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「今度こそ、街へ行こう!」

 2




 魔王城を出て街道を歩く、今度は迷う事もなくまっすぐ街へと向かえそうだ。


「そういえば出会った時、なんであんな風に取り囲んだんだ? 街の人達を傷つけるのは海斗の望む事じゃないんだろ?」


 城を出て思い出したのは、海斗カイトと会ったさっきの事だ。あの時は本当にこのままオレの二度目の人生も終わるんだと思った。


「あれか。城のヤツに聞いたんだが、なんでも魔王城を襲撃しに来る冒険者がたまにいるらしくてな。目的は城にある金目の物を強奪していく事だったり、レベル上げと称してモンスター達を攻撃したりと、色々らしい。そんな奴らから城を守るのも城のあるじたる俺の仕事だからな」


「ウチの城が襲われた事はなかったけどな」 と、つけ加える。

 たしかにゲームだったらそれが正解なのだろうけど、城で生活しているの海斗カイトの仲間達を見ていたら、そんなに悪い存在ではないのではないかとも思っている自分がいる。


「聞いたって言ってるけど、やっぱり海斗カイトには彼らの言う事が分かるんだね」


 鏡花キョウカの言葉に海斗カイトは驚いた顔をしていた。


「お前達にはどう聞こえてるんだ? 俺には普通に日本語を話しているように聞こえてるんだけど」


「まったく分からないよ。強いて言えば雄叫びって感じ」


 俺の言葉に、海斗カイトは頭を抱えた。


「そうだったのか。だからか……街にみんなで話し合いに行った時、挨拶した人全員の顔が強張こわばっていたのは……」


 それはそうなるだろう、通り過ぎる人のみんなに「!?!?!?」 なんて叫び声を上げていては恐怖で顔がひきつるはずだ。


「街に着いたら説明しないとな……あと、アレも……」


 ブツブツと何かを言いながら、こめかみを抑えて考え出したが、そんな事よりもオレは気になっている事があった。


「なぁ、海斗カイト。さっきから気になっていたんだけどさ」


 俺は、そう話しながら海斗カイトの背をにある物を指さした。


「その大きな袋は一体なんなんだ?」


 黒い紐のついた大きな巾着袋。

 城を出る時から持っていたのだけど、なんだか妙に大きいうえにガチガチと金属が擦れ合うような音がしていて、なにが入っているのかどうにも気になってしまう。


「これか? フフ、後でのお楽しみだ」


 そう言って、彼はなんだか意地の悪そうな笑みを浮かべる。


「お、見えたぞ」


 森を抜けた正面にレンガ造りの建物群が見えてきた、まるでドラゴンなんかが出てくるゲームに出てきそうな雰囲気の街並みだった。


「アレが……」


 オレのつぶやきを聞き、鏡花キョウカが言葉を繋ぐ。


「そう『プリート』 だよ」



「いらっしゃい! お、そこの可愛らしいお嬢ちゃん! 一個どうだい? ウチの野菜は美味いぞ!」


 街道を歩いていくと、その道がそのまま街の中を通る大通りへと繋がっていた。

 大通りの左右には色々な商店が立ち並びトマトやナスなど見た事のある物もあったけど、なんだかよく分からない形状をした物もあり、なんだか不思議な気分だった。


(本当にここは日本じゃ……いや、地球じゃないんだな)


 あらためてこういう物をじっくり眺めていると、ここが知っている場所ではないと思い寂しくなってくる。仲のいい友人が一緒にいるのは心強いが、家族や他のクラスメイトはどうしているのだろうか? やっぱり、心配しているのだろうか?


(健太のやつ。父さんと母さんにわがまま言ってなきゃいいけど)


 弟の健太は反抗期真っ盛りで両親とは口論ばかりしていたけど、オレ位はアイツの話を聞いてやろうと思ってたんだけどな。


「おや、キョウカちゃん。今日はどうしたんだい?」


 オレの考えは女性の声で消された。その方向を見ると、鏡花キョウカが商店の恰幅がいい女性店員さんと仲良さそうに話をしていた。

 だが、


「ひぃぃ!」


 店員さんが急に怯えた声を……いや、悲鳴をあげる。その視線の先にいたのはオレ達の後ろに立つ、角を生やした海斗カイトを見てだった。

 悲鳴を聞いて駆けつけた街の人達はザワザワと慌て始めた。


「あれって、魔王よね!?」


「ああ、間違いねぇ! あれはあの時の男だ、この目で見たんだからはっきりと覚えてるぜ」


「なんでまた来たの!? また侵略ごっこでもする気なの!?」


 やっぱり誤解されているようだ、それにしても侵略ごっこって。


「ま、待って下さい! 彼は魔王ですけど……でも、私の友達なんです」


 魔王と友人。そんな事を言った鏡花キョウカにも疑いの眼差しが向けられるんじゃないかとも思ったのだが、


「キョウカちゃんの友人なの?」


「あのキョウカちゃんのか。なら、魔王ってのもそんなに悪い奴じゃねぇのかもな」


「キョウカちゃんは勇者様だしな。うーん、でもソイツは魔王だし」


 オレの杞憂だったようで、この街での鏡花キョウカの心証はすこぶる良いようだ。一体何をどうしたらこんなに厚い信頼を得られたんだろうか?

 人垣の中から、赤毛で目が印象的な少女が飛び出してきた。


「セリス! そっちに行っちゃ駄目よ!」


 セリスと呼ばれた少女はテトテトとオレ達の前に立つと、海斗カイトの服の裾をつまんだ。


「セリス!」


 先程の女性が再度叫ぶ、今度は鬼気迫る声だった。


「ねぇ、おにいちゃん?」


 少女は不思議そうな顔をしながら海斗カイトに話しかけた。


「おにいちゃんとキョウカおねえちゃんって、おともだちなの?」


「ああ、そうだよ」


 海斗カイトの答えに、少女はパッと笑って、


「なら、キョウカおねえちゃんとともだちのワタシとも、おともだちだね!」


「プッ」 っと、誰かが噴き出す声が聞こえ、その笑いは徐々に伝播していき、その場の雰囲気を一発で変えてしまった。


「友達の友達は友達か、違いねぇな」


「キョウカちゃんが大丈夫って言うんだったら大丈夫ね」


「おっし、みんな仕事に戻るぞ!」


 オレ達の周りに出来ていた人垣が去っていく、その中から女性こちらに駆け寄ってくる。


「もう! セリスったら!」


「おかあさん!」


 女性は少女を抱きしめた。


「あんまり心配させないでよ、もう」


「ごめんなさい。でも、あのおにいちゃん。そんなに悪い人には思えなかったよ」


「全くこの子ったら」


 痛いよ、と母親の腕の中で少女は喋る。


「すみません」


 と、鏡花キョウカが謝る。


「いいのよ」


 と、彼女は頭を下げて少女と手を握って去って行った。


「魔王って大変だな」


 オレの言葉に、


「本当にな」


 と、海斗カイトは苦笑いをしていた。


「お、キョウカじゃん。ヤッホー!」


 店の中から出てきた女性がこちらに手を振りながら走って来る。


「ソフィー!」


 ソフィーと呼ばれた女性はオレ達より十歳くらい年上に見える。長い髪を適当にまとめた髪型とだぼだぼのツナギのような作業着、なによりもその右目につけたモノクルに目がいく。


「なになに? なんだか騒がしかったけど、なにかあったの? 掘り出し物があったから夢中で見てたんだけど」


 彼女は先程の事を知らなかったのか、そんな反応をした。


「おや? キョウカちゃん? なに、そのかっこいい人」


 彼女は笑いながら鏡花キョウカと肩を組む。


「もしかして、恋人?」


 鏡花キョウカの顔が真っ赤になる。


「ち、違うよ! そんなんじゃないって」


「またまたァ。おや、あなたは……」


 彼女は海斗カイトの顔をジッと見る、またさっきみたいな事になるのかと身構えた。


「この間やって来た魔王だね」


 けど彼女は対して怯える事もなく、冷静に話した。


「俺の事を知っているのか?」


「もちろん。あの話し合いの場にはアタシも居たからね」


「なら……」


 海斗カイトが何かを話そうとするのを制するように手をかざし、


「今のアタシは単なる市民だ、野暮な話はまた後でね。それに……」


 ムニッ!


「このかわいこちゃんは誰?」


 いきなり胸を揉まれ、一瞬で後ずさる。


「な、なにすんだよ!?」


「いいじゃん、女同士なんだしさ」


 鏡花キョウカといい、彼女といい、女性ってのはこうも簡単に人の胸を触るのか!?


「待って、ソフィー」


 ワシワシと指を動かして接近するソフィーとの間に鏡花キョウカが割って入る。


「彼女は私の友達で信吾シンゴって言うんだけど……」


「そう。よろしくね、シンゴちゃん。さてこんな所で立ち話もなんだし……」


 彼女はカリカリと頭を掻くと、


「よし! じゃあ、ゆっくりと話ができる場所に移動しよっか」


 そう言って彼女を追ってオレ達は歩き出した。

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