3、名前
「…思ったより綺麗、というか物が無い」
俺が善意で入れてやった部屋を、子供はそう評価した。
「…ほっとけ」
そもそも、俺はここにはほとんど帰らない。
昼も夜もまあ…忙しいからな。
子供はツカツカと台所に入ると、勢いよく食糧庫を開けた。
「…わ! 何も入ってないじゃない! 貴方、何を食べてるの!?」
「……霞?」
自炊なんてほとんどしてないしな。
だって、外で食べたほうがうまいだろ?
「ふざけてんじゃないわよ!! 貴方、そのうち倒れるわよ!!」
「大丈夫。 俺は、そんくらいじゃあ倒れねぇ。」
何せ前世では食べ物なんて不要な身体だったし。
今だって、水さえ飲めば2日3日くらいなら余裕だ。
「その油断が命取りなのよ!」
「ガキのくせに口うるせぇ女だな」
「貴方がおかしいのよ!!」
子供は俺に向かって怒鳴ると、肩で息をした。
「ほれほれ、文句があるならさっさと帰れば…」
「ねぇ、貴方って言うの、呼びにくいわ! 名前、何て言うの?」
…ガキは話を聞かねぇな。
「…源氏名じゃ駄目か?」
「? なにそれ」
…そんな綺麗な瞳を向けてくるのは止めろ。
「…忘れろ。……名前はねぇよ。」
「名前が無いわけ無いじゃない! そう言えば、自己紹介の時すら聞いてないわ! さっさと白状なさい!!」
…はーあ。
だからガキは嫌いなんだよ。
「…ねぇモンはねぇんだよ」
俺は少し怒りを滲ませた声を出した。
子供は目を丸くして、ビクリと震えた。
ちっ。
俺は舌打ちをしてから、立ち上がって窓を開ける。
そして懐からライターと煙草を取り出し、火をつけた。
「ふぅ……じゃあ、フェアラートとでも呼べ」
少し冷えた頭で俺はそう告げた。
その名前は、普段の生活で使ってる名前た。
確かに子供の言う通り、人間が名前を持たずに生活をするのは不可能だ。
…俺は、名前を呼ばれると、見えない何かに縛られてる気分になるから好きじゃないが。
俺の言葉を聞いて、言葉はあっという間に調子を取り戻した。
「うん、分かった! ところで、煙草は身体に悪いのよ!!」
「…んなこと、知ってらあ」
…こいつ、意外と演技派なのかもしれねぇ。




