コンビでゾンビ
俺、お前って言う方が男で自分、僕って言う方が女。
「はいはいどうもどうも」
「はい、どうも本日は初めてやらせていただくわけで、本当に緊張しとります」
「僕らコンビ組んでまだ数日やからね。いきなりデビューってね」
「そうなんです、正確にいうと一昨日ですよ。俺が召喚っつか誘拐されたんが」
「誘拐て」
「あんなん誘拐やろ」
「何でそんなこと言うの」
「そらお前、普通に俺が予備校帰りで、お前のお父さんがいきなり、黒塗りで」
「黒塗りて」
「そうや衣装真っ黒やったやんけ」
「恰好ええやん」
「なにが?そんでいっきなりばーって俺を拉致ってな」
「そんな無理やりやったっけ?」
「ここまで運んできて、よっしゃ召喚でけたわーって放り出すとか」
「コンビ結成秘話って奴やね」
「ちゃうわ!誘拐や!」
「確かにオトンが直接、攫っとるからな」
「そんでお前とコンビくめやーって!全身黒塗りで怖そな、お前のオトンが言うの脅迫やん!俺被害者!」
「オトンをヤクザみたく言うな!人を黒塗り扱いすな!」
「ホンマに黒かってんて全身!」
「黒塗りはセダンだけにせい」
「んー、どや顔しとるとこ悪いけど、そのネタ万人受けすると思う?」
「ほっとんどの人が意味わからんと思う」
「わかってんなら止めて。見てみお客さんポッカーンしてるぞ、どーすんのお前」
「すいませんこれ僕のせいちゃうんですよ」
「お前のせいやろ」
「異世界ジョークなんです」
「ちゃうやん、単にオモロないだけやん」
「このネタ考えたの自分やんか、それを人に言わせて」
「止めろ、まるで俺が面白くないみたく言うな」
「面白ないやん」
「泣くぞ!笑いとろうと頑張ってんねん」
「もっとガンバらなアカンよ」
「がんばっとんねん!見たらわかるやろ!」
「え、わからん」
「わかって?コンビ歴二日やし難しかもしれんけどわかって?」
「なんかブルブルふるえてるだけやん」
「緊張しとんねん初舞台やし」
「そんな緊張してたら面白くなるもんもならんよ」
「これは自分でなんとも出来へん」
「あんな、人の顔をな、人やと思わんかったらええよ」
「あー、よくジャガイモと思えとか言うな」
「んーそれ僕が聞いてるんと違うな」
「お前は何に見立てるの?」
「僕がよー聞くのはな、ゾンビ」
「ゾンビ!」
「そやで、手え伸ばして、うあうあー言うて人を襲う奴」
「お客さんに失礼すぎやろ!」
「舞台の前のこれは、みーんな、ゾンビ」
「こわ!ホラーのラストやん死ぬやんけ!」
「受けてへん時ってな、お客さん無表情で、ゾンビっぽく見えるらしいで」
「そら、どっちも怖いとこは同じやけど!」
「そん時にな、これはウケてへんのとちゃう、客がゾンビなだけや、て思えばな、あ〜仕方ないゾンビやしって思えるやん」
「ウケてへん事実は消えんけどな」
「そんなん、ゾンビにウケたら勲章もんやん」
「ゾンビちゃうから、お客さんやから」
「あれやで、僕らはもういきなりデビューやけど普通は、皆ゾンビの前で練習するらしいで」
「マジか!」
「ウケてない舞台に立つ練習とか大事やん」
「ゾンビの前で漫才とか怖いの質が違うやん」
「ゾンビで練習したら、本番で大概ウケんくても全然気にならんよになるよ」
「メンタル鍛えすぎやろ!」
「メンタルだけちゃうで」
「え?」
「あいつら、寄って噛みついてきよんねんで」
「そらゾンビやからな!」
「そや、出待ちの子を避ける訓練にもなんねんで」
「人気出るかもわからんのに、そんな訓練せんでええねん!」
「一回でも噛まれたらゾンビんなるから、一生練習スペースで飼い殺しや」
「ノーミスクリア前提の訓練は嫌!すごい嫌!」
「ミスしても、食いっぱぐれないからええやん」
「ゾンビの食いっぱぐれってなんやねんオカシイやろ」
「ゾンビの一生にも食いついて?」
「食いつかん!ゾンビなりたないし!そんな練習パス!」
「そやけど、それくらいせな緊張するやん舞台って」
「そこまでのことせなアカンねやったら、誰も漫才したくならんと思うけどな」
「そやねん。そやから相方に自分選ぶしかなかってん」
「諦めとけや!俺そんなんで誘拐されたん!?」
「そやで、もう面白いとか面白ないとか関係なくてな」
「そこはきにせえよ!俺が受けへんディスにつなげんなや!」
「え、自分ホンマにウケる思ってんの?」
「なんのために舞台出てるんかな俺!?」
「コンビで漫才するために決まってるやん」
「そや!いきなりコンビ組めって拉致られて、真面目にウケ狙っとんねん!ディスる暇あったら褒めてほしいんですけど!」
「えらいエラい、えらいで自分」
「言い方腹立つわ〜」
「ええやん。そういうわけでね、僕ら、ハーレム狙いな召喚勇者と魔族で僕っ娘王女様っつうコンビでやら」
「待って。俺らいつ、そんなラノベ大好き異世界コンビになってんねん」
「やらしていただいてるんですけど」
「無視すんなや!いつ、どうして、だれがそんなケッタイなコンビにしてん」
「コンビくんだんは一昨日やろ」
「それはしっとんねん。ケッタイなお名前の方!」
「ええ?僕、王女やって知ってるやん自分」
「知らん!お前王女なんかい、はじめて聞いたわ」
「そうやで〜、オトンは魔王やってんねんで」
「いや、そこ掘り下げる気ないって、アレお前のオトン魔王なん!?」
「そやで」
「なんで俺そんな魔王とかエラいもんに誘拐されなアカンの」
「そら僕が漫才したかったからやな」
「マジか!ゾンビの訓練とかあんねんぞ!」
「それは王女権限でパスできるし」
「酷いな」
「別に僕王女やから、人前立つのなれてるもん」
「それを先に言えっちゅうねん」
「とはいえな、魔王の娘の前に、勇者なんてポーンて放り出されてもな」
「まず俺を誘拐するとこからツッコんでくれんかな?」
「それはしゃあないやん。けど勇者はちょっと」
「なんやなんぞあるんか」
「言うても敵やん。オトンのタマ狙うワレしばいたろってなるやん」
「なんでそんなん選んどんねん」
「まあ最悪、勇者がゾンビなるんやったらええかって、ギリギリ許したってん」
「それで皆ニッコニコやったんやな!酷いな!」
「酷ないよ」
「酷いからな、それにここ大事なとこやねんけどな」
「なん?」
「俺、ハーレムなんて狙ってないし、勇者ちゃうからな」
「え、自分って勇者やん?」
「どこがやねん。普通の男の子、予備校生って言うたやん俺」
「あんな腐った豆食べるとか勇者かゾンビやん」
「納豆な!普通の食べ物!腐ってるつながりでゾンビぶり返さんでええよ!」
「ナトー?」
「わかるやろお前が振ったんやないか!」
「わかるかいな僕そっちの世界しらんもん」
「なんでやねん!あ、そういう設定?」
「設定ちゃうし。ホンマやって。僕王女なんよ本当に」
「そこはもうええっちゅうねん。それでええよ。お前、実は王女やねんな」
「んー、なんか助けた美少女が実は王女様でした〜、みたいな台詞吐いてるで、それ勇者やん」
「ちゃうわ!」
「僕ハーレム一号やん」
「それもちがう!お前の設定が王女やねんな、て言うてるだけ!」
「設定ちゃうわ。そしたらその自分が持ってた、あの光るペンライトなんやねん。聖剣やろ」
「そんなん持ってへん!なんでペンライトやねん」
「大方誰にも相手されてへん地下アイドルの路上ライブで、一人ペンライト振ろうと思てたんやろ。めっちゃ勇者やん自分」
「違うし、せやから俺ペンライトもってへん!」
「あ、そのアイドルが一号で、僕は二号なんかな、ハーレム?」
「ちーがーうー!もうハーレム勇者て言いたいだけやん。腹立つなあ。違うって言うてんのに」
「僕、王女って言われても全然気にならへんよ」
「そらそやろ、そんな細っい身でくるよ師匠みたいなフリフリドレス着倒したらホンマに王女っぽく見えるわ」
「え、ありがと」
「ほめてない!王女っぽいは悪口にならんけどハーレム狙ってるのは悪口やん」
「あのな、ぽいちゃうくて王女やから。オトンは魔王」
「そんな王女がなんでコンビ組んでんねん。しかも勇者と。いや俺勇者ちゃうけど。そこは敵やろ普通に争っとけよ。ええぞ、俺はもうお前とガッチガチのしばきあいしてもええぞ!やったろか!」
「男女関係なく切れるて、自分、本当に勇者やなあ」
「それは勇者とは言わんから!」
「あ、それ戦って勝ったら俺のハーレム入りってやつなん?」
「違う!誰やねん俺そんないやらしくない」
「え、でもハーレム狙ってる勇者なんやろ自分?」
「ハーレムなんて求めてへんっちゅうねん。草食やぞ俺は」
「そんな難しい言葉しらん」
「難しくない!草食!がっつかない系!」
「あー、隠れて好きな子のリコーダー舐める?」
「それはアカン。それヤバい奴」
「女子トイレに隠れて」
「完全に捕まる。犯罪者やん」
「好きな子きたらガーッて襲いかかって」
「絶対しない!」
「腕とか首噛みつくんやろ」
「ゾンビー!」
「え自分ゾンビなん?」
「なんでゾンビに戻んねん!どこみたら俺がゾンビに見える?」
「ゾンビそっくりとかヤバい奴なん?それ困るな」
「ヤバくない!俺は好きな子に好きって言えないまま黙って十年こじらせるとか、その手のおとなしい系!」
「へったれやな、自分」
「やめろ。死ぬぞ」
「ゾンビはもう死んでるけどな」
「なんでゾンビにしたがるかな俺を!」
「そやな、ゾンビちゃうしな」
「そやで俺は」
「ハーレム勇者なんやからもっと自信持ちや」
「ハーレムちゃうねん。似合わへんやろ」
「そのへたれ具合、どっちかでいうと愚者やけどな」
「お前本当にドツクぞ何やねんいきなり拉致ってコンビやー言うて勢い舞台にたたせて人の欠点自覚させてからのディスりとか何やねん、どこが漫才やねん単なる俺の公開処刑やんけ、どつき回すぞ」
「こわ!自分怖いわ」
「何が」
「魔王の娘である僕に平気で毒づくん怖いわ。勇者か」
「ちがう!」
「それでもこやって昨日一日で台本書いて舞台たつとか勇者やなあ自分」
「やめろええねん!まるで俺がメッチャやる気だしてる感じになるやないか」
「そんな事言うても、自分コンビくんで漫才やるてなった時な」
「突然拉致られた一昨日の話やな」
「そんな、俺、一日で漫才の台本なんかよー書かれんですよ〜ってニヤニヤしてペン持ち出してたやん」
「そんな嫌らしい顔では言うてない!」
「そんで光らせて、あこれペンちゃうわ、ペンライトやったわーて」
「そんなキショいボケもしてへん!」
「魔王の前でそんなグズったボケ、勇者やん」
「言ってへん!」
「言うてたって。僕見てたもん。そんでニホンゴでしか書かれへん、オタクらの字書かれへんて困ってな」
「それも言うてない!大体異世界って自動で喋れるようなってんねやろ?」
「そやね。言葉わからんと漫才できんからね」
「そんなん俺もっと早くに欲しかったわ。英語とか全然わからんかったし」
「そっちも言葉って色々あるんやな」
「そやねん。特に俺受験生でな、英語苦手やってん」
「なんで英語以外ならいけてた、みたいな嘘つくの?」
「嘘ちゃうわ!英語だけや!あれな、ヒアリング出来なあかんくてな、耳てどうやったら鍛えられるんかわからんかってん」
「それは、やっぱ耳の穴かっぽじってガンガン聞いていくしかないんやろ」
「なんでそんな言葉遣いしっとんねん王女のくせに」
「そこはええやん。そんでまあ会話出来たし大丈夫やろうって勢いで書きだすとか、自分は勇者やなあ」
「ちゃうわ。まあとりあえず出来ることやろかってなっただけや」
「めっちゃ気合はいってたやん」
「そらそやわ。ザイマンのネタとか書くの始めてや、俺」
「エラい芸人っぽくしゃべるよな自分。僕と最初におうた時、標準語喋っててなかった?」
「それも今はええねん!漫才言うたら関西弁やねん!」
「カーンサイ・ベンヤネンて誰?お友達?」
「そこはわからんのかい!設定がぐっじゃぐじゃ!」
「設定いいなや、そんで僕びっくりしたんよ」
「なにがや」
「魔獣ミッミズーンがのたくったような文字書いてたやん」
「ああもうええわミミズでもミッミズーンでも」
「一切読まれへんくてな」
「俺は、一生懸命書いてただけや」
「アレ凄いな。異世界の言葉は勝手にわかるけど、文字の下手さも伝わるんやね。ちゃんと僕がわかる文字に翻訳されてるはずなのに、自分の字が下手過ぎてやっぱ読まれへんて、どんだけ字下手やねん。一日かけた台本読まれへんくて無駄やし」
「うるさいわ!字が下手なんは仕方ないやろ!」
「そんな字が下手やから受験落ちたんちゃうの?」
「めっちゃ泣くぞ」
「そんなゾンビが頑張って書いたみたいな文字でね」
「どこまでもゾンビ」
「読まれへんてなって、それでも書き終わったところは流石勇者やな」
「勇者関係なくないか?」
「そんで結局僕が清書するハメんなってな」
「あ〜、ありがとうな。お前が書いたら俺にも読めるって謎やけどな」
「そら僕、王女だけあって字綺麗やし」
「自分で言うのが腹立たしいわ」
「そんで昨日の夕方から徹夜でさっきまで練習してな」
「そんな頑張ってるアピールせんでええやん」
「今朝とかな、僕がどうしても覚えられへんくて、辛くて泣いてもうた時にな、頭撫でてガンバろって言うてくれてな」
「やめろやめろそれやめろ」
「そんなね、魔王の娘である僕の頭平気で撫でてくれてね」
「やめろマジでさむいわ」
「疲れ切った僕が仮眠とっても、自分ずっと練習続けててな」
「なんや褒め殺しなんかこれ」
「お囃子の前も、大丈夫、出来る!俺らなら!とか言うて手をギュッと握ってくれてね」
「恥ずかしいのはええけど、王女様にそれってガチでヤバい事してるやん俺」
「失敗しても俺のせいやから、とか自分かっこいいこと言うてはりましたな」
「それはちょっと普通にはずい」
「勇者やんな」
「お前結局それ言いたいだけやな!半笑いやし!」
「それか、徹夜続きでもまだ元気過ぎやし」
「どういうことかなー?」
「ゾンビなんかな」
「ゾンビ言いたいだけやな!」
「ならなんやねん!」
「予備校生やって始めに言うてるやろ!」
「予備校生が僕と漫才できるわけないやん!」
「よーわかってるやん!無理してんねん俺は!」
「ん?それやったら、僕にはいっぱい甘えてええんやで?」
「お前はいきなり何を言うの?」
「ハーレムの第一夫人ってそんなんやろ」
「せやから、半笑いで言うのやめろ」
「ハーレム勇者って結局皆に甘やかされたい甘えんぼって奴やん」
「俺ハーレム狙ってないって言うたよな!」
「勇者が無理してる時に、甘える相手はやっぱ第一夫人たる僕やん?」
「いつのまにお前第一夫人になってんねん」
「そらコンビ組んでるからな」
「ビックリなんやけど」
「知らんかった?」
「そういう大事なことは言っとけや!」
「言わんでもわかるっつうのが夫婦ちゃうの」
「せやからいつ夫婦になってんねんコンビだけでもビックリしてんのに!」
「そんなんも知らんとよー舞台立ててるな自分」
「俺が悪いみたく言うなや」
「ほな、今言って貰おか?」
「え?」
「今、ここで言うて?」
「なんで俺が何を言う流れんなってんの?」
「わかるやろ?言うて?」
「えー」
「ほら、はよ言うて」
「んー、こんな舞台で言う台詞ちゃうけどな」
「うん」
「そのドレス似合ってる、と思うで?」
「へたれ!」
「なんで!」
「ゾンビ!」
「ゾンビ関係ない!」
「そこはな、愛してるとか言いながらそっと僕の顎をつまんでな」
「はずいやろ」
「がぶーって!」
「またゾンビか!」
「ゾンビやったら噛みつくやろ!こう!」
「ちゃうわコラ噛むな!お前がゾンビやないか!」
「僕は王女や!」
「俺もゾンビちゃうわ勇者や!」
「そやで僕の自慢の旦那やで」
「違う旦那ちゃう!勇者ちゃう!ゾンビでもない!ああもうわけわからん!もうええわ!」
「どうもありやとっした〜」