれやろ、そん時は斬鉄剣でスパッとケーブル切らなあかんねや!」
「そやで!よーわかったな自分!勇者の剣役に立つぞ!」
「カッター使えや!いやお前がカッターとか怖いからやっぱハサミでええわ!」
「ケーブル切るときはニッパーとかのがええで」
「斬鉄剣薦めてきた奴が何を言うとんねん、もうええわ!」
「どうもありがとやっした〜」