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第1話 私が前世を思い出したから

「エンディス・キャトルフィーユ!貴殿は、オレイヌ・ダットン男爵令嬢に聞くも堪えない暴言、ご令嬢が耐えられない嫌がらせに取り巻きを使って行ったイジメ、その上、オレイヌ嬢の純潔をならず者達へ散らす様にと、裏で依頼していた証拠も掴んだ!

 この国の国母となるには相応しくない!!エンディス!貴様の家、公爵家をも取り潰してくれようぞ!!」


 王族と我が家の家族だけで開かれる茶会の席に、第一殿下のレオ王子が、王子(じぶん)の側近候補3人とダットン男爵令嬢を引き連れて、大幅な遅刻をしながらも入室して来ました。


 レオ・ロンデリン様の心からの叫びに、王家の皆様も、私の家族も、ただただ驚くばかりでしたわ。


 いち早く正気に戻った陛下の機転で、レオ様とその側近候補3人と、ダットン男爵令嬢は、近衛騎士達により、この私的な茶会が行われている部屋で速やかに拘束され、引き立てられて出ていきました。


 その4人の行く先は貴族専用の牢獄、略して貴族牢ですわ。


 私と我が家への冤罪のシナリオへの打ち合わせが仲間内で出来ないように、各々(おのおの)を引き離して入れるように。との陛下の厳命で、4人を拘束するように近衛騎士達は動いたのですから。


 陛下も、「そんな事実があれば、この場で王家と公爵家がのんびりと茶会なぞ、のうのうと開いている訳はないであろうに。あれは一体、何の幻を見ていたのだろうか。


 後継ぎだと思っていた第一王子がこれでは、頭が痛くて(かな)わない。


 キャトルフィーユ公爵家を取り潰すような馬鹿な事もしないし、させないので、安心して欲しい。

 それにしても、儂の息子が底抜けの馬鹿で、大変、申し訳なかった。

 王太子へ相応しいと言われていた長男が、たった半年間の間で、あのような腑抜けになるとは、儂も思わなかったのだ。

 その間の事情をよくよく調べ、公爵家の当主と儂との話し合いをしてから、婚約についての今後を伝えようと思っている。

 儂が、エンディス嬢や公爵家の不利になるような事にしないとここで約束しよう。」


 そう言って、婚約者間での家族を含めた茶会は幕を閉じたのでしたわ。


 昨日まで、私が滞在していた、王城の第一殿下の婚約者に与えられていた部屋から、取りあえず、大事な物や、すぐ使いそうな物だけの最低限、必要な持ち物だけを持って王城から出ましたの。


 家族と一緒に公爵家へ帰る馬車の中で、私への慰めを言う家族に気を遣う余裕もなく、やっぱりこうなってしまったのだと、(うれ)いていた私は、どっぷりと自分の考えの中にいました。


 私は婚約破棄されるような、イジメや蔭口を言ってもいないし、取り巻きと言われるご令嬢を使った事もないのです。


 それに、婚約した時点で、私の事を監視するように人を付けてもらえていたし、観察日誌も付けていてもらえていたのですから。


 それに、王家に嫁ぐ身の予定であった私には、陰ながら私の身を守るようにと、陛下からの王命での護衛が四六時中付いていました。それも、私には護衛が誰かと分からないようにしていたので、そちらの方からも私が何もしていないのだとの証人になりますので、私の身にもアリバイにもどこにも非はなく、真っ白けっけですわ。


 少しはレオ王子から好かれていたのでは…と思っていた私でも、第一殿下のレオ・ロンデリン様からの婚約無効でなく、婚約破棄をされたのだと、これは乙女ゲームが私の現実になったのだと、そう思った自分の不甲斐なさを噛みしめました。


 それとも、乙女ゲームの強制力がこの世界へ働いていたのですか。とも思っていました。


 だって、レオ様と私が婚約をした時は、こうではなかったんですもの。


 その時を思い出してみましたけれど、こちらの落ち度になるようなことは無かったし、特段に何かを思い当たる事は無かったような気がするんですけれど…。


 そもそも、私が前世の乙女ゲームの登場人物だった事を思い出したのは、この国の王の子供で、第一殿下との婚約をする為、第一殿下の10歳の誕生日を終えた、王家の私的な部屋へ家族ごと呼ばれた時だったのですわ。


 その時、私は8歳で、何故、帰るはずだった私達が王族へ、それも陛下の名で私的な場へと呼ばれたのかが分からなかったのだから。


 それが、父と陛下が何事かを妻達へ説明して、私とレオ殿下へこの紙へ署名するようにと出された紙が婚約契約書でした。

 それが自分の婚約契約書だと理解した途端、前世で知り合いから聞きかじっていた、乙女ゲームの断片的な内容が、凄い勢いで頭の中に一気に流れ込んで来たのです。


 私が、その一気に流れ込んできた記憶の負荷に耐えられず、うずくまったのですわ。


 今まさに、王家や親や家の都合で、当事者の私が婚約する意味を分かってないうちに、うやむやなまま、何の説明もなく、家の便利な駒として、契約させられる寸前だったのだと気付き、凄く焦ったのだから。


 座って婚約書に署名をする寸前に、私の記憶が(よみがえ)ったのはギリギリだったのだろうと、今では冷静にそう思えるのだけれども。


 その時は、何とか痛む頭を押さえながら、「婚約をするなら、幾つかの条件を付けさせて下さい。」と言えたんです。


「8歳になったばかりで、何を言うんだ。黙っていなさい!」

 そう言って父が私をしかりつけて来たけれど、バッドエンドには辿り着きたくないし、冤罪で処刑や国外追放をされれば、ご令嬢なだけの私は、この世界で生きていけなくなるのは、歴然としていたのだから。


 死にたくないので、こうるさい父を言葉で抑えつけました。

「父上の方こそ、黙っていて下さい…!」「何だと!」父の怒鳴り声にも(ひる)まず、話を続けた。


「この契約書についての説明も、当事者の私へ一切なく、家の駒として署名をさせるつもりであったのを、たった今、私は自分で理解いたしました。


 愛してもいない()()()()である私への気遣いなど、一切必要が無かったから、この場へ着くまでも、私に一言もなく連れて来られたのでしょう?」


 顔色を変えた父が言い訳と言う理由を述べるのでさえ、(わずら)わしいと思える程、頭が痛い。


「…そのつもりは…な、「いいえ!私は駒なのですね!家を継げない、ただの女である私は、家にとって余計なものだったのですよね。だから、家を出る前も、ここに来る前も、この事態を私へ一切、知らせる必要がなかったのですね。

 弟のポラディスでしたら、家を継ぐので、また婚約契約書の仕方も私のとは違ったのでしょうけれど。

 弟をこの場へ連れて来なかったのが、どうしてなのかが分かりましたわ!

 この場での事を私に懐く後継ぎである弟へ見せたくなかったのですね。」……ああ、そうだ。」


 頭が痛くて、仕方がないのに!これ以上、(わずら)わせないでよ!!


「でしたら、私への説明が王家からも公爵家からも一言もなかった詫びと、ええと、殿下はこの婚約についての説明が陛下や王妃様から、おありでしたか?」


「ああ。陛下からはあった。貴族のバランスと私の後見に、公爵家との婚約は都合が良かったのだと、言われたな。気に入らなければ、将来、気に入った者を側妃にすればいいと。」


「そうですか。では、私にだけ、一切、何も説明がなかったのですね。」


 陛下と王妃様と今世の両親を見回してから、条件を付けて自分の身を守るわよ!と私は口を開いた。


「私も政略結婚で、将来、死ぬまでの長い時間、親や陛下がいなくなった後にも続く、長ーーーい時間を不誠実な相手との婚姻で、不幸せにはしたくないし、不幸せにはなりたくありません。」

「それは!私が不誠実だと言いたいのか!」馬鹿王子!五月蠅い!黙れ!頭痛に響く!


「いいえ。私が幸せになれるかどうかを私自身が気にして言ったまでですわ。殿下は私が気に入らなければ、陛下の言うように、将来、側妃様を迎えられますし、公務でご一緒する時以外は私を無視出来ますわよね。

 ですが、私には、どんな状況になろうとも生涯、殿下だけなのですわ。ですから、幸せになりたい私の為に、その保証として、私自身が条件を付けたいというだけですの。」


「ううむ。それならば、条件を付けるのも納得出来る。私が他に逃げれるのは、世継ぎが必要だからだが、女性側はそうではなかったと、今、理解した。

 …陛下、彼女の条件を飲んでもいいのではないでしょうか?」


 陛下は眉間にしわを寄せ、「条件次第だ。」と(おっしゃ)いました。


 頭痛が収まらない私は、早くこの場から逃げたくて仕方ないのに!早く決めなくちゃ!帰りたいんだもの!それに、婚約破棄をするんだと分かっている相手と一緒にいる気もないんですけれど!


「条件を申してみよ。」


 側妃が5人もいて、いつも側妃が近くにいてけん制し合っていて、王城に来るだけでも側妃が騒がしいのに、そんな側妃を持つ男として、人としても王子に側妃を迎えるように勧めるぐらい、信用出来ないような陛下が偉そうに…!!って舌打ちをしそうになったのをひたすら耐えた。


 仕方なく、頭の痛みを(こら)えて、自然に無表情になるのをそのままに、3つの条件を述べました。


「1つ目は、私への監視を付けて欲しいのですわ。」

「どうしてなのだ?」


 そんな事を説明するのは面倒だったけど、相手はこの国一番の権力者。仕方ない。


「私を(ねた)む貴族や家を(うらや)む者が、どこにいるのか分かりません。その時に、王家から付けられた者であれば、どこよりも信用されるからです。我が家から選んだり派遣した者では、身内扱いをされて、何かあった時に余計な広がりをしたり、被害が思わぬ所へ広がる恐れがあるからです。

 その際に、観察日誌も書いていただければ、私がどこで何をしていたのかも記録しておけば、後々、それが証拠となりますわ。」


 言い切ったったわ!


「2つ目は?」

「2つ目は、私へ専任の執事を付けて欲しいのですわ。」

「どうしてなのだ?」


 また、ですの?!面倒!そのくらい、分かれよ!頭が痛い!!


「私は公爵家の駒で、両親には愛されていない事が、今日この場で発覚しました。

 その私が、これからわがままを言わないように、私が家の駒として生きていくには、今いる家の者とは交流を少なくした方が、何かあった場合には王家には都合がいいでしょう。


 ですが、私はまだ8歳でございます。

 私専任での世話と勉学をみれる者をまだまだ必要とします。

 家族、いえ、家の者でなく、私を甘えさせる事もないような執事を王家の方で付けていただければ、私が将来、王妃となった場合に助かると思うのですわ。」


「なるほどな。これも王家からとした方がいいのは何故か?」


 私を試していやがりますわね!8歳児に容赦ない!王子だって、まだその理由が答えられないでしょうに!!この狸親父め!!いい加減にしてよ!もうっ!


「ええ。1つ目の条件で述べた通りに、公爵家が選んだり、連れてきた者では駄目なのですわ。」

「そうか。では、3つ目は?」


「3つ目の条件ですが、王家の殿下の婚約者だと知れれば、他家からの悪意や(ねた)(そね)みを王家の代わりに私自身が一斉に受けますわ。


 その際、私の暗殺や純潔を散らそうとしたり、怪我や、病気で死んでしまうように画策する者がいると思います。自身の娘を婚約者もしくは正妃にしようと狙って。

 それらを()退()けられる護衛が欲しいですわ。私、まだ8歳ですの。この年で死にたくないからですわ。

 公爵家の関与は、前2つの条件と一緒で、遠慮したいのですけれど。」


 死ぬためだけに、生まれ変わったんじゃないんだから!!生き延びてやるわ!!その為の条件よ!!


「あい、分かった。儂もエンディス嬢の告げた理由を考えた。それらの条件を付けるのは致し方ないのだと納得出来た。」

「王家と縁組する事で、そんな苦労をするのか。」のほほんとそう言う王子に殺意が湧いた。


 馬鹿か!お前は!お前のせいで、苦労しかしない将来なのに、側妃へ逃げられる王子は、何たる無策で無頓着でしょう…!!


「しますわ。私も陛下と婚姻するまでは、沢山沢山、色々と危ない目に何度も何度も遭いましたわ。未だに暗殺者が来るのは、寝不足になるので、私の美容の敵だと思っていますわ。」


 王妃様が、勝ち誇ったように、扇をバサバサして、強烈な事を言い放ちましたわ!!


「い、未だに、ですか。王妃たる母上に?」


 狼狽(うろた)えたようなレオ王子が王妃様へ返答しましたわ!


「ええ。陛下が無関心で、無頓着だった分、先王様が専任の護衛を付けて下さっていましたが、危険はありましたのよ。

 未だに、その専任護衛が居るので私が無事で生きていられているのですわ。

 …あら?その様子では、陛下は全く気付いていらっしゃらなかったの?」


 …うん、王妃様から冷気が出てます、わ。レオ王子の無頓着さは陛下似でしたのね。


「す、済まない。どこの手の者か調べ「なくてもいいですわ。側妃様のご実家関連からの刺客ですわよ。私に代わって、ご自分達が正妃になりたいからですって。

 姫しか産めていないから、側妃様方が焦っているのですのよ。

 王子が他にも産まれていたら、レオの暗殺もあり得ましたわね。」…し、知らぬ事とはいえ、重ね重ね済まない…。」


 王妃様の方が強いんだ。はぁ、あんなにデカい態度だった陛下が、小さくなっている気がしましたわ。


 王妃様は笑みを深めると、「陛下が新しい側妃を増やす度に、私の所へ来る余計なお客様が朝も昼も夜も増えますの。侍女もメイドも信用出来る者だけを少数精鋭で、(まかな)っていますのよ。


 食事もお茶も、毒見役と銀食器がなければ、私が正妃になってから、何十回も死んでいましたわ。

 もう、側妃を増やさないでいただくか、陛下は私と離縁して、私を自由にしていただきたいですわ。


 ハッキリ言って、閨だって、もう何年も私の所へはありませんし。


 今更、ご機嫌取りで来られても、一切ご遠慮いたしますわ!

 寝室の扉を全く開ける気にも、少しもええ、全くなりませんので。


 これで、息子の婚約が成立したら、私を自由にする契約も息子の婚約契約書へ条件の一つとして盛り込んでいただきたい程ですわ。おほほほほ!」


 ん?私の隣からも冷気が出てる気がする…。あ、頭痛が少しだけマシになったかも。


「いいですわねぇ。私もその線で、王妃様とご一緒したいですわ。


 娘に話したと先程、夫から小声で聞いていたのですが、あり得ない嘘でしたので。


 まさか、自分の娘を愛していない上に、ただの駒扱いをしているのにも気付かなかった私も、母として愚かですが、これ以上、娘に辛い思いをさせるつもりはないですの。


 今日これから家に帰ってから、娘と実家へ帰る算段をいたしますわ!


 申し訳ないですが、婚約は()婚約とさせていただきますわね。


 そうそう、息子にも話をしておかなくては!お姉さま大好きの息子がこの事を聞いたら、私と一緒に実家へ帰ると絶対言ってくれる自信がありますわ。おほほほほほほー!」


 ちらりと父の方を見ると、魂が抜けたような呆けた表情で、微動だにせず、固まっているようでした。


 私が出した条件を王妃様と母が婚約の条件として、無事に仮婚約契約書に追加してくれたのです。


 婚約から「仮婚約」となりました。


 レオ王子に好きな人が出来たら、婚約を無効として取り扱う事も条件に追加されて、私には有利な条件の仮婚約契約書が交わされたのです。

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