「ブジョニアの代表」
この人が街の代表なのか。
え? 街の代表ってこんな所に一人で来るようなものなの?
そんな事を思いながら、街の方へと進む二人を追いかけた。
「またこんな所にまで来ているんですね、テンペスト代表」
「そう言うなよ、ソフィー。それにフィールドワークする地区代表ってのもそうそう居ないだろ。お互い様だ」
このテンペストさんが特殊なのか。
「それにしても手紙でデンワの調子が悪いってありましたけど、どういう状況なんです?」
「ああ、それか。デンワにおかしなノイズが乗っててな、ガリガリと耳障りな音で迷惑だったんだが、今はそれどころじゃなくなってな」
「デンワ以外にもなにか?」
テンペストさんは考え込むように腕を組むと、
「とりあえず見てもらった方がいいな。さて、ようこそ『転職の街』 ブジョニアへ!」
街道からブジョニアの入り口に来ると人の流れが急に増えた。
「さあ、こっちだ」
そういうとテンペストさんが街灯の前へと立ち止まった。
「ここをこうして……」
テンペストさんが街灯の裏で何かを操作すると明かりが灯った。
「こんな具合なんだよ」
明かりが時々弱くなる、と思いきや急に懐中電灯を当てられたかのように眩しく光る。
「これは電力が不安定になっているのかしら? エレキストーンの方は?」
「特に異常はないとエレキストーン専属の精霊人は言ってた。しかし、ストーンに影響がないんだとしたら何がどうなっているのやら、だ」
エレキストーンってなんだろう? と、聞きなれない言葉に首を傾げていると、鏡花も同じような顔をしていた。
「エレキストーンってのはね、採掘された時から電気を帯びていた石の事で外灯や役場の電力供給に使われているの。でね、私の作った簡易通信機『デンワ』 の方にもごく僅かだけどエレキストーンを使っているの。もしかしたら、今回の問題はその辺りにあるのかもね」
ソフィーはそういうと何かを確認するかのように、ブツブツとひとりごとをしだした。
「エレキストーンを知らないという事はお前達ふたりは転生者なのか?」
「はい」
鏡花が返事をする。
「名前は?」
「信吾です」
「鏡花です、よろしくお願いします」
「よろしく」 と、差し出された大きな手と握手をした。
「ところで、だ。お前達、今日の宿は決まっているのか?」
テンペストさんの言葉にソフィーはひとりごとを止めて、
「いえ、まだです」
「そうか。ならばワシのおすすめの所なんかはどうだろうか?」
「いいんですか?」
「もちろんだ、ついてきな!」
スタスタと肩で風切るテンペストさんの跡についていく。
「よう、代表! 今日も査察という名のサボりかい?」
「違うぞ、ドゥージィ! サボりという名の査察だ!」
「ハハッ! 訳分かんねぇな! ほら、今日入荷したりんごだ。持ってきな!」
ドゥージィという名の八百屋のおじさんは、赤々と輝くりんごをテンペストさんに放り投げる。
彼は止まりもせずに飛んできたりんごを簡単に受け取ると、そのまま齧った。
「流石はこの街一番の八百屋『ドゥージィ』 だ。最高の味がするぜ!」
「そうかい、そりゃよかった!」
その後も大通りを進むテンペストに声をかける人は絶えることがなく、その度に彼は返事をしていた。
「代表。ウチの水の出が悪いんだけど、なんとかならないかねぇ」
「シーリ、担当のヤツに伝えとくよ。時間がかかるかもしれねぇが、そん時はちょっとだけ待っててくれないか?」
「分かったよ、代表!」
「代表! うちの爺様の体調が良くないんだ、どうしたらいい?」
男性のその言葉に彼は足を止め、
「ジローさんが!? どうな塩梅だ?」
「風邪をこじらせたのか、それから床に臥せっていて……」
「分かった。一時間後に医者を連れてお邪魔するよ」
「でも、今はお医者様に払うような持ち合わせが……」
「そんな細けぇ事はワシに任せろ!」
男性はその場に泣き崩れた。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「こんな事で泣く事はないぞ。ほら、ジローさんの看病をしてやんな」
「はい!」
涙で濡れた顔を擦ると、彼は立ち上がり駆けていった。
「テンペストさんって、人気があるんですね」
プリート代表のブライアンさんとは対照的な印象で、彼は周りに支えられているカリスマでテンペストさんはみんなを支えるカリスマ。
同じカリスマでもその要素はそれぞれ違い、両方とも良いなと思えた。
「だからこその代表なのよ」
ソフィーがオレの独り言に、そう答えた。
「能力が秀でているから、それもいい。けどね、ひとりで足りないなら誰かが補えばいい。そうなったら何より大切なのは信頼よ」
さすがはプリートの南区代表。
「すまん、待たせた。こっちだ」
テンペストさんは止めた足を再度進めて、
「ほら、ここだ」
『イコミリヤ』 という看板のかかっている三階建ての大きな建物前で止まり、おもむろに扉を開いた。
「よう、やってるか? おじさん」
扉についた『OPEN』 の文字が揺れている。
「おや、テンペスト坊やじゃないか」
整えられた立派な髭の男性がカウンター越しにテンペストさんと話す。
「この三人のお客人、おじさんの店に泊めてくれないか?」
「突然来て藪から棒だな。まあ、いつもの事だけどな」
「代金はこっちで持つから、頼むよ」
「いらないとか言うなよ」 とテンペストさんに機先を制されたが、オレ達はその行為をありがたく受けさせてもらう事にした。
「断るなんて言ってないさ。自慢の甥っ子の頼みだからな」
言うと同時に男性は鍵を三つ、カウンターの上に置いた。
「部屋は三階です、ご飯もつきますので」
鍵を受け取ると『304』 と書かれていた。
「じゃあ、荷物を置いたら役場まで来てくれ」
テンペストさんはそう言って宿を出て行った。




