変わる変わる(かわるがわる)
第7章 変わる変わる(かわるがわる)
1
どのくらいの時間が経ったのだろう
真っ白な世界が広がり続けて
オレは宙に浮いているかのような感覚になっていた
宙に浮かびながらオレはこれまでの事を振り返っていった
オレは何やってたんだろう
トモの手の平で転がされていただけだったんだろうか
トムは無事だろうか
トモのあの言葉通りに町と一緒にリセットされてしまったんだろうか
感情も悲しさと悔しさと入り混じって
モヤモヤと心に鉛が張り付いたような感覚になっていた
トモの裏切りへの悲しみと悔しさ
トムが存在しなくなってしまったかもしれないことに対しての悲しみ
結局は全て利用されていたのかと感じる悔しさ
宙にフワフワ浮かびながら
大声で叫びたい衝動にかられた
ただ、夢の中にいるようで
自分のしたいようには自分を動かすことが出来なかった
これが夢世界ってもんだろうか
フワフワと浮いてる感覚だけなら
気持ち良いベットに横たわっているようで安らかな気持ちになるんだろうが
今はモヤモヤな感情に支配されて
そんなことは思えなかった
しかし、ホントに最近かわるがわるいろんな事が起きたよな…
それからまたしばらくの時間が過ぎ
眠りにつくように
スッと意識が遠のいた
2
〜エピソード ブン〜
オレは会社員の親父、専業主婦のお袋の
2人から生まれた
スクスクと順調に育ち
学校に通うようになり
学校を終了すると
働くようになった
仕事は工場でパソコンのパーツの製造
モニターの検査もしていた
…あの時
モニターのチェックをトモに頼まれて
振り向いたら…。
モニターのチェックをしていたから
というわけでもないんだけど
なんか行動一つ一つに後悔を覚えるな…
後悔と言えば
オレはいじめとか
スジが通ってないことに対して
意見したりしてたな
親父の影響なんだけど
よく白は白、黒は黒って
お袋も
人様に迷惑だけはかけるなって
学校のとき
いじめられてるヤツがいて
我慢出来なくて
つっかかっていったら
いじめてたヤツらとは
元々は遊んだりもしたことあったけど
それ以来、気まずくなったんだよな
言わなきゃ良かったかなって思ったけど
それはそれでモヤモヤが永遠に続くような気がしたし
それだけじゃなく
他にもスジが通ってない事に対して
はっきり言ったら
離れてったヤツもいた
結局、それでも一緒だったのはトムとトモだけだった
そう言った意味では良かったのかもしれない
表面上だけってめんどくさいし
でも、トモに裏切られた
オレの正義感は間違っていたのかな
世界を救うって聞いてから
ヒーロー気取りだったのかもしれない
オレは…
ヒーローになりたかったのか
いやいや
オレは
そんなんじゃない…
いたって普通なんだ
3
「…ン!ブン!聞こえるか!?」
ー誰かの声が聞こえる
起きなきゃ
と思う
重たいまぶたを
ゆっくりと開けると
光が一気に差し込み
目の前には
男が1人立っていた
「…ト…ム…?
トム…
トム…!」
目の前の男がトムと気づくと
ハッと目が冴えた
「トム!
無事だったのか!」
そう叫ぶと
トムが不思議そうな顔で
「無事も何も
研究所の近くで待機してたら
急にあたり一面が真っ白になって
研究所も何も姿を消して
町一面も何もないまっさらになっちまって
そしたら、研究所があったとこにお前が倒れてて…
一体何があったんだ?」
オレはトムに研究所に入ってからの
経緯を話した
トムに話していくうちに
あたまがモヤモヤしていたのが
記憶も鮮明になってきた
経緯を聞くと
トムは神妙な顔になり
「…なるほど
要はトモに一本とられたってことな」
そう言うと
トムは大声で笑った
こういう時
トムには救われる
何事も笑い飛ばしてくれる
自分自身の事もいろいろあって
思うところもいろいろあるだろうに
でも今は
そんなトムの強さに甘えることにした
トムはすぅーっと息を吸い込むと
「さっ!
そう言うことなら
直接トモんとこに行こうぜ!
さっきのブンの話だと
オレが存在してるのも不思議だし
話したとおりになってないってことは
向こうは向こうで何かしら作戦が
完全には上手くいってないって事かもしれないし
おまえも直接対してモヤモヤを払いたいだろ?」
トムの言うように
モヤモヤは残っていた
あれだけの裏切りを受けて
まだトモを信じたい気持ちが残っていた
その信じたい気持ちが
なおさら心をモヤモヤさせた
たしかに何かあるのかもしれない
考えていても何も分からないし
トムの強さに乗っかって行ってみよう
トムの言葉に押されてそう思えた
「…うん
とにかく行ってみようか
2人がいるとすれば
あの家…
かな?」
他に心当たりもなく
いつも4人で集まっていた家なんじゃないかと
頭にポッと浮かんだ
どうなるかは分からない
今度こそ本当に消されるかもしれない
ただ、これが最後の戦いになる
それだけは感じていた
4
ある町の口出し人になりたての頃は
アイマスクにヘッドホンのスタイルで行き来していた道も
4人で話し合いを始めてからは
何も着けずに車に乗っていた
ただ、監視の目もかいくぐる為に
車の乗り降りの直前にだけ
アイマスクとヘッドホンを着けていた
トムと共に
ある町のまっさらな大地を歩き
しばらく歩いていくと
ある町のエリア外に抜け
大きめの道が見えてきた
トムと2人で持ってた紙に住んでる町の名前を書き
時々通り過ぎる車に向かって掲げながら
大きめの道をひたすら歩いていった
歩き続けること2時間
10トンくらいのトラックが見え
ヘトヘトになりながらも
2人で力の限り大きく手を振った
トラックはスピードを緩めると
2人が立っていた場所の少し前に車を停めた
トラックに近寄り
2人で必死にお願いすると
快く乗せてくれることになった
ある町から自分たちの住む町までは
車でも3時間ほどかかる
しかもほとんど信号もない道でだ
トラックの運転手は気さくに話すタイプで
運転手の家庭の事、仕事のことなどをいろいろと話してくれていたが
トラックに揺られてるうちに
強い眠気に襲われ
気づくと眠ってしまっていた
「…ン!
ブン!
お前は本当に乗せてもらっといて寝るなよな
ほれ!着いたぞ!」
トムにそう言われ目を覚ますと
見慣れた風景が辺りに広がっていた
トラックの運転手にお礼を言い別れると
そこから一旦自宅に戻り
2人で一緒の車であの家に向かうことにした
30分程してあの家に着いた
全てはここから
この家のトビラを開けてからはじまった
そして、いまはあのトビラの向こうに終わりがまっているのかもしれない
希望と不安が交じり合うトビラ…
今は不安のみのトビラをゆっくりと開けた
中からは時計の音だけが聞こえてくる
玄関から廊下にかけて
その音が響き渡っていた
居間のトビラの前に立ち
ふぅっと息をつくと
思い立ったように
トビラを開けた
中にはいつもの4人掛けのテーブルと椅子
そして、そこには不気味なほどいつものようにトモと元オダが座っていた
トモがじっと見つめながら
「どうぞお座りください」
と静かにつぶやいた
オレとトムはトモを睨みつけながら
ゆっくりと椅子に座った
トモはオレを見つめたまま
ゆっくりと口を開いた
「ブン、怒ってるよね。
でも、国に消されると思ったら
ああするしかなかったんだ
ボクと父は国と協力して人間とクローン人間入れ替え作戦を遂行しようと思っている
それしか生きる道はないからね
ブン
トム
ボクはやっぱりそれでも
君たちを消すような事は出来ない
だから、一緒に協力してほしい
ボクたちと一緒に世界を良くしようよ。」
トモは恐ろしいほど淡々と
冷静に話していった
ー「この世界の半分をお前にやろう」
どこかの魔王に誘われているような気分になった
そして、なにかが自分の中で
プツンとキレるのが分かった
それを察したようにトムが
オレを制するように話しはじめた
「なるほどね…
一本とられたまでは良しとしようと思っていたけど
そんな協力じゃ
こちらから願い下げだね
オレたちはヒーローになりたいんだよ
なぁ!ブン!」
…いやヒーローにはなりたくないけど
と心の中で突っ込みつつ
トムに続いて
口を開いた
「…もう一度言う
お前たちのやっている事は
人間のする事じゃない
そして人間の上に人間はいない
神か魔王にでもなったつもりか?
トムの言うように
こちらから願い下げだよ
少しでももトモを信じようとしたオレがバカだったよ
オレは
オレたちは
人間を捨てることより
消されることを選ぶ!」
トモはオレを見つめたまま
表情を一切変えずに
「それじゃあ、しょうがないね」
トモがそう言うと
部屋の奥から
1人の男が姿を現した
大柄な身体に
サングラスとスーツ
研究所でみた
あの監視役だ
その男はゆっくりと黙ったまま
オレたち2人の席に近づいてくる
オレたちは覚悟を決めていた
言うべき事を言い切った
後悔はそこには無かった
ただ、ヒザはガクガクと正直だった
5
男が真横に立つと
トモがフゥと息をついて
「ねっ、言った通りの人だったでしょ?
みなさーん!
どうぞー!」
トモが大きい声でそう言うと
男が現れた奥から
老人夫婦らしき人
スーツを着たサラリーマン風の男
その奥さんらしき人
そして、その2人の子供と思われる
小学生低学年の女の子がゾロゾロと出てきた
その老人夫婦の男と
サラリーマン風の男には見覚えがあった
そう、オレがはじめてあの町に行った時に
話しを聞いた2人だ
オレとトムが目を丸くして
驚いた表情をしていると
トモが申し訳なさそうな苦笑いを浮かべながら
「ごめんね
また騙しちゃった
そろそろ大団円といきましょうか」
トモの言葉にテッテテ〜という効果音が
頭の中に2人ともよぎった
トムは思わず
「こうなったらもう何なりとおっしゃってください」
と呆れたように笑いを浮かべて言った
元オダがオダの時のように
手慣れた感じでコーヒーを沸かし
全員に配り終わると
トモが全体を見渡してから話しはじめた
「さて…と
まずは
あの町の皆さんはみんな元気に生きてます
それぞれがそれぞれの場所で生きていけるように
それぞれが引越ししてきた設定で
それぞれの性格や仕事も考慮して
行き先やその場所に溶け込むところまで
プログラムしたんだ
2年近く一緒にやってもらったのもその為なんだ
2万人分を1人1人プログラム考えていかなきゃいけなかったからね
2万人分を別のコンピュータに保存しといて
あの日に一気にコンピュータに移し変えて
あのボタンを押すことで発動するようになってたんだ
ちなみに、国の計画は本当だからね
失敗したら消される可能性は十分にあったから
だから町の特性を生かして
一時的に町全体を地下空間に全て変化して
表面上は消し去ったかのようにまっさらにしたんだ
そしてブンがつくってくれた交通システムを生かして町の端まで移動して
そこから地上に出られるように地形を変化させて
それぞれの地域に行けるようにして
国にもバレないようにしたわけさ
敵を騙すには
まず味方からって良く聞くでしょ?」
トモはそこまで言うとニカっと笑った
そしてコーヒーをすすると
話しを続けた
「あとね…
そこの大きい男の人
監視役は監視役なんだけど
ボクたちと一緒で
国のやり方に疑問を持ってる人で
いろいろ国の情報をくれたり
いわゆるスパイ的な感じ。」
トモがそう言うと
サングラスをとって
ニッコリ笑った
「だ、だったら別に
その男の人は味方だって事前に教えてくれたっていいじゃないかよ
けっこうビビってたんだぞ!」
オレが思わず不満を言うと
トモは軽く笑って
「だから敵を騙すには味方からって
念には念をさ
ブンにモニターいじってもらったのも
国に本当に反乱の気があることを思わせる為にもしたことで
監視役には常に小型カメラと小型マイクをつけるように言われているからね
今回のような任務外の場所では外して良いことになってるから
全ては作戦成功の為
だから許してね」
トモがてへって表情をすると
トムが
「まっ
オレたちはトモに一本どころか
10本くらい取られてたって事だ
上手くいったんならいいんじゃねーの」
と楽天的に答え
なんか腑に落ちない感があるんだよな
と思っていると
それを察するように
トモが再び言葉を続けた
「それとね
こちらのご老人夫婦とその子供家族なんだけど
彼らは全てを元々知ってる人たちで
水面下で中の状況を逐一報告してくれていたんだ
ボクらだけでは知り尽くさないこともあるし、1人1人もれなく正しくプログラムする為にもね
ブン
トム
本当に助かったんだよ
本当にありがとう」
トモが急に神妙な顔でそう言ってくると
オレたち2人は照れるような困ったような顔で、顔を見合わせてしまった
「いやいや
トモの手のひらで転がされてただけで
オレたち何もしてないぜ。」
とオレが言うと
トモが軽く首を振り
「ううん…
トム
君はずっとあの町以外の世界で生き抜いてくれた
それが無かったら
正直なところ、外の世界に彼らを救出出来たとしても
生き続けることが出来るかが分からなかったんだ
ブン
君のバカ正直な真っ直ぐさと正義感
それが今回の作戦のカギだったんだ
だれしも悪い心に流されやすい
特に権力をもつと人は変わる
プログラムを作り上げる期間の間
欲なくやり通してくれる人が
絶対的に必要だった
君の正義感は間違ってなんかいないんだよ
そして、2人だからこそなんだ
ここに来てくれるかは
賭けなところもあった
ボクの裏切りに呆れて
来てくれないかとも思ったし
でも、それでもどこか信じてくれてるところがあってきてくれた
1人だったら折れていたかもしれない
2人だったら…って」
トモはそこまで言うと
少し涙ぐんだような目をしていた
そしてハッとしたように
「あっ、それとね
国の計画の実行犯なんだけどね
世界中とこの国のマスメディアに情報を送ったよ
オダと国のやり取り
ボクと国のやり取り
計画が分かるように全て証拠を送りつけたから
明日には世界中から非難轟々だろね
スパイ監視役さんにも、計画者のリスト教えてもらったから
全員もれなく情報送っちゃった
悪いヤツは根の根まで絶やさないとね」
トモはニコニコしながらそう言うと
さらに言葉を続けて
「あとね
2人にはもう一つ大事な話しがあるんだ」
トモがそう言うと
元オダが
「その話しは
私の方から伝えよう」
元オダはそう言うと
ゆっくりコーヒーをすすった




