1、ご挨拶
「こんにちは、隣に引っ越して来た者です~」
そう言って子連れの若い女が俺の家に訪ねて来た。
女に連れられて来た子供と目が合い、思わず目を反らした。
…ああいう邪気のない純粋な瞳は、苦手なんだよ。
「つまらないものですが、こちらどうぞ~。さあ、サファリちゃん、ご挨拶して?」
「サファリです!! よろしくお願いします!!」
子供らしい高い声で元気に挨拶された俺は、どうも…、などと呟いて差し出された菓子折りを受け取ることしか出来ない。
くっそう、俺は最近はどうなっても良いような奴としか関わって来なかったから、どうも調子が狂うんだよ。
俺なんて放って置いて、もっと良い人間と話して来いよ!!
俺は心の中でそう悪態をつきつつ、早くお帰り願う為に必死で親子の相手をした。
ところが、俺の内心を知ってか知らずか、無邪気な子供は俺に言う。
「"どうも"は、挨拶じゃないわよー。 貴方、大人のくせに、挨拶も出来ないのー?」
…うるせぇんだよ、ガキが。
「ママ、この人、髪も服もグッチャグチャー」
「まあまあ、そんなことを言っては駄目よ。 ごめんなさいねぇ。」
…いえいえ、全然良いですよ奥さん。
それより、こんな挨拶も出来ない大人なんか放っておいて、このうるさ…元気な子供連れて帰って下さいよ。
だいたい俺は、さっきまで大人の遊びに興じてた訳で。
たった今帰ってきたばかりなのだ。
そう、俺は何よりも早くお帰り頂きたいわけだ。
そこで俺は、適当に評判の良い笑顔を使うことにした。
「構いませんよ。こちらこそ、申し訳ありませんこんな姿で。たった今、仕事から帰ったばかりなもので」
嘘じゃない。
大人の遊びに興じる前は、一応仕事をしていたのだから。
「まあ、こんな朝まで大変ねぇ。お邪魔して申し訳ないわ」
よし。
若干心が痛いが、仕方あるまい。
「では、お暇するわ。サファリちゃん、ご挨拶して?」
「はーい。 またねー。」
こうして親子は去っていった。
はあ、やっと帰ったか。
…うん? ま た ね ー ?




