虚像世界
第4章 虚像世界
1
オダは席から立ち上がると
トモに姿勢を正して話しはじめた
「トモ様、申し訳ありません。
しかしながら、ブンさんの発案が良く、想像以上の早さでの発展がみられ
想像以上の早さでの負の反応もみられるようになったもので…」
オダはいつになく早口になっていた
トモは反するようにゆっくりとした口調で
「まあまあ、座ってゆっくり話しましょうよ。
ブンも突然すぎて理解が追いついていないようだし
そもそものところから話していかないと、リセットの事は理解し難いことですよ。
…話したとしても納得出来るかどうかはわかりませんがね。」
トモは話しながら、ゆっくりとオレの横に座った
オダも続くようにもとの席に座りなおした
ートモの言うように
頭の中の整理は全く追いついていなかった
これからどんな話しがはじまるのだろう
なぜトモがこの話しに関わっているのだろう
何よりも
リセット…
その言葉の意味を知ることに特に怖さを感じていた
ーカツっカツっカツっ…
古い柱時計が、静まるリビングにやけに響いていた
トモはオダの用意したコーヒーをゆっくりすすり
一度息をつくと、ゆっくりと話しはじめた
「ハーフワールドカンパニー。
正式名はTOMOTOKIハーフワールドカンパニー
ボクの父が代表をしている。
ボクは父のサポート役として動いて、会社の運営にたずさわっている。
主な運営は、ある町の管理。
オダさんは口出し人と行政との交渉
ボクは口出し人の人選と面談
…ただ、オダさんの役割は表向きの話し。
オダさんとは代表である父と話しを詰めて、町の変化に反映していっている。
もちろん口出し人の意見を元にしてね…」
ートモの話しを聞いているうちに、少しずつ落ち着きを取り戻したオレは
トモの話しに割り込んで質問した
「…父と話しを詰めるって
それでお前のお父さんと、町の行政が話し合ってった事か?」
「…いや、町の行政との話し合いはしないよ。
そもそも、町の行政自体が存在しないって言った方がいいのかな。
町自体が作られたもの…。
プログラムの上に成り立っている。
あの町はそういう町なんだ。」
トモは表情を変えずに淡々と話している。
プログラム?
作られたもの?
トモの言葉にますます疑問が増えていったが、トモの続きの言葉を待ってみると、疑問を感じとるかのようにトモが話しを続けてきた
「…簡単に言うと、町の人たちはクローン人間なんだ。
町の建造物や地形自体が、プログラムによって形を変えられるように特殊な素材で作られている。
町の人たちはあの町の範囲内だと、そのプログラムに反応するようにプログラミングされていて、姿自体は元々の実在する人間から汲み取ったエネルギーから作られているから、その実在する人間と同じ姿になるが、プログラムで、年齢や体型は変更する事が出来るようになっている。
ただ、エネルギーを汲み取っている分、変更する度に、その実在する人間のエネルギーは消耗してしまうのが難点なんだけどね。
ここまでシステムを言えば、何となく理解が出来てきていると思うけど、何か聞きたいこととかあるかな?」
ートモの言うように理解が追いついてきた
という事はリセットの意味も…
少し怒りが湧いてきた感情を
トモに言葉としてぶつけた
「…要は、人様のエネルギーを使って、実験をしてたってことかよ。
まだよくわかんねー部分もあるけど、それは何か違うじゃねーのか?」
ートモは少し冷たい笑みを浮かべると
「実験だなんて言うと、かなり悪い感じするけど
でもおかげで他の現実の町で良くなってある街もあるんだ。
…オダさんも言ってたでしょ?
トータルでプラスになることなら仕方ないことだって。
リセットの意味も、もう理解し始めていると思うけど
いわばボタンひとつでプログラム通りに変更するってことさ。
あの町に住む人たちには何も痛みも何も起きる事なく、思考も身体も変化していく。
気づいたかもしれないけど、あの町の情報ももちろんプログラムされているものがテレビだったり、新聞で表示されている。
…エネルギーに関してはね。
でも、特殊な素材を通してエネルギーを汲み取っていることで、実在する人間のエネルギーを少量で済むようにしているんだ。
ブンがオダさんに質問したミサンガでね。」
ートモの話しが進むほどにあの町での疑問は解かれていく
ただ、そのシステムへの疑問は話しが進むほどに深まっていった
何か違うー
その違和感ばかりが頭の中で広がっていった
2
〜エピソード トム〜
オレの両親は生みの親ではない
今日突然親から告げられたことだ
いたって普通の両親だったし
何不自由なく育ててくれた
たとえ生みの親ではなくても
今さら言わなかった事とかを恨んだりするような事はない
明るい家庭の中で
特に両親は漫才をするかのように会話を掛け合って
笑いの絶えない家だった
その影響もあって
学校とかではオレはお調子者の存在に自然になっていった
とくに自然と振る舞っていたことが周りにとっては笑える事だったみたいだ
そんな中でブンとも知り合った
ブンもあんまり物事を気にしないタチで
お互いに気を使わずにいられる存在だった
トモとも同じ頃に付き合うようになった
何を考えているのか分からないような時もあったが、ブンが変わりなくトモに接していくのに連動して、オレも変わらぬノリで付き合っていくことになった
両親に生みの親ではないことを告げられた日
両親はその出生についても話した
オレはある女性に、経済的な理由から育てていくことが出来ないと、オレの両親に託された
両親はなかなか子供に恵まれずにいたところへの話しに
二人で相談の上で引き取る事を決めたそうだ
ある女性はその時に、両親に一通の封筒を渡し「彼に真実を伝える時に読んで下さい」とだけ言い、その場を立ち去っていった
その封筒の中には、ある家への地図が書かれていた
そして、「わたしの手で育てることができずにごめんなさい。あなた自身で真実をみつけてくれたら…。」とだけ書いた便箋が一緒に入っていた。
オレは何か嫌な予感もした。
けど、オレがオレ自身の事を知るためにも行ってみたいと思った。
ーその時オレが赤ん坊の時から足につけているミサンガが少し閉まるような感覚になった
不思議なミサンガで、赤ん坊から着けているのにも関わらず
切れることなく、身体に合わせて一緒に大きくなっていった
ミサンガには数字が刻まれている
「106」と
…オレのアダ名の由来となった数字だ
3
オダとトモは淡々と話し続けている
その感情のない伝え方に、フツフツと怒りの感情が湧いてくるのを感じた
ーゲームかよ
率直に思った
他にもいろいろな事が納得できなくて
その中でも、トモに裏切られたような気持ちが一番許せなかった
トモが内容を伝え終わると
こちらの様子を伺うように
「…という事なんだけど
どうかな?
一度リセットしてやり直してみない?」
ーその言葉に何かがプツンとなった
「…トモ。
生命を何だと思ってる。
お前の私物じゃねーぞ。
消された人たちの感情は、心は、何処にいく?
お前たちのやってる事は、人の所業ではないぞ。」
ー不思議なほど、淡々と怒りの言葉が出てきて、自分でもビックリするくらい正義のヒーローのような事を言ってる事に驚いた
ただ、今は言わねばならないと思った
「リセットって。
人生がやり直しできるかよ。
それが有りなら人間の成長は無いんじゃないのか。
やり直しがきかないからこその真剣勝負だったり、カベにぶつかっても越えていこうとするんじゃないのか。
町も一緒だろ。
町も大きな生命体で、そこにいる人間の力で変化していくものであって
成長のない人間のつくる町に発展なんてないだろ。
トモ。
お前自身がそうなんじゃないのか。
作っては壊し、作っては戻し
そこに人としての心は無いんじゃないのか。
お前にとっては、他人事の別の世界のことなんだろ?
オレが感じた違和感はそこにあったんだろな。
昔のお前には、おとなしい中にも人間らしさを感じた。
今のお前は、おしゃべりの中に人間の感情を感じないんだ。
トモ。
…無理してるんじゃないのか。」
感情を一気に言うと
少し息があがって
目が涙ぐんでいた
どこか過去のトモの姿に期待して
トモを信じている気持ちが話しているうちに湧いてきた
トモはなにかを考えるように押し黙って
オレを見つめている
オダも同じように押し黙り
少し下に俯いている
時計の音だけが鳴り響き
しばしの時が流れた
ーフゥっと息をつくと
トモが口を開きはじめた
「…ブン。
君はボクの思った通りの人だったよ。
やっぱり、君で良かった。
ブン。
ボクたちを助けてくれないか?」
「…えっ?」
トモの突然の意外な言葉に
思わず驚いた声をあげた
ただ、今までの凍りつくような空気の中に
どこか暖かい風が吹くような感じがした
トモの表情は、虚像の顔から
オレの良く知る顔に変わっていた




