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「よみがえり魔王になれ!」


 海斗カイトは、グラスの中のジュースを飲み干した。


「二人も死んだ原因は分かってるよな?」


 オレと鏡花キョウカは頷いた。


「じゃあ、ふたりも神様に会ったんだろ?」


 ひとつひとつを確認をするかのように尋ねてくる。


「オレはシェダムっていう子供に」


「私はプラケニア様だったよ。綺麗な女神様だったよ」


 そうか、と海斗カイトは納得したように頭を振った。


「全員違うんだな。俺の会ったのは黒髪の悪神あくしん、ディアネグロだ。それにしても、全員バラバラとは、さすが三神の世界『トリズモ』だな」


 シェダム、ブラケニア、ディアネグロ。

 それがこの世界の神様達って事か。


「そのディアネグロはな、会った早々にこう言ったんだよ『お前は死んだ。そんな命を蘇らせてやるのだから、喜んで魔王をしろ』 ってな」


 さすが悪神、言ってる事がゲームの中の魔王みたいだ。


「俺は速攻で「嫌だ」 って言ってやったけどな」


 さすが海斗カイト、悪神すらも気にしない俺様根性だ。


「第一に俺にメリットがないだろ? 世界をもらいたいなんて思ってないし、知り合いのいない世界で生きていくなんて御免だったからな」


 海斗カイトの父親は「真鍋まなべ製薬」 の社長で、その国内シェアは子会社も含めて20%を越している。そんな海斗カイトが望めばなんでも買ってもらえるだろう家庭だったし、成績優秀で運動神経も抜群、女子にもモテた。

 完璧な海斗カイトは、完璧だからこそ望みがなかった。


「そうしたらディアネグロは慌て始めたみたいでな『それならば、魔王として仕事をしてくれたら生き返らせてやる』 って言い出したんだよ。それならお前達とも会えると思って、即了承したって訳さ」


「生き返らせる!?」


 驚いた。悪心はそんなことが出来るのか!?


「え? 信吾シンゴは知らないの?」


「はい?」


 鏡花キョウカは普通の事を話すかのように、とぼけた声で話した。


「私は『世界を平和にしたら生き返らせる』って言われたんだけど……」


 オレの表情からなにか察したのか、鏡花キョウカの声が小さくなる。


「オレ、聞いてないんだけど?」



「うーん……まあ、気にするなよ」


 なぜかそんな慰め方をする海斗カイト、ちょっと笑ってない?


「聞かされたなかったなんて思ってなかったよ、ごめんね」


 と、謝る鏡花キョウカ


「あの、神様はどうしてこう重要な事を……ほんとにさぁ……」


 オレは、あの自称神様に腹を立てていた。


「生き返れるかもしれないなら、なんで教えないんだよ。まず第一にオレはどうすればいいってんだ。それにこんな姿で……」


 あー、腹が立つ!


「まあ、落ち着けよ。な?」


 そう言って海斗カイトが目の前のグラスにジュースを注ぐ。


「そうは言われても……」


 グラスを傾けて中身を飲む。

 ゴクゴク、美味い! って、そうじゃなくて。


「シェダム! 聞こえているんだろ、なぁ!」


 オレ達以外は誰もいない部屋で、天井を見上げて大声を出すオレを、二人は不思議そうな顔で見ているが、気にせずに続ける。


「おい、聞こえているんだろ? 自称神様!」


 しかし、あの小生意気な声が聞こえてくる事はない。


「そんな事したって聞こえないだろ?」


「私もそう思うよ」


「さっきはこれで返事をしたんだよ」


「そうなのか。俺はここに来てから悪神の声なんて聞いてないぞ」


 海斗カイトはさも当然のようにそう返した。


「私もだよ」


 鏡花キョウカも頷き、肯定する。

 オレよりも先に来ている二人がそろってそう言うって事は、シェダムのした事はこっちに来た人からしても一般的な事ではないのだろうと思った。

 ホントにアイツは……はあ。


「ったく、仕方ないか」


 文句を言っててもしょうがない。


「それで? 生き返る為にふたりは行動してたのか?」


「まあな。オレは魔王として仕事をしろってのは、要するに侵略だろ? それで軍備増強してたんだが、さすがに人里を襲わせるのは気が引けてな」


「私は勇者として依頼を受けてたんだけど、モンスターさん達を倒すのはなんだか可哀想で」


 「だから、あんなほとんど無抵抗な状態になっていたのか」 そうオレがつぶやくと海斗は、「なんのことだ?」 と尋ねてくる。

 オレと鏡花が出会った時の状況を彼に説明した。


「なるほど。最近、子供スライムの前で剣を振って遊んでくれていたのは鏡花キョウカだったのか。彼らの両親が感謝していたぞ」


 まさか剣を振っていた当の本人はただ怯えていただだけなんて、スライム達は思ってないだろうな。

 海斗カイトは重ねて聞いてくる。


「そういえば、鏡花キョウカはどうしてあの森にいたんだ?」


 鏡花キョウカはオレに話してくれた事を海斗カイトにも話した。


「活動が激しい? どういう事だ?」


 海斗カイトは首を傾げていたが、「マスク」と話すと先程のマスクをつけた銀髪の人が、どこからともなく現れた。

 オレは驚いていたが、海斗カイトは気にもせずに彼に話しかける。


「あの森で行動している者を見せてくれるか?」


 マスクの彼は頷くと、ボロボロになったマントの中から手を覗かせる。その手のひらを上に向けると、青い地図のような物がその上に現れた。その地図の所々には赤い点が何個もあり、特にある一カ所に集中していた。


「この赤い点がたくさん集まっているのが魔王城ココなんだが、森の中にはスライムと……チェイスベアのみだな。ああ……そういう事か」


 海斗カイトは笑いながら「ありがとう」 とマスクの人に告げると、彼はその場から消えた。


「なにが分かったんだ?」


「いや、なんてことはない。ここ最近な、モンスター達に子供が出来てな。彼らを遊ばせるために、ここ一週間ほど外に遊びに行かせていたんだが、それをモンスター達の行動が活発になったと街の人達は思ったんだな」


 ああ、なるほど。モンスターとはいえ、子供ならば外で遊びたいと思うのだろう。それを海斗カイトが叶えてやったら、街の人が勘違いをしたという訳か。


「まったく、街の役所にこちらの交戦の意思がないことは伝えているというのに。市民全員には話が伝わっていないのか?」


 海斗カイトはこめかみに指を当てていた、彼の考える時の癖だ。


「うん、そうだ。決めた」


 ニヤっと笑う。


「俺も街に行こう」


「おいおい、魔王がそんな事してもいいのか?」


 オレの知っているゲームの中の魔王ってのは、自分の城からは動かないでやってくる勇者を待っているものだと思っていたんだけど。


「もしかしてゲームの魔王かなにかと、俺を重ねているのか? そんなモノ、俺には関係ないだろ?」


 そう話す彼は悪い顔をしている、海斗カイトが面白がっている証拠だ。


「それに、あの街に行ったのは初めてじゃないんだ。こっちに来たばかり頃に、みんなと一緒にプリートに行って話を通してきた事があるしな」


 さっきの伝えてるってのは、手紙とかじゃなくて直接だったのか。


「よし、そうと決まれば! マスク!」


 先程のマスクさんが再度出てくる。というか、海斗カイトはさっきから彼の事を、マスクと呼んでいるんだけど、もしかして名前が「マスク」なのか。


「マスク。これから俺は少しばかり城を開ける事にする。それでだ、お前に頼みたい事がある」


 やはり「マスク」が名前のようだ。見たまんまな名前なのだが、このセンスは……


「副官であるお前に当分の留守を任せる。それと、クマ子には育児全般を。草夫には、小麦の継続栽培を頼む。あと、スラ山には周辺の警戒を引き続き頼む」


 やっぱり海斗カイトか。こいつ、文武両道を地で行くような男なんだが絶望的にネーミングセンスがない。

 昔、恐竜を育成するゲームに名前をつけた時に「ティラさん」という名前をつけていた。

 海斗カイトはマスクさんに話を終えると、


「すこしだけ準備をするから、待っていてくれ」


 と、オレ達を食堂に待たせて奥に引っ込んだ。



「待たせたな」


 海斗カイトは数分ののち、先程までの服装ではなく動きやすそうな格好になってやってきた。


「さあ、行こうか」


 大きな扉を開けると、そこにはたくさんのモンスター達が待ち構えていた。


「!?!?!?」


 大きな叫び声というか、鳴き声は魔王城のホールいっぱいに広がり空気そのものが震えているようだった。あまりの声の大きさにオレと鏡花キョウカは耳を塞ぐ。

 スッと、海斗カイトが左腕を上げた


「皆の者、静まれ!」


 ピタッと声が止む。


「皆の気持ちはわかっている、そんなに悲しむ事はない。ほんの少しだけ、人間達の街に行くだけだ。私は必ずここに帰ってくる、それまで待っていてくれ!」


 再度、大きな声が放たれた。


「では、行ってくるぞ!」


 その声はオレ達が城から出てもしばらく響いていた。



 トリズモであっても、トリズモには無い場所。そこには誰に向かってでもなく話す金髪の女神がいた。


「まさか、こんな事になるとは思ってもいませんでいた」


 白の玉座に座る神『プラニケア』は起こった事態に憤りを感じていた。


鏡花キョウカの友人が、あなたの手先になっているだなんてね。ディアネグロ」


 そこには別の玉座があった。黒い玉座、そこに座る悪神『ディアネグロ』

 彼は長い黒髪を掻きあげると、


「それはこちらの話だ、女神プラニケアよ。海斗カイトには魔王としてのセンスを見出したというのにこんな事になるだなんて。だがな、ヤツは凄いぞ」


 悪神は口が裂けるかのように笑って見せる。


「それはこちらとて同じです。鏡花キョウカは今までの誰よりもやさしく、そして勇気のある強い子です」


 女神はいたって態度を変えずにそう話すが、内心は穏やかではないだろう。


「ふん、まあいい。最後に勝つのは俺だ」


 そういって悪神は女神から目を逸らした。


「まあまあ、お二人とも。落ち着きましょうよ」


 その場にはもうひとりいた。

 金の玉座に座る少年のような姿の神『シェダム』


「女神の手先は許せんが、何よりも解せないのはお前だ。シェダム」


 そう悪神は話すが、その声には女神と会話をする時ほどの憎悪はなかった。


「僕?」


「そうだ。アレはなんだ?」


「そうですよ、シェダム。あの人間は一体、何のために?」


「彼、いや彼女か。アレは、ただのひまつぶしだよ。それ以外に深い意味はないさ。まさに、神のいたずらって奴だね」


 シェダムは笑う、ニコニコと楽しそうに。


「そうした方が面白いだろ?」


 シェダムは本当に気まぐれで動いたのかを、彼らは測りかねていた。

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